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【実話怪談】失せ物出る

これは私が長野県に住んでいた頃のお話です。

当時小学4年生だった私は、比較的毎日平和に過ごしていました。小さな不思議に出会うことはありましたが、どれも些細なもので、語るほどではありません。
例えば、兄とスゴロク遊んでいる時、手にしたサイコロが、振った途端に消えたことがありました。兄も消えるところを見ていたものですから、一緒になって大騒ぎしたことを覚えています。
他にも、見た目が明らかに浅い水たまりに、お友だちが長靴でバシャッと入った時、膝くらいまで片足が一気に沈んだことがありました。転んで泣く友人に慌てて手を貸して引き上げると、長靴が無くなっています。水たまりに手を入れてみるも、やはり浅い水たまりで、長靴の入る空間はありませんでした。

こんなふうに、物が消える怪異は振り返ってみると意外と多いもので……。ちなみに、消えた後に出てきたのかどうかですが、残念ながら出てくるほうが稀でした。

今回は、そんな「稀」が起きた出来事について語ります。

4年生の終わりに、小学校で流行したものがありました。血液型占いや、おまじない、そしてコックリさんです。
私はそういったものに興味がなく、縁のないものと思っていたのですが、ある時奇妙な噂を耳にしました。

「隣のクラスのリナちゃんは、魔女の生まれ変わり。リナちゃんの教えるおまじないはよく効く。リナちゃんとコックリさんをやると、必ずコックリさんが出てきてくれる。」

リナちゃん。

リナちゃんといえば、図書室でよく見かける女の子です。
当時私が大好きだった本の中に、『花ものがたり』という可愛らしい挿絵付きの本がありました。内容も素晴らしく、世界中の花についての伝説や神話が集められていて、とても面白いのです。休み時間、図書室に行くと必ずページを開いていたのですが、ある時いつものように見に行くと、先に手にしている子がいました。
(借りられちゃうかな……私以外に手に取る子、初めて見た。)
思わずじっとその子を見ると、視線に気づいたようでこちらを見返してきます。
「懐かしい。あなた✕✕でしょう?」
驚いたようにこちらを見ながらそう言った子が、リナちゃんでした。
✕✕が聞き慣れない言葉で全くわからず困惑していると、「私はリナ。4年2 組。」手元の本を棚に戻しながらリナちゃんは言いました。(あ、借りないのか。)と思いながらこちらも自己紹介します。
その後も、図書室に行くたびにリナちゃんはいました。相貌失認症の私でもすぐにわかる、長い髪の毛。どうやって保っているのか不思議なほどに、サラサラでした。
リナちゃんは私に会うと、必ず挨拶してくれます。

ある日、挨拶された時になんとなく例の噂話が頭をよぎりました。
「リナちゃん、そういえば、リナちゃんのおまじないがよく効くって噂になってるよ。」
なんとなく、魔女の生まれ変わりやコックリさんの話題を避けて私は言います。
「おまじない?」キョトンとした顔をするリナちゃんに、噂は間違いだったのかと内心慌てて、
「あ、ごめん、ただの噂。今流行ってるから。」
そう言うと、リナちゃんは「ああ、アレかぁ。」と合点したように頷きました。
「みおちゃんには教えられないよ。」
ハッキリそう言われて、思わず「どうして?」と聞くと、「ジュジュツになるから。」
と、リナちゃんから、さらりと聞き慣れない言葉が出ます。
「あ!そうだ。今度私と一緒にコックリさん?だっけ。あれ、やらない?」
良い事を思いついたように、リナちゃんが言いました。

一体そこからどういったやり取りがあったのか。全く思い出せませんが、私はリナちゃんとコックリさんをすることになりました。

あれはいつ、どこでだったのか……夢の中での出来事のように、記憶がボヤッとしています。

リナちゃんが持ってきたコックリさんの道具は、今まで見たことが無いようなものでした。
変な形の板に、鉛筆が刺さっています。板には車輪のようなものが付いていて、自立するようになっていました。その板は、古びていて見慣れない文字が刻まれていて、どこか不気味な雰囲気があります。
板とは対象的に、刺さっている鉛筆は当時流行していた真新しいドラゴンクエストのバトルえんぴつ……とても歪な感じがしました。

「それ、どうやって使うの?」と私が聞くと、「2人でこの上に手を置いて質問するの。鉛筆が動いて、この紙に返事を書いてくれるんだよ。」
この紙、と言いながらリナちゃんが取り出した紙も、私が知っているこっくりさんの紙とは全く違いました。見慣れない言語で何かが書かれています。
色々突っ込みどころはありましたが、私がそれを見ながらリナちゃんに聞いたのは、「リナちゃんがコックリさんに聞きたいことって、なに?」ということでした。
そう、コックリさんをするということは、何かを質問するということだ。
リナちゃんはハッキリと言いました。
「私は、大昔の自分が誰に裏切られたのか知りたいの。」
裏切られた?
なんだか物騒な言葉です。
「ある意味、未来を聞くより難しいことなんだよね、過去を聞くのは。うまくいくといいな。」
言いながら、リナちゃんは私を見つめます。
「みおちゃんと私なら、きっとなんでも聞けるよ。」
呟くように言うリナちゃんに、私は言います。
「私は、特に聞きたいことがないから、質問はリナちゃんに任せるよ。」
すると、リナちゃんはアハハと笑い「やっぱり✕✕だね、変わってない。」と、最初に会った時と同じ聞き慣れない言葉を口にしました。

そして。
「じゃあ、始めようか。手を置いて。」
ついに、コックリさんは始まりました。

板に手を置いて、なんとなく目をつむります。
「コックリさんコックリさん、おいでください……って言うんだよね?」と確認すると、「コックリさんなんて呼ばないよ。私が呼ぶのはもっといいやつ。みおちゃんは手を置いてるだけで良いよ。」そう言ってリナちゃんは、急に知らない言葉で喋りだしました。

その途端、寒気がします。

リナちゃんの言葉に外気がどんどん冷えていくイメージです。板も冷たくなっていき、最終的には氷のような冷たさになりました。

手の感覚が怪しくなってきて、リナちゃんを止めようと目を開けると。

板が動き、鉛筆が何かを書き出すところでした。

驚くほどスムーズに、板は動きます。

(すごい、ほんとに動くんだ!)

板の下に何が書かれているのか気になり、身を引いて目を凝らして少し覗くと、そこには、何語かわからない文字が並んでいます。
(まあ、そうだよね……リナちゃんはわかるのかな、この文字。
チラッと、まだ何かを喋り続けるリナちゃんを見たその瞬間。



バンッ!!!


物凄い音と共に何かが弾け飛びました。


同時に、リナちゃんが燃えます。

さっきまでの冷たさが嘘のように、熱を帯びた炎がリナちゃんを包んで。

「リナちゃん!!!」

と、必死に手を伸ばします。
リナちゃんは動じることなく、怒気を含んだ声で何かを叫びました。


「✕✕✕✕✕✕!!!」


すると、フッとリナちゃんの炎は消え、目の前には粉々になった板と、1枚の紙だけが残りました。 (さっき弾けたのは板だったのか……。)と思いながら、あれ?と思います。
「鉛筆が、無くなってるね。」
そう言って、リナちゃんを見ると。
「えっ!気にするところ、そこ!?」
と、リナちゃんは大笑いながら言いました。

だって、きっと、これは夢だから。

目の前のリナちゃんは、いつの間にか知らない大人の女性に変わっていました。
でもこれは、紛うことなきリナちゃんです。

『リナちゃんは、魔女の生まれ変わり。』

その噂が妙に腑に落ちました。
「知りたいことはわかったの?」
私の言葉に、リナちゃんは残された紙を持って満足そうに頷きます。

それからどう解散したのか……夢だったのかもわからずに、日常は戻りました。
リナちゃんとは相変わらず図書室で会うと挨拶を交わすぐらいで、あの時のことは一切無かったかのようでした。
(あのコックリさんは、やっぱり現実じゃ無かったんだなぁ。)と納得して、4年生も終わりを迎えようとする頃。
また引っ越しが決まりました。
最後に『花ものがたり』の本をもう一度全部読んでおこうと、図書室に向かいます。
(この図書室、好きだったなぁ。)
感慨深く、本を引き抜くと。 

コロッ。

と、足元に何かが落ちました。

鉛筆です。

あの時、コックリさんで使った、真新しいバトルえんぴつでした。

間違いありません。

驚いて拾い上げると、
「それ、お守りになるからあげる。」
後ろにいつの間に立っていたのか。
リナちゃんがニコニコしながらそう言って、走り去っていきました。

あれから何年も経って、すっかりリナちゃんのことも忘れていましたが……。鳥山明さんの訃報をニュースでみた時、急にこの時のことを思い出したので、書き出し投稿です。

あの時のバトルえんぴつを家で探すとちゃんと出てきて、改めて鉛筆に描かれた鳥山明さんの作画モンスターを見ていたら、泣けてきました。

ドラゴンボールもアラレちゃんも、家族の食卓で欠かせないアニメだったんですよね。
クロノ・トリガーもドラゴンクエストも、全部が宝物です。

心から哀悼の意を表します。

これは私の実話です。


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