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Hipcamp - キャンプ版Airbnbの成功の秘密とは?

米国アウトドア市場で飛ぶ鳥を落とす勢いで急成長しているスタートアップがある。キャンプ版Airbnbと呼ばれるHipcampは、国立公園のキャンプ場から遊休資産となっている個人の庭や牧場、広場などの土地をキャンパーに貸し出すマーケットプレイスだ。今日は、このHipcampの急成長をデザインやビジネスの観点で解きほぐしていく。また、日本で同様のサービスを展開する場合のチャンスや課題についても考察する。

Key takeaways
・Hipcampは2013年に創業以降、アメリカ52州全ての国立公園のキャンプ場をカバーし、23,712の公園、38,480のキャンプグランド、383,404のキャンプサイトを予約できる。
・アメリカ、カナダ、イギリス、オーストラリア、フランスの5カ国で事業展開。うちイギリスとオーストラリアは現地類似企業を買収し、事業提携。
・マーケットプレイス型のビジネスモデルを採用。ホストからリスティング料金の10%、ゲストから18%ほどを徴収する。
・Hipcampの面白さは3点。1) ホストへの充実したサービス、2) Hipcamp専用のフォトグラファー、3) ユニークなキャンプ体験。
・日本にも類似サービスとしてExcampとTakibiがある。
・1) キャンプ人口の増加、2) 自然を求めるインバウンド観光客の増加、3) 遊休地の増加が社会問題化、の3点から日本でもチャンスあり。
・一方で、ホスト側への手厚めのサポートが必要であったり、コミュニケーションのためのITリテラシー、システムの導入負担、知らない人が来ることへの抵抗感など日本ならではの課題もあり。

Hipcampとは?

Hipcampは、キャンプサイトを探すキャンパー(ゲスト)と遊休地をキャンプサイトとして貸し出したいオーナー(ホスト)をマッチングするマーケットプレイス。キャンプ版Airbnbと呼ばれ、今アウトドア市場で一番勢いのあるサービスだ。自然豊かなカリフォルニアのサンフランシスコにHQを構えるHipcampは、創業者のAlyssa Ravasio自身のキャンプ探しの原体験から生まれた。2013年に創業してからの累計調達額は$97.5M(約130億円)で、本記事執筆時のラウンドはシリーズC。現在は個人所有のキャンプサイトだけでなく、グランピングやロッジでの宿泊場所も探すことができる。アメリカ全土の国立公園もカバーし、383,404のキャンプサイトが予約可能。また、カナダ、イギリス、オーストラリア、フランスにも事業展開している。イギリスのCoolcamping、オーストラリアのYoucampと、現地で既にHipcampと同じようなサービスを展開していた企業を買収することで、この事業展開を可能にした。

Hipcampのビジネスモデル(筆者作成)

ビジネスモデルは、いわゆるマーケットプレイスモデル。予約が成立したリスティングの設定料金のうち10%をマッチング費用/システム利用料としてホストから徴収する。また、ゲストからは滞在料金の約18%程度をサービス料金として徴収する(※こちらについては明記がないが、過去利用した数回のレシートから筆者算出)。その他、ロゴ入りのサイネージやマーチ販売による売上もある。

Hipcampの面白さ

Hipcampが広く受け入れられている理由は挙げればキリがないが、個人的に思う面白い点は以下の3つ。

1. ホストへの充実したサポート

出典:Hipcamp

Hipcampがホストを増やすことは、ゲストであるキャンパーにより多くの宿泊オプションを与えることになる。つまり、サービスの満足度、売上に直結する。Host FAQと題したページには、Hipcampでホストをやりたい人/始めたばかりの人向けに、リスティング作成からリファンドのやり方、Instagramを使ったマーケティング手法など、丁寧な質問回答集が整理されている。これは、Hipcampがホストとの長年のやり取りを通じて見えてきたホストのCustomer Successの賜物と言ってもいいだろう。またSupply Hipcamp Shopには、Hipcampのオリジナルグッズに加え、ホストたちが使えるサイネージやPDFでのデザインデータを販売している。これら全ての施策は、ホストが短時間で成功体験につながるためなのはもちろん、HipcampにとってもHipcampブランドとして提供したいキャンプ体験/サービス体験の品質に一貫性を持たせることに寄与していると考えられる。

2. Hipcamp専用のフォトグラファー

出典:Hipcamp

Airbnbがサービス初期に、リスティングに掲載される写真を「素人が適当に撮った写真」から「プロが撮った映え写真」に変更したところ、リスティングへの流入数や予約数が増えたという記事をずいぶん前に見た。Hipcampのサービスサイトを見ていると、彼らも同様に写真を重要視していることが伺える。まず、キャリアページにはHipcamp Photographerとタイトルのついた職が他の専門職と同様に横並びになっており、アウトドアやライフスタイル系の写真家であれば誰でも応募ができるようになっている。また、Hipcamp Photography Style Guideと題したスタイルガイドを用意しており、Hipcamp流の写真の撮り方、構成、カラーグレイディングなどについて細かい指示が記されている。それは選考基準としての明瞭さに加え、Hipcampのブランディングに一貫性を持たせる仕掛けになっている。フォトグラファーに選ばれると、1アサインメントにつき$75-100が支払われる。もちろん写真撮影のための滞在は無料で、家族や友達も招待できる。Assignment pageには、今写真を必要としているキャンプ場が一覧になっている。

3. ユニークなキャンプ体験

出典:Hipcamp

キャンプに慣れてくると少し人とは違った体験がしたくなるものだ。整備が行き届いた人気キャンプ場に行くだけでは満足できなくなり、バックカントリーでのキャンプ、冬キャンプなど、体験の幅を広げたくなる。Hipcampにはそんなキャンパーの冒険心を満たしてくれる選択肢が無限に用意されている。国立公園の予約はすぐにいっぱいになってしまう中で、こうした選択肢が用意されているのはありがたい。

脱線するが、Airbnbを参考にすると、今後Hipcamp experienceやHipcamp adventuresといったアウトドアアクティビティを提供する機能/新サービスが追加されてもおかしくない。現地のアウトドアガイドとのマッチングを同じプラットフォームでできると、より面白い体験が提供できそうだ。

日本でやろうとした場合のチャンスやチャレンジは?

これだけよくできたサービスなら、アウトドア先進国の日本にも類似サービスがありそうだ。ExCAMPは、まさしく日本版のHipcampというもので、遊休地とキャンパーをつなぐマッチングサービスとして、2018年6月頃にスタートした。また、キャンプ場予約サイトであるTakibiでは、新たに遊休地キャンプというカテゴリーが2021年に新設されている。今後Hipcampのようなビジネスモデルが日本でも広がっていくのか、そのチャンスやチャレンジについて考察した。

チャンス

1. キャンプ人口の増加

「オートキャンプ白書2022」をもとに筆者作成

オートキャンプ白書2022によると、2012年頃から日本のオートキャンプ人口は右肩上がりに成長している。2012年には720万人だった参加人口がパンデミック前の2019年には860万人と、2012年比119%となっている。パンデミックで一時は下がったものの、3密を避けられるレジャーとして、またワーケーションやビジネスキャンプとしても注目された結果、2020年610万人から2021年750万人と前年比123%となった。最近では、キャンプに慣れ親しんだ人も出てきており、冬キャンプやソロキャンプをやる人も増加している。今後このようなキャンプ玄人層が増加すると、人とは違うキャンプ体験をしたいニーズが増えるだろう。そこにHipcampのようなモデルがハマるのではないか。

2. 訪日外国人がより自然を楽しむように

日本政府観光局、ATTAをもとに筆者作成

アメリカにいると強く感じるが、まだまだ観光地としての日本の人気は根強い。国境が開いた今、インバウンド観光客は復調傾向にある。また、最近は欧米を中心にアドベンチャーツーリズムが注目されている。アクティビティを通じて自然と文化を体験するもので、その市場規模は2017年時点で72兆円と大きい。事実、ウィンターシーズンのニセコや白馬、野沢温泉はほぼ異国なほど外国人が押し寄せている。今後、欧米のアウトドア先進国から訪日した観光客が、日本の自然を楽しみたいケースはさらに増えると予想される。この受け皿の一つとしてHipcampのような事業が必要になる。

3. 遊休地の増加

大和総研「キャンプ×シェアで地方創生」をもとに筆者作成

人口減少、少子高齢化、跡継ぎ問題などにより個人が所有する空き家や耕作放棄地、企業が所有する遊休不動産などの土地(遊休地)の割合は年々増加している。日本の世帯が所有する空き地・原野等の面積は、2018年では2013年比で1.4倍の1,364km2となっている。琵琶湖の2倍以上の広さらしい。こうした土地を有効活用する点でHipcampのようなモデルは一つの解決策となりうる。

チャレンジ

1. ホスト側への手厚めのサポートが必要

Hipcampがホストに対して、充実したFAQやWebinarを用意していることは上述したが、日本でやる場合もこのサポートは必要不可欠だろう。事実、ExCAMPもTakibiも遊休地をキャンプ場化するためのコンサル支援も展開しており、ホスト側への配慮(ホストを集める苦労)が伺える。また、日本ならではの問題として考えられそうなのが、キャンプ場施設として設備が不十分だと人が全くやってこない可能性があること。アメリカではアウトドア・キャンプ慣れしている人が多いため、例えばトイレ設備などの水回りがしっかりしていなくても何とかなる。日本はまだその層はニッチなため、そうした配慮が行き届いていない施設は敬遠される可能性が高い。これをサービス側としてサポートしていくのはなかなか厄介だ。

2. コミュニケーションのためのITリテラシー

Hipcampのようなサービスを使う層は、おそらく普段からスマホアプリやWebサービスに慣れ親しんだ人が大半になる。オンラインでのやり取りが当たり前になったユーザーたちからすると、少しでもそこにストレスが感じられるとサービスに定着しない可能性が高い。ホスト側には、携帯端末を使ったコミュニケーションや、予約システムを使うある程度のITリテラシーが求められる。

3. システムの導入負担

このサービスで予約できる対象を個人の所有する私有地だけでなく、既存のキャンプ場も含めようとすると、キャンプ場オーナーたちに新たにシステムを導入してもらうことになる。日本の既存キャンプ場事業者にとっては、そのほとんどが既に「なっぷ」ないしは、別の予約システムを導入しており、新しいシステムをわざわざ導入しようとはなりづらい。なっぷが始まった当初は、サプライ側を増やすために初期費用を無料とし、手厚いサポートで利用キャンプ場を増やしていった話を聞いたことがある。この導入ハードルを超えるだけのインセンティブ、もしくはマンパワーが必要になりそうだ。

4. 知らない人がいることへの抵抗感

Airbnbが日本で事業展開し始めた際にもよくニュースに取り上げられていたが、誰かの私有地を知らない誰かがうろちょろしていることに疑問や不安を抱く、抵抗感を感じるのはごく自然のことにように思う。1のホスト側への手厚めのサポートには、周りの住民や地域全体への配慮も含まれているといいのかもしれない。

Hipcampが日本に来る可能性はあるのか?

やはり言語や文化の壁は大きい。Hipcampの事業展開を見ても明らかなように、英語圏かつ似たような文化圏の地域から展開している。イギリスはCool camping、オーストラリアはyoucampなど、既に現地でキャンプ場や遊休地ネットワークを持ちサービス展開していた企業を買収した例にあるように、日本展開の場合もそうした現地企業の買収もしくは事業提携するやり方が順当に考えるとあり得そうである。

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今回はアメリカで大人気のサービスHipcampについて、ビジネスとデザインの観点で解きほぐしてみた。今回の内容は、#TakramCastの「アウトドアとデザイン」シリーズでもお届けしています。興味を持たれた方は、時間ある時にゆるりと聞いてみてください。今後もアメリカのアウトドア情報を中心に、発信していきます!では👋

https://cast.takram.com/podcast/outdoor-and-design-02