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動詞/Verb

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記事一覧

『戦う』#370

戦うことについて、虐げられる状況から脱する勝利のための戦いとか必要な戦いとか、スポーツの対戦相手同士の戦いとか、給食で余ったコーヒーゼリーをめぐる戦いとか、さまざまあれど、他者を侵略するための戦いっていかなる場合においても正当化されないだろう、ということをこの日はじまってしまったロシア軍によるウクライナへの軍事侵攻に際して思うところで、日本国憲法においても侵略戦争をしないことを目指して立法されていることを思い出すし、こうなることは周縁からしてみれば望まれないことであることはハ

『ひしぐ』 #369

はじめは、「ひしゃげる」という言葉について知りたかったのがきっかけだった。何の気なしに、腕がひしゃげる、事故で車がひしゃげてる、とか、日常的に(といっても、頻発するようなものでもないし、口を毎日つくような言葉でもない)使う言葉だったからこれまで考えてこなかったけれど、言葉の厳密さみたいなものに関心がわくと、ふとしたときに普段使っている言葉にハッとする。今回の対象はその、ひしゃげる、だった。意味がわかる人からすればなんとなく、押し潰されているとか、オノマトペ的には「ぐしゃっ」と

『かく』 #366

真夏のピークが去ったとかなんとか考えていたら、猛烈な暑さが戻ってきた。八月もあと一週間で終わろうかというこの時期に、列島猛暑日三十五度超え、まったくまいってしまう。参ってしまって、部屋の片付けを始めた。クセみたいなもので、たぶん共感できるる人もいるかと思うけれど、何かそのときやるべきことがあるとかやらなきゃいけないことがあるときに、掃除を始めてしまう。今日はあまりに暑くて机に向かうこともおっくうで、うなだれて部屋を見ると本とか紙袋とかまあ色々がほっぽった状態になっていて、なん

『乾く』#353

いま、乾くのを待っている。水で書いた毛筆の練習用紙、毛筆の練習に毎回墨を刷ることなしにできるよう用意した水で書ける毛筆の練習用紙、紙というかこれは布なのかもしれない、それが、乾くのをいま、待っている。用紙はひとセットで5枚入っていたので1枚書いたら次の1枚、また次の1枚、と使い回していけるのだけれど、いきおい気合が入ってどんどん書いて文字が大きくなったり点画が気になって何度も書いたりその点画を含む漢字を改めて大きく書いたり、夢中になるとあっという間に5枚を書き散らしてしまい、

『拾う』#348

捨てる神あれば拾う神あり。とはよく知られたことわざですが特にいま人に見限られたとかいうわけでもないのでただ、先の『捨てる』話からひっぱった書き出しの材料で、ここ最近拾ったものって何があったか思い出してみるとそういえばチョコレートの空き箱を、ゴミ箱から拾ったわけでもないけれど、ただ無用になった空き箱を、デザインが素敵だったもんだから「ください」と貰ったことがありましたね、それくらいか、拾い物は。 何か持ち物を落とせば、拾う。食べているチョコチップメロンパンのチョコチップが落ちた

『捨てる』#347

少しずつ、部屋の不要なものや過剰なものを減らしていっている。本ならば古本屋へ持って行っているけれど、着古した衣服やその他の雑多なものものは、袋にまとめて捨てている。かつてゴミなんかじゃなかったものを、ゴミにする、ゴミなんかにする、その、この経験って、子供のうちに体験しておくべきだな、なんてことを思う。「心苦しくて、何通りでも捨てたくない言い訳をこしらえることはできるけれど、それでも捨てなくてはいけないんだ」という経験。それができずにいま、部屋の中は捨てたくないもので溢れかえっ

『ねじる』#342

先の『可動域』の話とややリンクするところで、腕や手首や手先の動作として、回す、というのは比較的容易なことで、ドアノブとか地球儀とか傘とか、くるくるぐるぐると回すことは「回して」と言われたら回し方は色々あれどまあ、回すことができる。けれど、ねじる、っていうのはなかなか難しいよな、と思った。それは、動作するのも、動作させるのも。先のするとさせるってのは、動作を、自分でイメージすることとイメージ通りに手や足を動かすこと、それと、自分でイメージした動きを相手に伝えることとそのイメージ

『回る』#335

人間は、左回りにぐるぐると回ることのほうがよく、右回りに回ることはストレスを感じる、らしい。そのことを知ったのは、漫画「エリアの騎士」から。漫画のほうではサッカーの話、ポジションを流動的に、左回りに変動させることで全員攻撃全員守備で次々と選手が局面参加できる作戦をネオトータルフットボールと銘打ったチームがあった、その内容は置いておいて、「人間は左回りに動くほうが気持ち良いのか」と知ったことから。そのことを知ると、いくつかのことに合点が行く。 ひとつは陸上競技のトラック、左回り

『盛る』#330

最近はラーメン屋で迷うことが多くなった。つけ麺を注文しようとするときに張り紙などで多く見られる「中盛り無料」の文字。食べきれるか食べきれないかで悩むのではなく、完食した後の身体の変化を考えて、幸せな満腹感を得られるかどうか、それに尽きるわけだが、ここのところ盛ってもらって食べきったあとのお腹の重たさにどんよりすることがままある。でも、せっかくたくさん食べられるのだし、食べちゃうぞ、と結論付くことが多数。それに少し似たことは家で朝ごはんを食べるときにしばしば発生している。朝が一

『かがむ』#322

ふだん何の気なしに発言する言葉だけれど、文字にして見ると直ちに違和感に襲われる。見慣れない文字だ。かがむ。漢字にすると、屈む。 最近、この動作が少々つらい。体の老化ではなく、どうも、筋肉が硬くなっているらしいこと、それが原因のようで。 ふだん、週に2回のランニングと、風呂場でのスクワットを行なっているなかで、ランニングのときは前後に体操とストレッチをしているけれどどうも、毎日これはやらないとまずいのではないかと、かがむことのつらさから思うことが最近しばしばある。ランニング前に

『壊れる』#308

破壊、デストロイ。これは、「壊す」。能動的な破壊行為。デストロイはまた違うか、どうだ、わからん。この度の単語は、厳密に言えば二語なのか、前回もそうだが、「割る」「壊す」の活用形に助動詞の「れる・られる」を受け身で補ってできた言葉だ。国語のテストで「単語ごとに区切りなさい」って問われたら二語に分けなければならない。壊/れる。 クラッシュ。破壊衝動に依拠しない、事故・偶発的な、クラッシュ。 グラスは割れると言うけれど、グラスが壊れると言うと、どこかイメージが変わる。もちろんかしゃ

『割れる』#307

飲み物を用意しようとグラスを手に取ったら、手が滑って落としてしまい、かしゃんと割れてしまった。 このとき、自分がどんな場面にあるかによって、ものすごく心境に差があることを思って、すごくおそろしくなったのだ。 バイト先のカラオケ屋さんのキッチンに入っているときだとしたら、かしゃんっとやってしまったとき、「あっちゃー」だ。それからノータイムで倉庫に行って箒とちりとりを取ってくる。集めて割れ物ボックスにかしゃかしゃっと空けて、気持ちを仕切り直してドリンクをまた作り始める。心の状態を

『笑う』#287

10月に入ると、その10月って月のイメージが先行していくら残暑が残っていようと秋の気配を微かながらにでも感じ取って秋の訪れを事実化しようと目論んでしまう。 スポーツの秋、読書の秋、食欲の秋、芸術の秋、さまざまに秋を形容する、秋を彩るフレーズは行為を伴って人間の全行動を秋に転化させようかという勢い。とはいえゲームとか睡眠とかフェスとか無いから、全行動は言い過ぎか。 お笑いも秋か、というとどうやらM-1が秋にやってるからそうかもしれないなと思いつつ、それで秋っぽいかといえばそうで

『妬む』#280

妬むためには自信が要る。どうでもいいことには妬む気持ちは起こらない。それは、友人や慕う人との間の愛についてもそうだし、ある物事に感じる才能や能力についてもそう。妬むためには努力が要る。そして、脳の成熟も要る。このことはいま読んでる本の中でつい最近わかったことで、抽象概念としてでもなく脳が関わる話。 感情としてふだん一括りにしていたのが、情動行動と情操行動で、妬みはその二つのうち高次な(大脳新皮質で営まれる成熟した大人の人間特有の)後者の情操。前者が快・不快などの反射的で短期間