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創作

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記事一覧

Pale

 

 月白の砂の上を、男二人が歩いている。砂はさらさら風を舞う。静かな静かな夜だった。男たちもまた、口を開くことはなく。たださくさくと砂を踏む音だけが蒼白い夜にこだましていた。

 言葉にはしないものの、二人には共通した思いがあった。何処まで行けばいい。この旅に、終わりはあるのか。片方はいつか聞いた歌を思い出した。「終わりなどはない、終わらせることは出来る」。違いない。だがきっとどちらも終わらせ

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無有、そして日陰者

創作。

 「助かりました。誠にありがとうございます」
「いいってことよ。人助けってのは気分がいいぜ」
爽やかに晴れ渡った空の下。都会にしては緑のある公園。噴水の縁に腰掛けた若い男は、感情の籠ってるとは言い難い声色で嘯いた。彼に命を救われた以上、この調子であったとて感謝してもしきれないというもの。しかし。
「ああ、そのー、そのことなんですが、よろしいでしょうか」
相手は何も言わないが、肯定と受け取

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カリスマ恋愛相談所と謎の食リポ

 俺の名は待下透。恋愛相談、人生相談を生業としているハンサムガイ。恋愛のカリスマってやつさ。俺は相当経験豊富だ。本当だぜ。そんな俺のノウハウを迷える子羊たちに教え、アドバイスし、導いてきている。今まで培ってきた経験を世のため人のために使うことこそが、この恋愛のカリスマたる俺に課された使命だと考えているからだ。もちろん、カリスマであるこの俺でも手に終えない相談も時にはある。だが俺は言っていない。この

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爆走業火車ヤシオ・カーマイン

「アンジェラ」の番外編です。時系列も本編とは異なるものとなっています。

 「ところで、ヤシオさんと天使ってどういう知り合い?」
突然現れた自称獄卒の女装コスプレイヤー(?)ヤシオさんについて、まだ知らないことが多すぎる。何故そんな派手な女装なのか。見てると普通に似合ってる気がしてくるのは何なのか。むしろこの人が着ているとかっこいいまである。
「仕事で何度か交流があるのですよ」
「そうそう。閻魔さ

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アンジェラ(4)

ほぼ一年ぶりの続き。これ続きあったの!?あったんだなあ。お待たせしました、ごめんなさい!!!

 恐ろしく美しいひとだった。いや、人ではないのだけれど。プラチナブロンドの髪は光に溶けてしまいそうなほど眩しかった。その隙間から覗くアクアマリンみたいな澄んだ目は、俺を捉えるとすうっと細まった。目を奪われる、慈愛に満ちた微笑みだった。

それは天使と呼ぶに相応しい────

「近いうちにって言ったよね!

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Accel Viper

創作です

 ブラックマンバ、という蛇を知っているだろうか。世界最強の毒蛇と言われる蛇である。その所以とは何か。それは最速、毒の即効性、毒の保有量によるところが大きい。で、それがなんなんだと言うと、私もなんなんだろうとしか思えない。私の上司は、私を呼び出すと唐突にこの話を始めた。なんだろう。この毒蛇が出るような危険地域に出向け、とかそういう話なのだろうか。疑問を口に出すと、上司は安直だと笑った。や

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記録

ただ方言キャラが書きたかっただけという

 人は死んだら星になる。風になる。花になる。動物になる。死んだらなにかになれるらしい。昔から色んな人が言っていた。わたしは何者かになりたかった。星になれたらいいな。花になれたら綺麗だろうな。だから、死にに来たのだ。ここはとある自殺の名所。切り立った崖の上。人気などあるはずもない場所に何故か人がいた。見るからに自殺志願者ではない。何処から持ち出してきたのかは

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ピザ屋敷

 3人の男女が山を散策している。さして特筆すべき状況ではない。和やかに会話などしながら山を登っていた。彼らは朝方に出発し、昼頃には平原にいたが今は木々が鬱蒼と生い茂り、人気もない場所を歩いていた。そこへ突然の雨。よくあることだ。
「あちゃー、やっぱり降ったかぁ」
ツインテールの女、マキは暢気にぼやいた。無論3人はレインコートは持っていたが、徐々にそれで凌げる雨量ではなくなっていった。しかし。
「見

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傀儡師とピエロ

 奇妙な光景を見た。はじめはそれが人間だと思ったのだが、どうもよくよく見てみると、それは長身痩躯の人形だ。その不気味なピエロめいた人形が、車椅子のこれまた少し気味の悪い老人を引いて歩いているのだ。それを見る人々は指差してひそひそと話したり、くすくす笑ったり、写真を撮ったりとまあ失礼な態度だ。ここからが更に驚きだ。
「オウ、テメーら見せモンじゃねえんだぞ、消え去りやがれ」
喋ったのは人形だ。老人は濁

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Lusie Candee

 ぼんやりしている。
どうにもスイッチが入らない。頭が重い。よく回らない。目の前には作業せねばと立ち上げたパソコンのディスプレイはホーム画面のまま止まっている。やる気が出ないのである。……仕方あるまい。ここはあれしかない。私はデスクの引き出しを開き、小さな箱を引っ張り出すと席を立ちその場をあとにした。上司がなにか言いたげな目でこちらを見ていたが、知らない。一先ず外の空気を吸いたい。サボり?そうとも

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義体不幸鳥急行殺人事件

義体殺人事件をぼくも書きたかった。想像で書いてるキャラがほとんどなのでいろいろふあんです。 

「ンフフ……旅行、列車、密室、殺人事件……ンフ、人死にの匂いだ」
車窓に映る女の顔は、何がおかしいのか楽しげに歪む。その指先もリズミカルに手すりの上を跳ねている。先程からの女の様子を見ている、向かいに座した少女は眉をひそめた。
「なんか、本当に起こってほしいみたいじゃないですか…殺人事件」
「まさか。そ

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義体不幸鳥急行殺人事件Ⅱ

つづきです。やっつけです。まだつづきます。

 「だからオルルルルルルルェはやっていないよ!チェックインを終えたらすぐに街へ観光しにいったの!!助手のチベスナちゃんを連れてね!あの子も言ってたろう!!trust me!!」
ベレー帽を被り、四分の一を覆う仮面を着けた女は喚き立てる。サングラスをかけた長髪の警官は腕を組み、長く息を吐きながら背もたれへ寄り掛かった。
「トラスト・ミーはとっくに意味をな

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蒔く男 摘む男

 男が種を蒔いた。ひとつぶ種を蒔いた。種は芽を出し、育ち、花開き。また新たな種を生んだ。男はそれをまた蒔くだろう。それを続ける。ただ蒔き続ける。狂気の種を。
 男は芽を摘んだ。種から芽吹いたそれを、見付け次第に摘んでった。はじめは容易い作業だった。いずれ蒔かれる種は増えていった。あちらこちらで芽を出し、育っていった。狂気が。男は芽を摘む。地道に、ひとつひとつ。兄の蒔いた狂気を。

 「にいさん。も

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犠牲

 少女の本棚には、ヒーローものの絵本が並ぶ。魔法少女が戦う絵本も。その内ひとつを手に取り、読んでみる。街で人を襲う怪人。現れるヒーロー。ヒーローは戦う。しかし、ピンチが訪れる。味方を人質に取られてしまったのだ。ヒーローはどうする。次のページをめくると、そこは油性マジックでぐちゃぐちゃに塗りつぶされていた。そして、最後のページ。そこにはいないはずのヒーローが、ペンで描き足されている。文章も、書き換え

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