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【実話怪談】ずっといる、そこにいる

〈第二十話〉

私が大学3年生だった、ある夏のお話です。

大学は国立大学で、広い学び舎を有していました。多種多様な人が集まる大学には色んな噂話があり、その中の1つには私の住んでいた〈三之町迷路〉もありました。

他にも〈幽霊坂〉や、〈下駄チェーン男〉、〈考古学研究室の怪〉などパッと思いつくだけでもこれだけ出てくるので、噂話の好きな人が身近にいたのかもしれません。
不思議なことに、これらの話を私に伝えたのは誰なのか、全く思い浮かばないのでした。

さて、そんな噂話の中に今回お話する〈スイカ泥棒〉がいました。大学の周辺はスイカを栽培するのに適した気候なようで、昔からスイカ畑が多くあったそうです。

夏になると必ず学生の間で話題になるのが、〈スイカ泥棒〉でした。大学からも毎年注意喚起がされるほど、大学周辺のスイカ畑では盗難が相次いでいたのです。

「この大学のスイカ泥棒は、大学創設時からいるんですよ。毎年、スイカが盗まれるからもはや夏の風物詩のような扱いです。」

ある日、ゼミの教授が講義の間にそんなことを言いました。

(そんなに毎年のことなら、監視カメラつけてしっかり対策したら良いのにね……。)と、小声で隣の友人Rに言うと、Rは(対策できないんだよ、アレは。)と意味深なことを言います。

なんとなく気になって講義終わりに更に追求すると、Rは少し考えて、「じゃあ、見に行く?スイカ泥棒。」と、言いました。

そういうわけで、お昼ご飯の時間にRとスイカ畑へ向かいました。

「よく考えたら、スイカ畑っていっぱいあるし、そんな都合良く昼間からスイカ泥棒がいるわけないじゃん?」と至極当然なことを私は口にしました。
「大丈夫、こっちこっち。」とRはスタスタ歩きます。

Rが誘導したスイカ畑は、広くて立派なスイカ畑でした。鳥よけがキラキラと光を放っています。

「あのへん見てて。あの、カラスがいるところ。」

Rの指さした先には、2匹のカラスがいました。

(スイカは、カラスが盗んで食べてるってことか……。)

なるほどなぁと思い、その決定的瞬間を見ようと目を凝らし観察を始めます。

カラスはスイカ畑の周りを悠々と歩いていました。
まるで熟れたスイカを探すかのように。
直射日光が容赦なく当たり、額にはじわりと汗が滲みました。

3分ほど経った時のことです。

急に慌てたようにカラスが飛び立ち、そして。

「え。」


一瞬のことでした。

何かに吸い寄せられたかのように地面に叩きつけられ、カラスは消えました。

驚きの余り絶句した私に、Rは言います。

「見えた?あれがスイカ泥棒。」

淡々と言うRに、「いや……え、カラスは?」私は間抜けな声を出す他ありませんでした。

Rが言うには。
スイカ畑には、元々土地に棲む神様のようなものがいるそうです。

「昔からずっとそこにいて、なんの気なしに喰うんだよ。喰うのは別に、カラスでもスイカでも良くて、ただそこに在るから喰う感じ。」

驚く私に、更にRは言います。

「神様って虫みたいな思考で……意思疎通できる神様って実はそう多くないんだよね。ただずっとそこにいて、たまたま巨大な力を持っているだけ。人の理(ことわり)とは外れていて、ただ虫みたいに存在して、この世の自然を保つ役割なんだと思う。」

「いや……え、カラスは?」

再び間抜け顔で聞く私に、

「そんなにカラスが好きだったの?」

とRは眉をひそめます。

「カラスは理(ことわり)から外れたから、もうこの世には戻らないよ。」

さも当然のように、Rは言うのでした。

神隠し、というものがあるとしたら、あのカラスみたいに急にこの世から消えてしまうのでしょうか。
昔の人は、神様の土地に安易に人が立ち入らないようにと考え、スイカ畑にしたのかもしれません。

今になって振り返ると、Rには聞きたいことが沢山あります。あの時、もっと色んな話をするべきだったのですが、当然のように話す時間はこの先もあると思っていたのです。

Rは卒業間近になって突然大学を辞め、音信不通になりました。
何があったのかは不明ですが……きっと、Rのことだから、青森に帰って巫者(カミサマ)として活躍しているんだろうなぁ……。
心配しなくとも、元気でいるだろうと思うのです。
あ、でも、貸した漫画はいつか返しに来て欲しいなぁ。「ぼくの地球を守って」の愛蔵版、全部持ち逃げするとは思わなかったよ。重いのに。

これは私の実話です。

友人Rが出てくる話は以下にもあります。
宜しければこちらもぜひ。


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