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短編創作「それぞれの想い」


下町の片隅で極貧生活を送るジジイとババアがいた。


幼少期からひねくれもので悪行を繰り返して来たババアと、性格は穏やかだが身寄りのない孤児であったジジイには頼る者は一人もいない。


いつしか生活費は底を突き、生きるために犯罪を繰り返すようになっていた。


力関係は完全にババアが上で、家庭内でしっかりとした主従関係が築かれていた。


暴言を浴びせられ、同時に暴力も振るわれるジジイ。


「 うるせぇ!オメェーがやって来んだよ!! 」

「 ひぃい 分かったよ …殴るのはやめてくれ。。 」


まるでドブに沈殿する反吐で描いたような、最悪の生活環境。

日に日に増してエスカレートするババアの暴力。溜まるストレス、そして魂をもエグる重度の栄養失調。もう限界だった。


人としてギリギリアウトな日々を過ごしている内に、ついにジジイが病に侵されてしまう。


吐血し、そのまま床に倒れ込むジジイ。当然医者に行く金など無い。


「 ゴホゴホッ‥‥ 」


冷たく不衛生な床の上を必死に這いつくばり、薄いせんべい布団に入った途端に力尽き… そのまま寝込んでしまった。


…それでも尚、ババアの容赦の無い暴力は続いた。


「オラッ!とっとと起きろや! ったく、使えねぇな」



布団の上から、殴る蹴るのやりたい放題だ。


「 やめて、くれ… ゴホゴホッ‥‥ 」


防御力0の薄い布団に包まったジジイが、力の無い”か細い声”でババアに懇願する。病気のつらさと情けなさで涙が流れた。



何故ここまで暴力が酷いのか?
また、何故その暴力を耐え忍ぶのか?


全く分からなかった。



ある日、今まで積み重ねて来たババアの悪行がことごとく警察にバレ、ついには家を特定されてしまった。


鳴り響く、パトカーのサイレン。


「 …クソがっ テメェが使えねぇからこうなるんだよ!この役立たずが! 」

「 …………………。 」


ドンドンドンドン!!


「おいっ隠れても無駄だ!居るのは分かってるんだ!」

警官がボロボロのドアを激しくノックして来る。


「 …チッ ここらが潮時か 」

「 ………もごっ うっ … 」


何やらジジイが言いたそうだ。


「 んあ?何か言いたそうだなぁ?…どうせもう最後だ、好きにしろよ 」

「 た、誕生日おめでとう… 」


ニコッ

隙っ歯でにっこりと笑うジジイ。

しみったれた布団から、綺麗な白箱に入った一切れのショートケーキを差し出した。手がプルプル震えている。このケーキは盗品では無く、ジジイが大事に隠し持っていたヘソクリで、ババアのために買って来た誕生日プレゼントであった。


「 ……ジ、ジジイ 」


「 …おめぇは何度も刑務所に入ってんだ、もう次は無いんじゃろ? 」


「 …………………。 」


「 …ここはワシに任せるんじゃ。せっかくの誕生日が台無しになってしまうぞ。 」


「 …………………。 」


「 …いくら殴られようが罵られようが、身寄りの無いワシを構ってくれて…おめぇはワシにとっての最愛のババアなんじゃ。 」


ドンドンドンドン!!


「 …ジ、ジジイ。 これでも羽織れよ、風邪ひくぞ… 」



覚悟を決めた表情で立ち上がるババア



ファサッ



そっとジジイの肩に濡れ衣を被せると、素早く押し入れの奥へと身を隠した。


< Fin >


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