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除細動器と元カレ

お買い物に行く途中、教会の前に新しく除細動器が設置されているのを発見しました。999に電話をすると、コードを教えてくれるので開けて使うタイプです。携帯の普及で誰でもどこでも電話ができる時代になったのでこういう鍵(コード)付きタイプが出回るようになったのでしょう。

新しく設置された除細動器

除細動器はあっという間に普及して、日本でもよく見かけるようになりましたね。目の前で誰かが突然で倒れたら不整脈→心臓発作→心停止を疑って、一般市民でも心臓マッサージ(胸骨圧迫)を素早く開始し、AED=Automated External Defibrillator=自動体外式除細動器(電気ショック)で心臓の動きを再開させるようにと懸命な市民教育が進んでいます。

日本では毎日多くの人が心臓突然死で命を失っています。
心臓が原因で突然心停止となる人は、なんと1年間で約8.2万人。
一日に約200人、7分に1人が心臓突然死で亡くなっています

日本AED財団HPより
原因の多くは「心室細動」と呼ばれる重篤な不整脈です。心室細動になると心臓は震えるのみで血液を送り出せなくなります。いわゆる心停止の状態です。 数秒で意識を失い、数分で脳をはじめとした全身の細胞が死んでしまいます。 心室細動からの救命には迅速な心肺蘇生と電気ショック(AED使用)が必要です。

グラフは心停止となってから電気ショックまでの時間と救命率を示したものです。 電気ショックが1分遅れるごとに救命率は10%ずつ低下します。 119番通報をしてから救急車が到着するまでの平均時間は9.4分。 救急隊や医師を待っていては命を救うことはできません。 突然の心停止を救うことができるのは、その場に居合わせた「あなた」しかいないのです。AED財団HPより

私には幼馴染の同級生がいて、6歳の小学校に上がるちょっと前から今までずっと付き合いが続いています。一時期の元カレでもありました。1ヶ月に1回くらいメールをやり取りしたり、数年に1回くらい会ったりする仲ですが、この彼、心停止になったことがあります。

2015年の年末ちょうど今頃。その頃私は北京に住んでいました。日本へのバッシングが酷い頃で、元カレから、「中国北京になんて住んで心配だよ」、なんて時々メールが来ていたのですが、1ヶ月以上音沙汰がない時期がありました。メールは私が1通書けば、彼から1つ返事が来て、のやり取りが普通で返事がなくてもあえて2つも3つも続けて送るような感じではなかったので、気になりつつも忙しいのだろう、と放っておいたのです。ただ、いつもならやり取りする「あけおめ」がなく、おかしいな、とは思っていたのですが . . . 。

1ヶ月以上経った後、来たメールにびっくりしました。

12月28日 職場で突然意識を失い倒れる
→たまたま居合わせた同僚が最近一般市民向けの BLS=basic life support 講習を受けており、すぐ心臓マッサージを開始
→救急車到着まで17分。ここでやっと除細動、救急車の中でも心停止続く。自発呼吸もなし。
12月30日 意識戻る、でも暴れて点滴外すので、全身固定。
1月2日 記憶が戻る。
1月3日 ICUに移動。
1月4日 心臓カテーテルアブレーション手術。
1月22日 退院。

短いメールだったけど、淡々と、「死後の世界はなかった」と書いてありました。どれだけ私がびっくりしたか、想像できるでしょう? 上のグラフで言えば「電気ショックが1分遅れるごとに救命率は10%ずつ低下」し、彼の場合、救急車到達の17分では救命できるのはほぼ0%に近いところまで落ちています。同僚たちの素早い心臓マッサージのおかげもあり、全ての皆さんのチームワークのおかげでもあり、奇跡の生還を果たしています。奇跡という言葉はそれから彼のためにあるものだと思っています。

彼の仕事は心停止を起こす数年前からずっと激務でした。多分、「月残業100時間」の異常さです。

 月に残業100時間というのは、

  • すべての平日で4時間残業(4h×20日=80h)

  • 土曜日は3回出社(8h×3日=24h)

  • 休日は、土曜1+日曜4=月5日だけ

平日は毎日9時-22時で働くペースです。そうなると家に着くのは23時ごろです。就寝が24時。それでも疲れているのに、寝られないと言っていました。寝付きが悪くて25時とか26時まで起きていて、加えて、朝4時に目が覚めてメールしてるよ、なんていうこともよくありました。仕事のことが気になったりして深い睡眠が取れないらしい。

つまりは過労死だったのです。

その頃同じ時期の2015年、大手広告会社・電通の高橋まつりさんの過労死自殺のニュースが流れていました。なんともやるせないような、悔しいような、怒りたいような泣きたいような気持ちになったものでした。きっと、そんなに思い詰めてしまうほど真面目で優しくて責任感の強い人だったのだろうと思わずにはいられません。

こういう「過労死」事件をきっかけに彼と彼の周りが自分の人生を見つめなおしていると言っていました、自分は何のために働いているのか、何のために生きているのか。その後、「畑を始めたよ」というメッセージをもらっています。彼の生命への想いはなんとも言葉にはし尽くせない深い感情に突き動かされているのではないかと思います。奇跡の人、とりあえず、生きていてくれていてよかった、というよりも、生きて、1秒でも多く楽しい時間があるのなら、それだけでいいです。


倒れる瞬間を目撃された心停止の中でも、約半数は胸骨圧迫(心臓マッサージ)を受けておらず、更に、AEDによる電気ショックが行われたのはたった4.1%なのだそうです。

心停止の直後には、けいれんがあったり、呼吸しているように見えたりと、心停止かどうかの判断に迷う状況がしばしばありますが、「何がなんだかわからない」といった時にこそ、勇気をもって119番通報と胸骨圧迫を実施し、AEDを使用することが当たり前となる世の中になってほしいとAED財団のHPのメッセージをそのまま引用したいと思います。


いつもありがとうございます。このnoteまだまだ続けていきますので、どうぞよろしくお願いします。