【DTMクラシック】フンメル/幻想曲 変ホ長調,Op.18

「幻想曲変ホ長調,Op.18」は1805年にウィーンの新聞で出版広告で発表されました。
当時、フンメルは27歳で、エステルハージ侯爵のもとで2年間働いていた時期です。

フンメルより8歳年上のベートーヴェンは、フンメルと競い合うように難曲のピアノ・ソナタ第23番ヘ短調op.57「熱情」を発表しています。この友人ライヴァルの幻想曲にかなりの刺激を受けたらしく、のちの「田園交響曲」や「ハンマークラヴィーア・ソナタ」には、フンメルのOp.18の最初の部分との類似性を感じる個所があります。

「幻想曲変ホ長調,Op.18」は幻想曲と謳っているものの、大きく分けると3つの楽章からなっているように作られており、さらにソナタ形式を取り入れられている部分や全体を通すと緩・急・緩・急という構成の大ソナタと言ってもよい曲です。

I. Lento - Andante - Allegro con fuoco - Adagio - A capriccio, ma lento
第1部は序奏付きのソナタです。C.P.E.バッハのピアノ曲を思わせる即興的な序奏から始まり軽やかで技巧的なアレグロ・コン・フォートに続いていきます。二重トリルや技巧的スケールを大胆に駆使しながら、変ホ長調から様々な転調を繰り返して、聴く者をとらえる情熱的な嵐の音楽へと発展していきます。その嵐は徐々に落ち着きを取り戻していき、最後は変ロ長調で嵐が過ぎ去った凪となり、次のレガート・エ・カンタービレへと繋がっていきます。

II. Larghetto e cantabile
第2部は非常にロマンチックな曲です。ゆったりしたリズムの上で歌われるカンタービレは、長調と短調を行き来しながら装飾を増やしていきます。これはもうモーツァルトの影響を離れ、フンメルの個性が前面に出てきているロマン派を先取りした音楽となっていて、ショパンへとつながる叙情的楽曲となっています。


III. Allegro assai - molto adagio - Presto
第3部は一転してト短調となり、刺激的で破壊的な楽想が次々に現れてきます。そのままフィナーレとなるプレストに突入すると、ベートーヴェン的オクターブの強打鍵の激情的主題に始まり、一気にラストまで駆け抜けます。この楽章は後のシューマンの「クライスレリアーナ」に大きな影響を及ぼしているでしょう。

また、このフンメルの幻想曲は、ゆったりした序奏に始まって、最後は華麗な曲調で終わるロマン派以降の作品の「理想形」と言えるものとなっています。シューベルトの幻想曲を聞いても明らかにこの曲の影響が見え隠れしています。
ベートーヴェンの「月光」「熱情」のような聴く者の心を奪い取るようなメロディなどではないですが、演奏を目の当りにしたら目を離せなくなるだろう展開と興奮をもたらせてくれる曲です。

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