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優しさと甘さと無責任さと

なんだか篠原涼子の『恋しさと せつなさと 心強さと』みたいなタイトルになってしまったが、優しさと甘さは似て非なるものだ。

本当の優しさは、厳しさと責任感を含んでいる。

僕は次男坊で母親に甘やかされて育ったため、昔から厳しい年長の男性が苦手だった。

父性を感じさせるような威厳ある男性と対峙した際、今でも緊張してしまう。

昔から男性の教師は、にこにこして穏やかな人が好き。厳しい人とはそりが合わなかった。

しかしだんだんと年齢を重ねるにつれ「ただただ甘やかすことは、優しさではなく責任逃れなのではないか?」という気がしてきた。

人をはけ口にするような怒り方をする人は言語道断だが、しっかり相手に関心を向けた上で、成長を促す厳しい言葉を掛けてくれる人がいることに、ようやく気づけたのだ。

いつも僕は、大事なことに気づくのが遅い。

お肉屋さんで1年ほどバイトしたことがあったのだが、ここの主任が厳しい人でよく叱られ怒鳴られた。

最初はバイトに行くのが嫌でしかたなかったものの、だんだんと「愛情を持って叱ってくれているんだ」というのが理解できるようになった。

この主任には今でも感謝している。

もうかなり前の話だが、仕事関係である年長の男性のTさんと仲良くなり、その人のおうちへ遊びに行く機会があった。

Tさんは、細見で小柄な方でいつも「すみませんねえ」と頭をぺこぺこ下げているような人で、どこか憎めない愛されキャラだった。

Tさんは、奥さんとひとりの娘さんがおられたのだが、ほぼ料理担当はTさんだった。

彼は「家族が美味しいと言ってくれるのが嬉しいんです」と、奥さんや娘さんの「あれ食べたい」「これ作って」にひたすら応え続けた。

その結果、どうなったかというと、奥さんも娘さんも太ってしまった。

ぽっちゃりどころではなく、健康に支障があるほどの太り方だった。

そしてその家で暮らしている犬や猫もまた太っていた。

Tさんの家に行くと、彼がひたすら料理をして、家族が四六時中何かを食べている。

Tさんは催促されると絶対に断らない。

犬が「もっと食い物をくれ」と要求すると、「おお、よしよし」といって嬉しそうに食べ物を与える。

犬が食べ終わったあと「ワンワン」と吠え「まだ足んねーよ!」と求める。

Tさんは「食べな、食べな」と、ニコニコしながらまた与える。

その光景を目の当たりにし「こりゃあ、こういう太り方するよなあ」と、妙に納得してしまった。

Tさんのご家族その後、どうなったかは知らないが、愛犬、愛猫は健康を崩して10歳になることなく亡くなったそうだ。

犬や猫も健康に心配りしないと、人間同様、生活習慣病に罹患する。

Tさんは一見優しい人に映ったが、今振り返るとクレイジーな甘やかしをひたすら続けていたようにも思える。

優しさと甘さはよく似ている。

そして過度な甘やかしは、もはや狂気の沙汰かもしれない。

藤子F不二雄の名作短編『コロリころげた木の根っ子』をふと思い出した。


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