酩酊と饒舌のあいだ


お酒がそんなに好きではない人に、なぜ酔っ払うほどお酒を飲むのか?と聞かれることがある。純粋な疑問として。全くもって答えに窮する質問ではあるけども、一つ言えるとしたら、素面の自分は真面目で面白くない人間だからと言う引け目があるからだと思う。
酔うと少し饒舌になったり、こうあるべきと言う事から解放されるような気がする。でも時々記憶もなくなる位酔っ払って、翌日にあなた昨夜こんなことを言っていたよ、と言われて、その内容が全く自分が心にも思っていないことだったりするので驚く。
例えばあんまりふだんお酒を飲んでなかった学生の頃、六甲の地ビール飲み放題で酔っ払った時のこと。所属していた文学研究会と言うとんでもない隠キャの集まりのサークルの飲み会だったんだけど、その時に私がフェミニズムの話をしだして、
"上野千鶴子はフェミニズムを説くにはあまりに美人すぎる"
と何度も言っていたということだった。
けれども大変失礼を承知の上で書くと私は上野先生のことを美人だと思った事はついぞないのであった。
あと最近の話では、この前酔って鍵をなくしたことが脅迫観念になっていて、鍵がカバンの中にあるのにないと思い込んで家の中に入れないということがあった。
その時、酔いが冷めてから気づいたのは、鍵を探して見つけられなかったことが部屋に入れなかった根本的な原因なのかというと、実はそうではなくて、鍵を使えば家の中に入れるということがわからない状態だったのではないかと言うことだった。
最近歳のせいもあってか、酩酊状態の時に認知が弱まりすぎて、普段できることがなかなかできなかったりして危険を感じる。
職業柄、認知症についての話を聞くことが多い。認知症になるといわゆる日常生活動作がだんだん難しくなる。一方で温厚な人格の人がすごく怒ったり、品行方正な人が極めて卑猥なことを言ったりもするらしい。
例えばトイレに行って排泄をすると言うことひとつをとっても、普段何気なくできていることではあるが、実はいろいろな動作のひとつながりであって、
そのうちの1つでもできなくなると問題が生じると言う話であったりとか、
酔っ払ったときの自分を思い出すと、なるほど歳をとって意識がどんどん遠くに行けば、そういうことがあるんだろうなと、わりと結構自分ごととして分かったりするから面白い。
これを読んでる人は面白くもなんともないよ、大丈夫かよ、と思うだろうけど、今はビールを一本しか飲んでなくてまだ素面なので許して欲しい。

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