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「自分を活かす、他人を活かす、組織を活かす。」 ~パワハラ防止「ジェラシー・マネジメント」の必要性~

こんにちは。
「自分を活かす、他人を活かす、組織を活かす。」
統合カウンセラーの猫間英介です。

 私は、この20年近く、会社でのコンプライアンス内部通報制度の相談窓口の責任者として、多くの内部通報案件の調査・対応を行ってきました。通報案件の中でもパワーハラスメント(「パワハラ」)に関連するものの件数は毎年、常に上位にありました。 
 
 本日は、職場におけるパワハラのうち、特に、上司(役員、部長、課長、係長、作業長など)から部下に対するパワハラが発生する原因について、私が経験上、強く感じていることをお話したいと思います。


1.「パワハラ」とは

 以前、パワハラの概念自体が明確でないこともありましたが、2019年5月の労働施策総合推進法の改正により、次のようにパワハラの定義づけが行われました。

【パワハラの定義】
  次の3要件のすべてを満たすもの
①職場において行われる優越的な関係を背景とした言動
②業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
③その雇用する労働者の就業環境が害される

2019年5月 改正労働施策総合推進法

また、厚生労働省からパワハラに該当する代表的な6つの類型が示されています。

 【パワハラの代表的な6つの類型】
① 身体的な攻撃: 暴行、傷害
②  精神的な攻撃: 脅迫、名誉棄損、侮辱、ひどい暴言
③ 人間関係からの切り離し: 隔離、仲間外し、無視
④ 過大な要求: 業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害
⑤ 過小な要求: 業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと
⑥ 個の侵害: 私的なことに過度に立ち入ること

厚生労働省 2013年3月 職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言

2.「ジェラシー・マネジメント」の必要性

 私が、約20年間、多くの上司から部下へのパワハラ案件対応を通じて強く思うのは、パワハラの大きな要因は、「上司のジェラシー(嫉妬心)」に根差している、ということです。 私は、パワハラ防止のためには、怒りを適切にコントロールする「アンガー・マネジメント」教育も重要であると思いますが、それ以上に、嫉妬をコントロールする「ジェラシー・マネジメント」教育は、絶対不可欠であると思います。
 
 ジェラシー(嫉妬)とは、例えば、広辞苑では次のとおりです。

【嫉 妬】
① 自分よりすぐれた者をねたみそねむこと。
② 自分の愛する者の愛情が他に向くのをうらみ憎むこと。また、その感情。りんき。やきもち。

広辞苑

 実際に私が対応してきた案件を参考にしたサンプル事例を、いくつか示します。

【事 例】  *あくまでもサンプル事例です。
     法律上の「パワハラ」が認定されるかはここでは議論しません。

◆事例1
 上司(男性)が部下(男性)の能力やポテンシャルを見込んでとても丁寧に育成をしてきた。しかし、数年後、部下が力をつけ、他部門や経営陣などから高い評価を得るようになると、とたんに部下の不足部分をこき下ろし、ときに長時間叱責し、部下の仕事のさして重要でもないような点にケチをつけは何度もやり直しをさせ、人事評価も毎回下げるようになった。

◆事例2
 オーナー会長(男性)が外部から有能な社長(男性)をスカウトし、数年間は蜜月関係にあった。しかし、その社長の社内での人望が高まり、強い求心力を持つようになると、とたんに冷淡な態度をとるようになり、いろいろなもっともらしい理由をつけて、社長の決裁権限を縮小したり、有能な社員を社長から切り離し自分の直轄に置くようになった。
 また社長を誹謗中傷するメールを幹部社員全員に配信した。最終的に社長は解任され、社内は大きな混乱に陥った。裁判にも発展し、会社のガバナンスが機能不全に陥るとともに、株主やメディアから厳しい批判にさらされた。

◆事例3
 上司(既婚男性)が高い評価をしてきた優秀な部下(独身女性)が、別の男性部下や他部門の男性と飲みに行くという話を聞きつけるたびに、上司はあの手、この手を使ってその飲み会に女性が参加できないようにした。そして、重要な仕事をアサインしないようになった。
 女性の仕事での外出時には業務上の必要連絡と称して、短時間に繰り返し何度も電話を入れ、業務報告を求めた。 部下も精神的に追い込まれることとなったが、上司自身も「うつ」状態になり、業務への集中力が著しく低下し会社を休みがちとなったため、決裁や決定が滞ることが常態化した。

事例4
 上司(女性。文系出身)が複数の部下(いずれも女性で且つ技術系の専門家)に対して、狭い専門性は会社の運営においては役に立たないと言い続けやる気をくじき、長時間、叱責する場面も他の部門の人間にしばしば目撃されていた。
 さらに部下たちが産休や育休を取得するにあたり、しつようにプライベートに細かく立ち入った質問をしたり、取得し辛い環境を意図的に醸成した。部下の数名は退職し、上司も降格されるなどし、同じく退職した。

 上記のどのケースも、「自分を活かす、他人を活かす、組織を活かす。」とは真逆で、「自分を壊し、他人を壊し、組織を壊す。」です。
 そしていずれのケースも上司の問題言動の重要要因として、「嫉妬(ジェラシー)」があるのではないか、と見るのが自然ではないかと私は思います。

 なお、社内調査の過程では、行為者が自分のジェラシーを認めることはまずありませんし、皆、業務上必要であるから、とか指導の一環としてか、ありとあらゆる見え見えのもっともらしい言い訳をひねり出してきます。(そもそも本人がジェラシーに全く気付いていないように見受けられるケースもあります。)

3.「ジェラシー・マネジメント教育・研修」の骨子

 ジェラシーと言えば真っ先に思いつくのが恋愛場面です。私自身も学生時代など、自分のジェラシー、友人や交際相手のジェラシーにずいぶんと振り回された記憶があります。 自分でもジェラシーを上手くコントロールできずに苦労し、自分を傷つけ、人を傷つけてしまったと思います。

 しかし、会社生活においても、このジェラシーというのは、人間の感情の中で、非常にやっかいなコントロールしがたい感情であることに変わりはありません。 誰でも、何歳になっても、どれだけ大人になったつもりでいても、いきなりスイッチが入ってしまうものなのです。そして、そのまま放置していると、不適切な言動がどんどんエスカレートし、人に、仕事に、組織に多大なダメージを与えることになります。 

 とても優秀で人格的にも信頼されていた経営陣や管理職が、ジェラシーにより全く別人格のような不適切な言動をとるようになる事例を私はたくさん目の当たりにしてきました。そして優秀な上司が優秀な部下を潰し、上司自身も潰れ、部門の業務も停滞してしまう、というのが典型的なパターンで、会社としては三重苦の深刻なダメージを被ることとなります。

 ですので、例えば、管理職の教育・研修などにおいても、「ジェラシー・マネジメント」を積極的に取り入れるべきであると考えます。詳しいことは置きますが、具体的には次の点が骨子になると思います。 もちろん、管理職に限定せずに全社員に展開しても良いと思いますが、まずは、業務上、大きな権限を有している管理職レベルから始めるのが良いのではないかと思います。

【ジェラシーマネジメント教育の主要ポイント】
① 人間は誰でも、何歳になっても、どんなにポジションが上になっても、たやすくジェラシーを持つ生き物であることを理解したうえで、ジェラシーが起きること自体を否定せず、発生した場合には、まずは、ジェラシーを自分の中で受け止め、受け入れる。

② 一人一人の過去のジェラシー体験(幼少時、学生時代、企業生活などいつでも可)、およびそれに伴う優越感・劣等感、対抗心、競争心、無力感、徒労感、後悔などを思い出してもらう。
(開示する必要ななく、それぞれの心の中で。)

③ 上司のジェラシーに原因があると思われるハラスメントの事例(自社内、世の中一般、サンプル事例など)を見て、それがいかに自分を、他人を、仕事を、組織を破壊することになるかを客観的に理解してもらう。
 同時に、自社や世の中の懲戒事例(けん責、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇など)を知ってもらう。

④ 仕事における、自分のジェラシーへの気づきのセンサーを上げるとともに、もし自分のジェラシーに気づいた場合には、②や③を思い出す。 そして自分で事前に決めておいた、気持ちを上手くコントロールするための対処法(コーピング)を実践する。
(例えば、呼吸を整える、十数える、家族や大切な人の顔を思い浮かべる、席を外してトイレに行く、冷たい水を飲む、など、本人が自分にフィットしやすいものであれば何でもよい。)

⑤ 上司は自分の責任部署において、ジェラシーマネジメントの重要性をしっかりと部下とも共有し、部署内全体の意識を向上させる。

 *なお、上記①~⑤は、ジェラシーの暴走を抑止するための教育となりますが、併せて、「自己肯定感」を高めるための研修なども行うと効果的であると思います。
 ジェラシーは、通常、本人が他人を見て強い劣等感を抱くこととセットになっています。そしてその劣等感は、少し落ち着いて距離を置いてみると、自分が自分に対して厳しすぎる評価をし、自身が勝手に作り出している感情であることもよくあるからです。

猫間英介


【 今日の短歌】

 傾きて統ぶる者なく寄る辺なく座して死を待つ会社となりぬ

 令和にもなほ蔓延れる馴れ合ひの昭和の魔物に会社喰われん

血迷ひし部長課長の珍道中どこに向かふやヒラ転がして


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