見出し画像

『未来戦隊タイムレンジャー』(2000)の不可解なドモンとホナミの結末の意外性

『未来戦隊タイムレンジャー』(2000)を最初に見た時から今まで地味に引っかかっていたポイントの1つがドモンと森山ホナミの恋愛と結末の意外性である。

以前小林靖子が描く捻れた肉親愛の記事でこのことは触れたが、何故小林靖子はドモンとホナミだけ子供を残すことを許したのであろうか?
同じように恋愛関係にあった竜也とユウリももしかすると本当は事に及んでいて、大消滅を食い止めた後にユウリが身籠っていた可能性も考えられなくはない。
作品の都合上、大消滅を食い止めた後の31世紀が望んだ良い未来になっていたかどうかは不明であり、そのような恋愛事情については考えても詮なき事である。

小林靖子が描いた戦隊・ライダーを含めて見ると、小林靖子が描く全ての「家族」「肉親」は最終的に残酷なまでに崩壊していくということだ。
それはいわゆる日本人が古来持つ「物の哀れ」なる無常観でもなく、さりとて「戦いの世界では家族の絆は簡単に崩壊する」といったものでもない。
どの作品においても、女史は決して恋愛・結婚に対して否定的ではないのだが、自身がメインを担当する作品では決して家族愛を安直に肯定しないのだ。
何故かというと、単純に彼女自身の経験も含む「欠落」から来るだからであり、要するに恋愛・結婚の末に家庭を持つヒーロー像を想像できなかったのである。

これが井上敏樹との最大の違いでもあり、井上敏樹も「人物」を重視しつつ従来のヒーロー像からはかけ離れた人物を描くが、恋愛・結婚には肯定的だ
『鳥人戦隊ジェットマン』(1991)と『仮面ライダーキバ』(2008)ではラストを結婚式で飾っていたし、最新作『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』(2022)もハッピーエンドである。
指名手配犯の犬塚とソノニ、雉野とやり直そうとする夏実、そしてタロウと再び縁ができたはるかなど井上敏樹は男女のロマンス自体を決して否定はしない。
個人の時代が叫ばれて久しい令和の世にこれだけ恋愛を肯定する様も珍しいが(『キラメイジャー』の荒川稔久は別として)、いずれにせよ恋愛至上主義の価値観が残っている

それに対し小林靖子は恋愛・結婚をどの作品においても終着点として描かず、あくまでも「人生の一部」としてしか描いてないし、またそれ自体に重きを置いているわけでもない。
個人的に家族愛が一番物語の核として描かれていたのは『仮面ライダー電王』(2007)だが、あれも詰まる所桜井侑斗と野上愛理はすれ違ったまま侑斗が消滅することで幸せを得る
そして「シンケンジャー」「OOO」「ゴーバスターズ」の「黒靖子」と呼ばれるようになった後期の作品群では男女の抱擁・恋愛・結婚といったことすらしなくなる。
一種の虚無感・諦観のようなものであろうか、戦いに精を出すヒーローを描く一方でどんどん家族や仲間といった共同体への意識は無くなっていくのが興味深い。

ドモンとホナミの恋愛はいわゆる「ギンガマン」のゴウキと鈴子先生のバリエーションに過ぎないのだが、ゴウキと鈴子先生はセックスも抱擁もしていない。
これは決して子供向けだから描かなかったのではなく、元々宇宙人の子孫と思しき戦士と学校教師をしている一般人女性とではそもそもの価値観が違うからだ
対してドモンとホナミは未来人と現代人という「生きている時間」以外の差はなく、そういう行為に及んでもおかしくはない関係性ではある。
だが、視聴者が果たしてこの2人がセックスしてホナミが赤ん坊を出産する様が想像できるかというと、全く想像できないのではなかろうか。

そもそもホナミ役を演じた吉村玉緒自体が決して垢抜けた容姿があるわけでも、官能的な肉体美や色気を持つような女性ではない。
対するドモン役を演じた和泉宗兵も同じく永井大程の垢抜けた容姿や抜群の演技力があるわけでもないから、2人が結ばれたとてそれは劇的ではない。
むしろ手を繋ぐと気後れする2人が何故大人の階段を飛ばしてお互いの子を成すに至ったのかに関しては今もって謎である。
その代償としてドモンはホナミが赤ん坊の姿を見ることが叶わないまま別れたのだが、そう考えると『海賊戦隊ゴーカイジャー』(2011)の40話は余計な後付けをしやがったものだ。

あの結末で小林靖子は決してドモンが好き物であるとか、或いは当時少しずつ話題になりつつあったシングルマザーの生き方を肯定するとかいったことを意図したわけではない。
2人が共に同じ時間を生き明日を変えようと「今」をしっかりと生きた、その証を残すためのものであったことがそこで示されるのみである。
『未来戦隊タイムレンジャー』(2000)という作品は決して「運命を変えられる」とも「明るい未来がやってくる」とも語られていない
だが、浅見親子の和解とホナミの赤ん坊のあのラストをもってスーパー戦隊シリーズが綺麗さっぱり20世紀と別れを告げ、新時代へ足を踏み入れたことだけは確かである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?