ジュピター交響曲へのオマージュ~フンメル/ピアノソナタ第3番ヘ短調,Op.20

【DTMクラシック】J.N.フンメル/ピアノソナタ第3番 ヘ短調,Op.20

フンメルが作曲したピアノソロのためのソナタは9曲の記録があるが第7番~第9番は未出版かつ本人の曲かどうかも疑わしいとされていますので、第1番から第6番までの生前に出版された6曲ということになります。

最初期のソナタは14歳の時にロンドンに滞在中に出版されたピアノソナタ 第1番 ハ長調 Op.2a-3で、この時期に師事していたクレメンティの影響下にある、ブラブーラ書法の曲です。
第2番(変ホ長調,Op.13)は約10年後の1803年にウイーンでピアニストとして活躍していた時期に作曲され、ハイドンに献呈されました。この曲になるとしっかりした形式美と構成をもち、ウイーン趣味な装飾が施されたものになっていました。
そしてこの第3番は1807年、エステルハージ宮廷の楽長職時代に書かれましたが、この時期はコンサートピアニストとして活躍しているわけではなく、サロンやカフェでの演奏のほかは舞曲、バレエ曲と言ったオーケストラ作品や宗教音楽を量産していた時期です。
以前の曲とは全く異なり、デモーニッシュであり、ロマンチックな曲想が続く作品で、モーツァルトやハイドンとの類似性よりもベートーヴェンや後のシューベルトのような性格を持っています。古典派の楽曲には定番であるはずのアルベルティ・バス(ド・ソ・ミ・ソ)はほぼ姿を消し、絶えず変化するテンポに、強弱の交差、繰り返される転調、対位法を駆使したフレーズ、交差する両手、ピアノ協奏曲のようなスケールの大きいパッセージなど、演奏技量も高いものが要求されている楽曲です。

特に第3楽章はロンドや舞曲調のテーマの楽曲などではなく、激しい3連符が作り出す高低幅の広いパッセージから始まります。とても情熱的である冒頭部が落ち着くと一転して対極にあるような天使のメロディーが始まります。このギャップは聞くも者をとらえるのに充分な魔力を持っています。そしてなにより、この天使のテーマがこの楽章を有名にしている要因ともなっている、モーツァルトのジュピター交響曲からの引用です。これは似せているではなく、完全にジュピター交響曲へのオマージュです。ヘ短調に始まり変イ長調、イ長調、ヘ長調と転調して締めくくられます。

この曲は平時のフンメルの作り方や構成とはことなり、何かの意図をもって作曲されたと言えるでしょう。前年に出版されたベートーヴェンの「熱情ソナタ」に対抗しようという強い意志を感じてしまいます。

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