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じわじわツボる絵コンテ風イラスト『リッランとねこ(イーヴァル・アルセニウス著)』#よみもの

長くつ下のピッピ、スプーンおばさん、小さいロッタちゃん、アンデルセン童話など、北欧の児童文学で育ち、大学では北欧文化を専攻したわたし。
最近も、『オンネリとアンネリ』と出会い、北欧児童文学熱が再燃しかかっている。

今回、100年以上前に発表され、今もスウェーデンの子どもたちに読み継がれているという『リッランとねこ』の再訳が出版されたということで、早速図書館で借りてみた。


リッランとねこ

著者:イーヴァル・アルセニウス
発行日:2022年12月17日
ページ数:40ページ
対象年齢:3・4・5歳〜

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あらすじ

リッランはある日、大きなねこに出会います。
ねこはいいます。
「ぼくはやさしいねこです。どうぞ背中におのりください」
リッランがねこの背中にのったとたん、ねこはたったとかかけだしました。
いくさきざきで、動物たちにでくわしますが、リッランとねこを見てみんなこわがって逃げ出します。あばれんぼうの牛も、強そうなワニさえも。
やがてお城についたリッランとねこは、王様からごちそうをふるまわれ、食べすぎておながはちきれそうになります。
さいごに、ふたりはお母さんの待つ家に無事に帰り、ほっとして眠りにつくのでした。

感想

病気で夭折した画家が、2歳の愛娘エヴァのために描いた作品。
ちなみにリッランはスウェーデン語で「小さい女の子」という意味。

40ページあるが、ページあたりの文字数は少なくて、軽やかにテンポよく読み進められる。
訳者のあとがきによると、「リズミカルな文章に娘をただただ楽しませいたという父親の純な想いを込めた」とある。
韻を踏んでいるのかなとおもうので、原語で読んでみたい。

内容で気になったのは、この3点。
⚫️リッランがおもちゃのむちであそんでいたこと
(北欧では普通なの?)
⚫️途中で出会ったおじさんの鼻が青かったことと、リッランとねこにおびえたおじさんの鼻がぐーんと長くのびたこと
(その後おじさんはどうなったのかはかかれていない)
⚫️食べすぎたねこのおなかがはちきれて、まっぷたつになったこと
(血かジュースかわからないけど、赤い液体があふれ出てくる様子やねこの表情がこわすぎる)

日本人だからなのか、大人目線で読むからなのかわからないけれど、おそろしいやら、ふしぎやらで、とにかく印象に残った。

イラストは色合いが優しく楽しげで、一見かわいい。
けど、よく見たらノートに鉛筆でいたずら書きしたようなラフなタッチで、まるで、色付けされた絵コンテのようだ。

眉毛のあるリッラン、眉毛のないリッラン、おばあさんのようなほうれい線のあるリッラン、かなり薄毛のリッラン、ポニーテールのリッラン。リッランの描かれ方もさまざまで、安定しない。

けれど、このシンプルな線と色だけで描き出された、小さい女の子と動物の生き生きとした表情にはおもしろみがある。
真似できそうでいて、ぜったい真似できない。
とくに、おなかがいっぱいになって、目が白丸になったリッランがわたしはすき。
じわじわツボって、何度も見たくなる魅力がある。

おまけ

所属していた芸術アカデミーでは写実に重きを置く方針を打ち立てていたので、作者のような自由なスタイルの絵は評価されなかったそう。

しかし、万人受けを狙った作品よりも、目の前にいる大事な人を楽しませたいという純な想いから生みだされた作品が、結果的に多くの人のこころに届くのかもしれない。


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