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『ひろがるスカイ!プリキュア』第1話感想〜「ヒーロー」という言葉を自称すればそれで本当にヒーローというわけでない〜

何やら最近やたらとプリキュア関連が騒がしいので、せっかくの機会ということで今更ながらに『ひろがるスカイ!プリキュア』の第1話のみ視聴してみた。
率直な感想としては「決して悪いわけではないが、1話で心を鷲掴みにされるほどではない」だが、個人的にどうしても引っかかる点だけが一個だけある。

「空の上を怖がっていたら、ヒーローは務まらない。ヒーローは、泣いている子供を絶対に見捨てない」

ん?

「相手がどんなに強くても、正しい事を最後までやり抜く・・・。それが・・・ヒーロー!」

え!?

何だろうこの駄々滑り感というか、とりあえず「ヒーロー」という言葉を使ってそれっぽく行動させときゃそれでいいだろみたいな雑な台詞回しと展開は?

いいか!「ヒーロー」という言葉を使えばそれが本当のヒーローというわけじゃないぞ!

何なんだろう?今年は「キングオージャー」といいこの「スカイプリキュア」といい自ら「ヒーロー」ないし「悪党」を自称する「意識高い系有言実行型主人公」のブームでも来ているのだろうか?
もしかして「海賊王に俺はなる!」「火影になるってばよ!」「俺は新世界の神となる」の安いオマージュのつもりなのか?何せ今年の戦隊レッドはこれだったからなあ。

自ら「邪悪の王」を名乗るどこぞの「コードギアス」の主人公が言い放ちそうなことを言ってる奴が主人公で、でも蓋を開けてみたら単なる「厨二病を演じてるだけの総受け体質のいい奴」という。
要するに「ジェットマン」のブラックコンドル/結城凱のような根っからのダークヒーローというかピカレスクロマンではなく、かっこつけのポーズでしかない。

ちょうど現在同時配信中の『獣電戦隊キョウリュウジャー』(2013)のキングもやたらと「キングと呼んでくれ」「俺たちは戦隊だ」「ブレイブだぜ」とやたら特定の呼称を登場人物の口で言わせている
そういう作品が多いせいか、本作の主人公ソラ・ハレワタール(このネーミングセンスがダメ)もそういう「ヒーローを自称してるイタい人」に見えてしまって、こういう露骨な目標宣言は私のNGポイントに引っかかるのだ。
しかもご丁寧に「ヒーローとはどうあるべきか?」をわざわざ小さいノート(?)にイラスト付きでメモしているという、もはやオタ活に必死なガチ勢っぽくてあまりにも香ばし過ぎる。
それで行動がきちんと伴っていて結果が出ている隙のない完璧超人かと思いきや、意外と抜けてるところがあって、敵がオナラを繰り出すのも見抜けてなかったし現実世界に降りてきた時も焦りすぎだ

要するに「ヒーロー」としても「少女」としても見せ方が中途半端というか、アクション面で見ても変身前にパルクールレベルの動きができる描写があったが、これが「ヒーロー」としての視覚的描写だとしたら地味である。
わざわざ「ヒロイン」という言葉から「ヒーロー」という雄々しく前向きなイメージに変えてきたからどんな凄いやつが出てくるのかと思いきや、描写がショボくて肩透かしを食らった
俺としてはさ、やっぱり「戦う女ヒーロー」というからにはせめてこういうタイプを期待しとったわけよ。

シャアばりの威厳があったハマーン・カーン様
「タイムレンジャー」の紅一点・タイムピンク/ユウリ
「ヴォルケンリッター」のシグナム

こういうさ、力じゃ男には敵わないけどソリッドに尖ったドSなクールビューティーというか、「女傑」という言葉が似合うくらいにかっこいい男勝りを通り越した男前タイプの女ヒーロー
まあその系譜で行くと、実はもう一人現在配信中の『侍戦隊シンケンジャー』にこういう「女傑」がいるのだけど、まだ本編未登場なのでここではネタバレを防ぐために省略する。
で、ソラはビジュアルやアクションからてっきり歴代初の異世界出身の主人公というのと合わせて徹底的なゴリゴリの「戦士」なのかと思いきや、中途半端にマイルドで謙虚だから突き抜け具合が足りない
もうそこは女児向けとかいうのは気にしなくていいから、とことんまで突き詰めてプリキュアに変身せずとも生身で悪のアンダーグ帝国を相手に果敢に挑んでいくくらいの気概は見せて欲しかった

それから身体能力の高さに関していうと、ぶっちゃけ初代のなぎさとほのか、SSの咲舞もかなり高い方ではあるので、パルクールができるという程度ではまだ突き抜け方としては足りない。
まあただこれは半分くらい私が求めるハードルが高過ぎるせいなのかもしれないけどね、俺の胸をときめかせてきたヒーローって本当に「超人」と呼ぶべき奴らばかりだから
そういう圧倒的かつシンプルで大胆な力を持つ英雄たちは決して「ヒーロー」を自称しないしその力をこれ見よがしにひけらかしたりしないのよ。
そういうわけなので、作り手が意図したかどうかは別として、第一話の段階では少なくとも私が見てきたプリキュアシリーズと大きく違うのかと言われれば、案外そうでもないという。

今回この1話を見て改めて思ったのは、有言実行型のヒーローってさじ加減を間違えると単なる「口だけ人間」ってことになりかねないこと、そして何より「ヒーロー」という言葉が大変軽くなってしまうということだ。
「海賊王に俺はなる」とか「新世界の神になる」とか「火影を越すってばよ」とか、その目標宣言に見合うだけの信念と行動が実態として感じられるかどうかが描写として見せられていなければ単なる「絵に描いた餅」である。
まあソラの場合はまだ「ヒーローたらんと行動する」という前向きな姿勢は伺えるからうわべだけではないというのは理解できるのだが、それでもやはりまだまだ詰められると思ったし、正直ワクワクはしなかった。
これならまだ素直に鷲尾さんがやっていた初期の「等身大の女子中学生」路線でやった方が親近感がメインの層である女の子だちも親近感が湧くであろうし感情移入もしやすいのではないか。

異世界出身のヒーローというファンタジックな手法を用いるのは確かに「非日常的存在としてのヒーロー」を描きやすいが、その分キャラの性格から戦い方から何から徹底して詰めないと破綻してしまう諸刃の剣でもある。
実際それに失敗した例として『天装戦隊ゴセイジャー』(2010)があって、あれは護星界の描写と「護星天使とは何か?」の定義を第一話の段階で詰めていなかったが為に物語全体が曖昧なものに終わってしまった。
それと構造的に近いものをこの1話に感じてしまったわけだが、そう考えると『ふたりはプリキュアSplash☆Star』(2006)の第一話は世界観から設定からキャラから相当詰めに詰めた作品だったのだと実感する。
まあとはいえ、これはあくまでも私自身の主観的な問題でありお話そのものは割とオーソドックスなので、普通に見る分には特に違和感はない、ただ私の琴線に触れるほどではなかったというだけで。

よかった点としてはOPに初代のオマージュが入っていたことかな、これね。

あと、無駄な説明が多くなりがちな中で必要最小限の登場人物に絞って話を進める構成も悪くなかったので、視聴継続は正直厳しいけど、多分B(良作)〜C(佳作)クラスは普通に行けるんじゃないかな。
というわけで、相当に手厳しいフィードバックにはなってしまったが、せっかく「ヒーロー」という言葉を自覚的に用いているのだから、そこを徹底的に掘り下げて詰めればもっと突き抜けられるのにとは思ったのは事実。
素材そのものは悪くないので(少なくとも「キングオージャー」よりは全然マシ)、あとはグッと刺さるようなフックとなるものがあればもっと光るのではないだろうか。

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