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サムライアリの思い出

あれは私が小学校低学年くらいの時のことだ。茨城の実家には父親が作ってくれた砂場があり、よく近所の小さい子も砂場目当てに遊びに来ていた。ある日、隣の家の年下の女の子と砂場で遊んでいると、突然アリの大群がやってきて、砂場の上を通過し始めた。アリの行列と呼べるものではなく、文字通りの大群で、幅1 mくらいに広がっていた。隣の空地の草むらから続いているようである。あっけにとられて見ていると、大群は砂場のすぐ近くのアリの巣に吸い込まれて行った。しばらくすると、蛹や幼虫(これは当時も知っていて、見て分かった)をくわえたアリが次々と出て来て、今度は砂場を逆方向に通過して行った。逆方向の大群もやがていなくなり、平穏に戻った。時間にして30分ほどだったか。

当時の自分にとって、この現象は何とも不可解だった。何で1往復するのか? しかも何で復路では幼虫や蛹を運んでいるのか? 幼い自分がひねり出した解釈は、「アリたちは引っ越しをしていて、一時的に古い巣に保管していた幼虫や蛹を取に戻ったのではないか?」というもの。

これの正体を知ったのは、大人になって虫を始めてからである。大群のアリの正体は、サムライアリPolyergus samurai である。サムライアリは、クロヤマアリの巣を集団で襲って幼虫や蛹を略奪し、奴隷として働かせるというえげつない生態を持つ。私が見たのは、まさしくサムライアリがクロヤマアリの巣を襲う奴隷狩りの現場だった。

そんなサムライアリだが、最近、実に40年ぶりくらいに奴隷狩りの現場に遭遇することができた。場所は、埼玉県東松山市のこども動物自然公園である。気温36℃のうだるような蒸し暑さの中、林床をアリの大群が移動しているのを次男が発見(下写真)。個体数は500くらいだろうか。子供の頃に見た大群よりも小規模である。

目標のクロヤマアリの巣穴は、下写真の左手のアスレチックの下にある。バラけずに、大群のままアプローチしていく。

そして、クロヤマアリの巣穴に吸い込まれて行く(下写真)。

吸い込まれてから数分もたたないうちに、蛹や幼虫をくわえたアリたちが出てきた(下写真)。巣穴付近では、略奪者を攻撃するクロヤマアリも見られたが、このように集団で襲われたらひとたまりもない様子。

蛹や幼虫を運ぶサムライアリ(下写真)。

30分ほどで奴隷狩りは終了した。子供の頃の記憶が鮮明に甦った、蒸し暑い夏の日の午後。

※サムライアリ自体はものすごく珍しいわけではなく、サムライアリの巣がある場所ならば、奴隷狩り自体は頻繁に見られるようです。

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