プロ (短編小説)

彼と知り合って以来、僕にはそう信じてやまない事実がひとつだけある。彼が、紛れもなくバックパックのプロということだ。そもそもバックパッカーというのは旅人のようなものだから、職業人という意味でプロのバックパッカーがいるわけない。そんなのは言うまでもないことだろう、これほど馬鹿げた話もない。しかし彼こそは、本物のバックパッカーとしてふさわしい人物であると僕には思えるのだ。

きわめて厳格な性格の持ちぬしである彼の旅行は、まずとにかく準備から始まる。彼がいつも、初めての場所であろうと地図をいっさい見ずに移動でき、つねに時間ぴったりに目的地に到着するのは、徹底され尽くした準備のためである。彼は自らの行くべき場所とそこまでの道のりをあらかじめ緻密に計画することと、それをじっさいに過不足なく遂行することに、すべての熱量を注いでいる。彼の計画には事故や障害といった偶然性が入りこむ余地は存在しない。彼は独自の方法と努力によって、彼にしかできない旅をするのである。見るからに、他のバックパッカーや旅行者とは一線を画している。

異彩を放つ彼の方法が、すべての人々にとって適切とは限らない。むしろ多くの場合、彼のような徹底的な手法は、他の旅行者には必要とされないどころか敬遠される。もっぱら旅について言うなれば、計画通りに進めることが必ずしも最善ではない。偶然の出会いや未知の体験に対して柔軟に心をひらいておくことのほうが、一般的には推奨されることだろう。

けっして僕は、他の旅行者に対しても彼とおなじ方法を無理に押し付けるつもりはない。そうではなく、一度でも旅をする者であれば彼のやり方を知っておいても損はない、ということをただ言いたいだけである。

そのためだけに、僕はいまからきみに、彼の旅についてのいくつか知っていることを話したい。それはきみには少し退屈かもしれない。まあでもいいから聞いておくれ。僕はそう言ってからさっと立ち上がって、淹れたてのコーヒーをきみのためにカップに注いだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?