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趣味の昆虫と物理学。原子核物理で博士(理学)持ち。自分なりに見つけたおもしろい問題とそ…

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趣味の昆虫と物理学。原子核物理で博士(理学)持ち。自分なりに見つけたおもしろい問題とその解決の記録。検索しても簡単に答えが出てこない問題をネタにします。物理のレベルは容赦なく高め。

マガジン

  • ちょっと上級の物理学(たまに数学)

    基本事項の解説はありません。検索しても簡単に答えが出ない問題を考えた記録。

  • 大人がハマる昆虫研究

    40になって知ったディープな昆虫の世界。身近な環境も、視点次第で宝の山に。

最近の記事

ターンテーブル上を転がる球の不思議な運動

はじめに「楽しめる物理問題200選」という、物理の問題集がある。 大学の学部生向けの問題集で、題材は主に古典物理学の範囲だが、なかなか興味深い問題が集められているのだ。一見難解に見えても、ある気付きを得ると簡単に解けるような「補助線一発解法」的な問題も多く、単なる演習書を超えた面白さがある。 この本で目を引いたのが、以下のような問題である。*印2つの難問指定。以下引用。 P99** オーストラリアのキャンベラにある科学博物館に、次のような装置がある。水平なテーブルの中央

    • 双眼実体顕微鏡のフレア解消法

      はじめに最近購入した廉価品の双眼実体顕微鏡で白い背景で虫を観察すると、視野全体に白っぽいフレアが広がり、まったく使い物にならないことが判明した。廉価品とは言っても、メーカー希望小売価格10万円、実勢価格4万数千円である。実に落胆させられたが、ローテクの工夫でフレアをほぼ解消し、劇的にコントラストを上げることができた(トップ画像参照)。材料はタダ同然の簡単な工作でできるので、紹介する。 フレアの発生と対策の原理フレアとは、像の形成に寄与しない光(迷光)が過剰に光学系に入射して

      • 小蛾類の展翅法

        はじめに 昨今の昆虫界において蛾類愛好家は意外と多いが、いわゆる小蛾類(ミクロレピ)とよばれる小型種の愛好家は依然として少数派である。小蛾類は、小型ながら、金属光沢や豊かな色彩を持つ美麗種が多い。 小蛾類では、生態も未解明の種が多いため、コレクションの対象としてのみならず研究対象としても魅力的な分類群と思われるが、標本作成と種同定の困難さが敷居を高くしている。小蛾類の展翅法に関しては、過去にいくつか解説が出ているが、小蛾類専用の展翅板を用いるのが前提となっている。開帳がわず

        • 一様加速する電荷は電磁波を放射するか?―電磁気学の奥深すぎるパラドックス―

          はじめに 等加速度運動を相対論的に記述するリンドラー座標について、これまでに以下の5本の記事を書いた。 ①リンドラー座標を自力で導出してみた―等加速度運動の相対論的記述― ②リンドラー座標つれづれ(1)―双子のパラドックス― ③一般相対論的放物線―リンドラー座標つれづれ(2)― ④事象の地平面、ガウスの法則の破綻?—リンドラー座標つれづれ(3)― ⑤無限遠にある電荷がガウスの法則を取り戻す―リンドラー座標つれづれ(4)— これで、ようやく本丸の問題に取り掛かる準備が整った

        ターンテーブル上を転がる球の不思議な運動

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        • ちょっと上級の物理学(たまに数学)
          18本
        • 大人がハマる昆虫研究
          27本

        記事

          ヨシトミダルマガムシ徒然

          はじめに ヨシトミダルマガムシHydraena yoshitomiiという水生甲虫がいる。ダルマガムシ科に属する、体長1.5 mmほどしかない微小種である。ダルマガムシ科の中でも、赤茶色の体色が特徴のシコクダルマガムシ種群に属する種で、この仲間は、通称、赤いダルマガムシ(赤ダルマ)と呼ばれる。 ダルマガムシ科の虫はいずれも微小で、見つけるには種ごとにコツを要するが、この赤ダルマの仲間は、特に採集が難しいことで知られる。難しい理由は、 とにかく小さい とにかく環境にうるさ

          ヨシトミダルマガムシ徒然

          無限遠にある電荷がガウスの法則を取り戻す―リンドラー座標つれづれ(4)—

          はじめに しつこいが、リンドラー座標ネタは続く。本稿は、以下の記事の続きである。 問題をおさらいする。荷電粒子が$${z}$$軸上を相対論的な等加速度運動をしている状況を考える。$${t = -\infty}$$, $${z = +\infty}$$から原点に向かって移動してきて、$${t = 0}$$に$${z = b\,\,(>0)}$$に到達し、そこで折り返して$${t = +\infty}$$, $${z = +\infty}$$に向かって飛び去って行く。このとき、

          無限遠にある電荷がガウスの法則を取り戻す―リンドラー座標つれづれ(4)—

          事象の地平面、ガウスの法則の破綻?—リンドラー座標つれづれ(3)―

          はじめに 等加速運動を相対論的に記述するリンドラー座標について、これまでに以下の3篇の記事を書いた。 ①リンドラー座標を自力で導出してみた―等加速度運動の相対論的記述― ②リンドラー座標つれづれ(1)―双子のパラドックス― ③一般相対論的放物線―リンドラー座標つれづれ(2)― 相対論的な等加速度運動で興味深いのは、等加速度運動する主体が荷電粒子の場合である。荷電粒子の等加速度運動を相対論的に取り扱うと、荷電粒子自身が周囲に作る電磁場や、荷電粒子が放射する電磁場について、古

          事象の地平面、ガウスの法則の破綻?—リンドラー座標つれづれ(3)―

          Interference Pattern Formed in a Finger Gap is NOT Single Slit Diffraction

          Simple way of making an interference pattern with fingersThe phenomenon of forming an interference pattern by using light that passed through a double slit is a basic item learnt in a high school physics course. It is a good example that li

          Interference Pattern Formed in a Finger Gap is NOT Single Slit Diffraction

          菌食性甲虫つれづれ

          菌食性甲虫というのがいる。菌食性とは、キノコを専門的に摂食するという意味だが、それらが食べるキノコは、人間が食べるような柔らかいキノコではなく、朽木や立ち枯れについているカワラタケのような硬いキノコであるのが普通である。山中を歩いていると、このような硬質キノコがたくさん付いている立ち枯れなどがよく見つかるが、それらを見て回ると、たくさんの小甲虫が群がっていることがある。 これらの菌食性甲虫は、どういうわけか、まんべんなく分布している感じではなく、特定のポイントに複数種がまと

          菌食性甲虫つれづれ

          一般相対論的放物線—リンドラー座標つれづれ(2)—

          はじめに 本稿でも、等加速度運動の相対論的な記述について紹介する。以下の記事の続きである。本稿の内容も、調べればどこかに解説されていることなので、自分のオリジナルな部分は特にない。表式を簡単にするため、前記事同様、以下で光速度$${c=1}$$とする単位系を使用する。 場所に寄らず一様な重力場があるとき、ニュートン力学によると、空中に放り投げた物体の軌道が2次曲線の放物線を描くことは、高校の物理で習う基本事項である。式で書くと、鉛直方向の速度と座標は、 $${\displ

          一般相対論的放物線—リンドラー座標つれづれ(2)—

          リンドラー座標系つれづれ(1)―双子のパラドックス―

          はじめに 本稿でも、等加速度運動の相対論的な記述について紹介する。以下の記事の続きである。本稿の内容も、調べればどこかに解説されていることなので、自分のオリジナルな部分は特にない。表式を簡単にするため、前記事同様、以下で光速度$${c=1}$$とする単位系を使用する。 ざっと復習すると、静止系(S系)に対して、$${x}$$方向に一定の加速度$${a'}$$で動いている座標系をS'系とすると、S'系の座標$${(t', x')}$$とS系の座標$${(t, x)}$$の間の

          リンドラー座標系つれづれ(1)―双子のパラドックス―

          簡単なヤマビル撃退法

          虫を始めて間もない2017年初夏のこと。当時、地上徘徊性甲虫のゴミムシ類の採集にハマっていたのだが、身近な耕作地に生息する種は大方把握できたので、湿地性の種を見たくなり、居住している厚木市内にある休耕田の湿地(下写真)に、夜中に行ってみたことがあった。 ライトで地面を照らすと、予想通り、湿地性のゴミムシ類がたくさんいるではないか!憧れていたアオゴミムシやミイデラゴミムシも活発に動き回っていた。採りたい種の生態を考慮して、場所を選んで見にいけば、ちゃんと見つかるものなのだと実

          簡単なヤマビル撃退法

          ヒルガオハモグリガの謎―身近な小蛾類の不思議な生態―

          ヒルガオハモグリガBedellia somnulentellaという蛾がいる。開張(翅を広げた大きさ)が1 cmほどの小さな蛾である(下写真)。 本種はその名の通り、幼虫がヒルガオ類の葉の内部に潜って、表皮を残して内部の組織を摂食する。いわゆる小蛾類と呼ばれる小型の蛾の幼虫は、このような潜葉性の生態を持つもの(リーフマイナー)が多い。幼虫の潜葉食痕(マイン)は、下写真のような感じ。ヒルガオ類は、街中でフェンス等に絡んでいるのがよく見つかる身近な雑草だが、よく見て回ると、この

          ヒルガオハモグリガの謎―身近な小蛾類の不思議な生態―

          リンドラー座標を自力で導出してみた―等加速度運動の相対論的記述―

          はじめに 1990年に放送されたシリーズもののNHKスペシャル「銀河宇宙オデッセイ」を覚えている人がいたら、いい年した大人だろう。当時最先端の天文学の世界を紹介する科学番組なのだが、当時まだ珍しかったCGを駆使した映像が美しく、とにかくそのクオリティが半端なく高かったのをよく覚えている。当時中学2年の私は天文にハマっており、朝日文庫から出ていたカール・セーガンの「COSMOS」で読んだ世界が、当時最先端のCG映像で再現されているのを見て、心底感激したのだった。 この番組は、

          リンドラー座標を自力で導出してみた―等加速度運動の相対論的記述―

          自宅の庭に孤立発生したオオミノガ

          オオミノガEumeta variegata (Snellen, 1879)という虫がいる。日本産のミノガ科(いわゆるミノムシ類)で最大の種である。幼虫は広食性で、あらゆる植物の葉を摂食する。終齢幼虫が被るミノは、トップ画像に示したような長さ数センチもある立派なもので、いわゆるミノムシのイメージに最も近い種だろう。オオミノガはほとんど人里にしか生息しないため、一昔前、冬に葉を落とした庭木に越冬中の幼虫のミノがぶら下がっている風景は、里山の風物詩だったようである。しかし、2000

          自宅の庭に孤立発生したオオミノガ

          原始的鱗翅類 コバネガ

          鱗翅目(チョウ目)は、昆虫の中でチョウや蛾を含む巨大な分類群であるが、その中で、コバネガ科という原始的な仲間がいる。一般に、チョウや蛾の成虫は、花の蜜や樹液などを吸うためのストロー型の口器を持っているが、コバネガの成虫にはそれがない。また、コバネガの幼虫は、他の鱗翅目の幼虫が目もくれないジャゴケ類を食べることで知られている。成虫の発生時期は短く、時期は種によって異なるが、春先から初夏にかけて、1か月足らずの期間しか見られないようである。 幼虫が食べるジャゴケは特に珍しいもの

          原始的鱗翅類 コバネガ