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落語家の敬称

噺家は「師匠」

噺家は真打になると「師匠」と急に呼ばれます。これは東京の文化ですので、大阪の方だと真打制度がないので色々な場合があると思います。

「急に呼ばれます」と書いたのは、私が今まさに急に呼ばれ始めた真打だからです。落語協会の事務員さん、お囃子さん、色物さん、今まで私を「さん」付けで呼んでくれていたのに、いきなり一様にはな平師匠と呼んでくれます。

嬉しい反面、少し距離が出来たような気もしていて複雑な気持ちです。

色物さんは「先生」

噺家は「師匠」ですが、それ以外の色物さんは「先生」というのが、東京の寄席文化の中では一般的です。

ウチの協会で言えば、漫才のにゃんこ・金魚先生、ロケット団先生、マジックのアサダ二世先生(実際はアサダ先生と呼ぶ)、などです。

じゃあ色物の方がみんな「先生」かというと、少し例外もあって、「師匠」と呼ぶ方もいます。紙切りの正楽師匠、浮世節の橘之助師匠とか、何となくですが着物を着て和事の芸をされる方は先生でなく師匠と付けている気がします。

先般、猫八を襲名された猫八師匠は、小猫時代は「先生」、猫八になってから「師匠」という、敬称が変わるという珍しいパターンもあります。

「師匠」「先生」はどの瞬間に決まるか

噺家は自分のキャリアのスタートが全て基準になります。年齢は全く関係ありません。この世界に先に入った人が先輩になります。キャリアのスタートとは、寄席に出ている噺家は楽屋に入った日、それ以外は入門した日、となっています。

その日を基準として、相手がどの位置にいるかで「師匠」と呼ぶのか「兄さん」「姉さん」と呼ぶのかが決まります。

私の場合は2007年10月1日楽屋入りなので、その瞬間に二ツ目までの方には「兄さん」と付けて呼びます。その時点で一番下の二ツ目でも、一番上の二ツ目でも「兄さん」「姉さん」です。その時点で真打の方には「師匠」を付けて呼びます。

で、大体一年以内に一番上の二ツ目の兄さんが真打になります。その時にどうなるかというと、敬称は変わりません。ずっと「兄さん」です。噺家の場合はそういうものなんですね。

※厳密に言うと、入門してから見習い期間というのがあって、その時期二ツ目の方は兄さんと呼んだりしますが、見習い期間がみんな違うので、整理するために楽屋入りを基準としてます。

お客様はどうか?

じゃあ、お客様は私たちをどう呼んだら良いんでしょうか?よくこういう質問を頂きますが、お客様は「師匠」「先生」を付ける必要はありません。

「さん」でも「くん」でも「ちゃん」でも、何でも構いません。呼び捨ては寂しいですけどね。

この敬称をつけると言うのは私たちだけの世界での話なので、一般の方は気にしなくて良いことです。

例えば、国会議員同士では「先生」と呼び合っていますが、総理に向かって岸田先生とは言いませんよね。普通に岸田総理とか岸田さんって言います。あるいは呼び捨てかもしれません。それと同じです。あくまで楽屋内での言い方ということです。

舞台ではどう言うか問題

笑点を見ていると、全部「さん」で統一しているのがわかります。司会の昇太師匠が先輩であっても「小遊三さん」「好楽さん」と呼んでいます。楽屋では「師匠」を付けているわけですから使い分けが凄いですよね。※たまに師匠と呼んでいる時もあります。

おそらく、全国色々なお客様がご覧になることを考慮してのことだと思います。

私も舞台で言う時は気を遣います。次に出るのが、噺家(真打)の場合は「お後の◯◯師匠まで私にもお付き合いください」と言いますが、色物の方の場合は「先生」を使わず、「さん」にしています。

これは以前あったことですが、漫才のホームラン先生と一緒だった時に高座で「お後のホームラン先生をお楽しみにお待ち下さい」と言ったんです。そしたら、それは辞めてくれって言われました。

まず「先生」が一般的ではないことと、ホームラン先生って言われるとなんかものすごい人が出てくるんじゃないかってお客さんのハードルが上がるからよしてくれ、そんなニュアンスで言われました。

確かにお客様は「先生」なんて聞き慣れないですものね。

それから、舞台で芸人の説明をする時はその敬称に気を遣うようになりました。

今日はそんな「芸人の敬称」のおはなしでした。

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