ハックルベリィ

平成生まれ。SF(すこしふしぎ)な物語が好き。仕事と子育ての合間に、ショートショート(…

ハックルベリィ

平成生まれ。SF(すこしふしぎ)な物語が好き。仕事と子育ての合間に、ショートショート(短編小説)を中心に書いています。感想等コメントして頂けると嬉しいですー

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【短編小説】日時計の家

孝介は、蝉のやかましい鳴き声で目を覚ました。 寝汗で寝巻きが体にまとわりつく。欠伸がこみあげてくる。 眠い。再び横になる。 しかし、蝉の鳴き声がうるさく、寝つけそうもない。 伸びをして、階段を降りていく。 居間の襖を開けると、その奥にある台所から物音がするのに気づいた。不思議に思っていると、居間と台所を仕切る襖がすらっと開いた。 そこには女が立っていた。割烹着姿だ。 誰だ。 盆を持っている。そしてちゃぶ台に、ご飯茶碗、味噌汁の椀、漬け物を置いていく。 俺が呆気にとら

    • 【短編小説】夕日色の島【改訂版】

      過去に公開していたものを改定しました。 ================== 目を覚ますと同時に、頬にひんやりと濡れた感触を覚えた。枕にある小さな染みを見付け、頬のそれが涙の跡だとようやく気付いた。 夢を見ていた。思い出せないけど、とても悲しい夢。悲しくて悲しくて、私は夢の中で子供みたいに泣きじゃくっていた。この涙は、たぶんそのせいだ。 最近、よく夢を見る。内容はあまり覚えてないけれど。 体の奥から欠伸が溢れ出た。再び布団にもぞもぞとくるまった。 しかし、またあの

      • うら話『空間転移装置へようこそ』について

        過去に投稿した小説を書いたとき、どんなことを考えたのかや、その経緯を書いていきます。 飽くまで「書き手としてはこうでした」ということで、それを読み手がどう受け取るかは自由です。 あらすじ物語の冒頭には、「Aside」と表記されています。 主人公瓜澤裕二が帰省するシーンから始まります。実家への移動手段として「空間転移装置」(目的地へ瞬間移動できる)を利用しますが、不具合が発生。運営会社へ連絡すると、運営会社の作業員がやってきて拉致、監禁されてしまいます。 どうにか監禁場所

        • お前らの山月記3

          前々回 前回   * 時に、残月、光冷やかに、白露は地に滋く、樹間を渡る冷風は既に暁の近づきを告げていた。佐川は再び続ける。 何故こんな運命になったか分らぬと、先刻は言ったが、しかし、思いあたることが全然ないでもない。人間であった時、ワシは努めて人との交わりを避けた。人々はワシを、倨傲だ、尊大だと言った。実は、それがしまむらの服しか持っていないからという羞恥心であったことを、人々は知らなかった。勿論、かつての地元で神童と言われた自分に、自尊心がなかったとは

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        【短編小説】日時計の家

          お前らの山月記2

          前回  ✳︎ 今から一年ほど前、自分がコンビニエンス・ストアを訪れた夜のこと、陳列棚の向こうから他の客の声が聞こえる。その声には聴き憶えがあった。同じ学部の、崎田という、如何にも浮ついた頭髪と服装の男であり、成績は下の下でありながら一向に悔しがる様子もない、向学心の皆無の男である。親の手蔓による裏口入学だと、まことしやかに囁かれてすらいた。 その崎田の隣にいる女性もまた学部の同輩である。名を川村さんといい、肩口で切り揃えた黒髪が可愛らしい女性である。髪に下品な色を入れ

          お前らの山月記2

          お前らの山月記 1

          何年も前のもののため、ネタがやや古いのはご容赦下さい。中島敦は最高。   お前らの山月記  ✳︎ 佐川は博学才頴、現役して最高学府に歩を進め、ついでことごとく最優秀の成績で単位を修めたが、性、陰険、萌え系統の春画に遊蕩すること甚だしく、現(うつつ)の女人との交遊を良しとしなかった。 いくばくもなく学問から距離を置いた後は、下宿に蟄居し、人と交わりを絶って、ひたすら同人漫画の創作に耽った。学術を身につけ然る後に世の中の歯車として生きるよりは、己の創作によって世に名を馳せ

          お前らの山月記 1

          【短編小説】言霊

          「気持ちいい朝だな」 N氏はベッドから起きだし、カーテンを開け青空を眺める。 それから昨日帰りがけに雑貨屋で買ったラスクを朝食がわりにかじり、マグカップにたっぷりのお茶を一口啜った。 「うん、美味い」 恋人に今夜電話するとメールを送る。 そしてベランダのモンステラの鉢に水をやり、身仕度を整えると家を出た。 陽射しは暖かく穏やかだ。 近隣に住む年配の女性とすれ違った。 N氏は「いい朝ですね」と彼女に声をかけた。「そうですね」と彼女はN氏に微笑み返す。 しばらく歩き、N氏は

          【短編小説】言霊

          点Pは直線上を分速100mで移動している。 人々が眠るとき、朝焼けに街が動きだすとき、子どもが友達と談笑しているとき、あなたが涙を流しているとき。 誰にも気にかけられず、それでも点Pは分速100mで移動する。 このとき点Pを突き動かしているものは何か。10文字以内で答えよ。

          点Pは直線上を分速100mで移動している。 人々が眠るとき、朝焼けに街が動きだすとき、子どもが友達と談笑しているとき、あなたが涙を流しているとき。 誰にも気にかけられず、それでも点Pは分速100mで移動する。 このとき点Pを突き動かしているものは何か。10文字以内で答えよ。

          A地点とB地点は10km離れています。 花子さんはA地点からB地点に向かって分速100mで出発します。 太郎くんは5分後にB地点からA地点に向かって分速150mで出発します。 2人は何分後に出会い、なぜ別れてしまうのでしょうか。太郎くんの気持ちと愛とは何かを15文字で答えなさい。

          A地点とB地点は10km離れています。 花子さんはA地点からB地点に向かって分速100mで出発します。 太郎くんは5分後にB地点からA地点に向かって分速150mで出発します。 2人は何分後に出会い、なぜ別れてしまうのでしょうか。太郎くんの気持ちと愛とは何かを15文字で答えなさい。

          【短編小説】運び屋

          人生は、直感だ。 だいたい俺は物事を深く考えることが好きじゃないし、似合ってもいない。 無駄な頭は使わない。勝負するときはバシッと腹を括る。 大学受験は失敗したが運転免許は一発で取れた。 パチンコで負けが込んだ帰り道、通りがかりの店の福引で温泉旅行を当てた。 負けが込んでも、いつかは勝ちが来る。 世の中はうまいことできている。 人生は、直感だ。 ✳︎ その日は仕事が休みだった。 相変わらず予定はない。なんとなく過ごすだけの休日だ。今日は金がないからいつものようにパチンコに

          【短編小説】運び屋

          【短編小説】運命を売るセールスマン

          そのセールスマンは、ノックとともにやってくる。 ● N氏は仕事が遅かった。ミスも多く、頻繁に上司に怒鳴られていた。そのため昇給もほとんどなかった。 ある休日のことだ。 N氏の家のドアをノックする者がいた。N氏が出ると、セールスマンだった。 「私はきっとあなたのお役に立てると思うんです。何かお困りごとはありませんか?」 唐突な質問に面食らったが、N氏はありのままに答えた。 「はあ...、仕事がうまくいってなくてストレスが多いですね。給料も少ないし」 「それはよかっ

          【短編小説】運命を売るセールスマン

          【短編小説】エヘワイ博士は怒っている

          ここはエヘワイ研究所。 街一番の怒りん坊、天才エヘワイ博士が暮らしている。 笑顔を嫌うエヘワイ博士は、どうも何かを企んでいるようだ。 ● エヘワイ博士は怒っていた。エヘワイ研究所の前で腕組みをして、ムッツリしている。 そこへ街の若者ギムニーがやってきた。 「あの...博士。...約束の時間に遅れてすみません」 ギムニーがボソボソと謝ると、エヘワイ博士は 「うむ、それはよい」 と頷いた。しかしまだ怒った様子だ。 「あの...何かあったんですか?」 「ふむ。聞いてくれ

          【短編小説】エヘワイ博士は怒っている

          【短編小説】水の戯れ

          妻が「素敵な曲を見つけた」と言って聴かせてくれた曲が、ラヴェルの『水の戯れ』だった。 水の戯れ 作/モーリス・ラヴェル 演奏/辻井伸行 その神秘的な音は、音楽というより映像を見ているようだった。『水の戯れ』というタイトルは本当にピッタリだ。 「ねえ、この曲を聴いてどんなイメージが湧く?」 妻がそんな風に言って、二人それぞれのイメージを話し合った。 これは、そのときの僕のイメージを基にしたお話です。 あなたはこの曲からどんな世界をイメージしますか? ● 窓際の机にいる

          【短編小説】水の戯れ

          【短編小説】ユミちゃんはげんき

          「スイセンっていい匂いがするの。ふわーって甘くってね、あとね、ミントの匂いも好き。すぅっ、とするのよ」 「うん」 ぼくはうなずく。 「でもラベンダーの匂いはきらい。いやな感じがするの。でね、やっぱり一番はチョコレート!ぱあって幸せになるの」 「うん」と、またぼくはうなずく。 ユミちゃんはおしゃべりだ。 「あ!ねえヒロ、この前やったローラースケートで遊ぼうよ」 ぼくが返事をするよりも早く、ユミちゃんはローラースケートをごそごそと取り出す。 「うん、待って」 ぼ

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          映画「ボヘミアンラプソディ 」は、QUEENを知らない人にこそ観てほしい

          現在、映画「ボヘミアンラプソディ」がAmazon Prime VideoでPrime会員なら無料で視聴できる。 本作は劇場公開時に日本をはじめ世界で大ヒットした。僕は公開初日に観て、そのあともう一回観にいった。 理由は、めっちゃ面白いから。 しかし、当然観ていない人もいる。僕の職場の後輩もそうだった。 「QUEEN?ってバンド?の映画なんですよね?よく知らないから...」 そうか。わかる、その気持ち。 でもそういう人にこそ観てほしい! めっちゃ面白いし、QUEENは最

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          【意味がわかると怖い話】商品レビュー【超短編小説】

          虫撃退EX粉剤 商品レビュー ★★★★☆ 夏場、居間の床下にたくさん虫が湧いてしまいました。 虫に詳しくないのでどんな虫か分からず、とりあえず他の殺虫剤を試してみました。しかしあまり効果がありませんでした...。 気にしないようにしようとも思いました。 しかしうちは両親と私の三人暮らしで家が小さく、虫が入ってくる縁の下が嫌でも目につき、気になってしまいます。 家にも入ってくるかもしれないと思うと、気持ち悪くて安心して眠れません。 そこで、口コミで評価が高かったこの殺虫

          【意味がわかると怖い話】商品レビュー【超短編小説】