差別はどうしてなくならないの?

 8月2日、10時台の子ども科学電話相談で小学3年生の男の子、けんくんが「差別はどうしてなくならないのですか?」と質問した。
 けんくんは「どうしてこの質問をしようと思ったの?」と聞かれて「僕はハーフで、肌の色が少し茶色いの。歩いているだけでもジロジロ見られるし、会う人会う人に「ハーフなの?」と聞かれて、最初はよかったけれど、知らない人にも聞かれるからだんだんイライラしてきちゃって」と答える。

 回答は恵泉女学園大学学長の大日向雅美先生。
 聞くひとはただ聞いているだけで、差別しようとして聞いているわけではないかもしれないのね。でも、けんくんが嫌な思いをしていることに気づかないというところに、差別の芽が潜んでいると言えるかなと思いました。
 まずどうして差別してしまうのかということを一緒に考えていきたいと思います。人ってね、とても弱い面があると思います。一人では生きていけないから、仲間が欲しいのね。で、仲間を作る時に、自分と同じか違うかで分けようとする傾向があるんです。例えば外見。見た目ね。例えば髪の色とか肌の色とか着ているファッションとかね。それからその人が信じている宗教とか価値観とか言葉とか。そういうわかりやすいもので、自分と同じか違うかを分けようとするの。
 そして自分と同じ人たちを仲間だと思うの。そして違う人たちを仲間じゃない人って決めつけてしまうのね。
 社会心理学の区分けでいうと、仲間だと思う人たちのことを内集団と言うの。そして、仲間じゃない人たちのことを外集団と区分けしてしまうのね。
 どうしてそういう心理が働くのかというとね、人間はそもそも自分を守りたいという防衛本能があるのね。同じ人とだと、いちいち説明したりしなくて済むかなと思っちゃう。衝突も少なくて済むと思っちゃう。楽かなと思っちゃうの。そして自分は間違っていないと思うこともできますね。
 だからそうやって仲間と仲間じゃない人を分けて、その違いを言葉にして敢えて強調しようとする傾向があるんです。それがまず、区別って言うの。差別の前に区別。
 そして今度は区別するだけじゃなくて、優劣をつけたくなるんですって。優れているか劣っているか。良いか悪いか。そして自分と同じものは良いものだ、優れている。自分と違うものは劣っているとか軽蔑しようとか、そういう心理を働かせてしまうのね。それが差別なんです。偏見とも言うんですけれどね。
 区別がやがて差別になってしまう。自分や自分の仲間はいい人たちだよ、優れているんだよ、でもそうじゃない人は劣っているんだよって、本当はそうじゃないんだけど、わざわざそういう風にして自分を有利に立派に見せようとする心理が働くの。だから弱いですよね、人間って。

 これは日本でよくあることなんだけど、日本は人と同じであることに気を遣う文化だと言われています。人と違うことはいけないよとか、みんなおんなじが普通だよとか。
 海外に行くとそうでもないのね。ヨーロッパもアメリカも肌の色とか言葉とか違う人が普通に同じ街で暮らしているんです。違って当たり前って見た目でわかるの。
 最近日本も海外からいろんな人が来て一緒に暮らすようになったとはいえ、まだいちいち肌の色のことを聞くなんてまだまだですよね。だからどうか、そうやって嫌な思いをしている人がいることを、どうかわかって欲しいなと思うんだけどね。

 もう一つ大事なことはね、人はどんなに似て見えても、一人一人違うんです。どんなに顔かたち、肌の色が似てても本当は違うのよね。違いを認めて一緒に生きていくことが社会を形作っていく上で大変だけど大切なこと。でも大変だとか面倒くさいとか、私たちは弱いからどうしてもそっちのほうに流れて、一人一人の違いに目を瞑ってしまうの。目を瞑ってしまうだけじゃなくて、それは違うものに優しくない社会になっていくわけ。そして少数の人を追い詰めたり、差別したりするのね。
 それは不公正な社会じゃないですか。不公正っていうのは、みんなが幸せに生きられない社会、心が落ち着いて生きられない社会。街歩くの時々嫌になることあるわよね、そんなに見られたり聞かれたりね。だから、そういう社会にしないために、世界中で差別はあるんですが、日本社会でも見た目のことじゃなくて一人一人がもう違うんだってことにしっかりと目を止めることが大切だなと思うの。
 大勢が普通で、そうじゃない人のことを少数(マイノリティー)と言うけれど、これは基本的に間違った考え方です。誰もが少数(マイノリティー)なんだと私は思います。誰もが少数派なんだということを、誰もが違いがあるんだってことを、みんなが理解して社会を生きていきたいですよね。

 ここまではなぜ差別をしちゃうかって説明をさせていただいたんだけど、その先よね。どうすれば差別がなくなるか。
 難しいんだけど、例えば今けんくんがしてくださっている行動が一つの答えだと思うの。けんくんはわざわざこのラジオに質問を寄せてくださったじゃない。自分が嫌な思いをしていることを正直に訴えてくれたわね。勇気がいったかなと思うのよ。でもそれが大事なことだったし、私はありがたいなと思いました。
 で、このラジオを日本中の方がたくさん聞いてくださってるの。そうすると、もしたかしたらけんくんに「ハーフ?」って聞いた人もラジオを聞いてくださっているかもしれない。けんくんに悪いことしたなって嫌な思いさせてしまったんだなって気づくかもしれない。
 差別は気づかないところから、小さなところから始まっているの。根深い問題だから、一度行ったら解決するとは限らないかもしれないの。だから、一回行ったらみんなわかってくれるとは思わないで、何度でも何度でも懲りずに言い続けましょう。怒って言うんじゃなくて「僕だけじゃないと思う、こういう思いをしている人は」と訴えると耳を傾けてくれる人はいっぱいいるはずです。そうして社会はすこしずつだけど確かに変わっていくと信じてね。

 肌の色が違うことは当たり前。どうしてこの人はそんなこと聞くのかなってその人の心の中を覗いてあげようと思うの。差別してるんだと思う前にどうして?って。そうするとその人はあまり日本から出たことがなかったり、海外の人と触れ合ったことがないのかなって思う。聞かれて答えながら「本当はこういうの嫌なんです」と話を始めることができたらいいけど、見ず知らずの人には難しいよね。
 肌の色を聞いてくる人は、最初から差別しようとかいじめようと思って聞いてくるわけではないと思うの。そこは信じてね。でもそれを放っておくと差別とか偏見とかに繋がっていってしまうの。


 子ども科学電話相談はNHKのラジオ番組。子どもたちの質問に専門家が答えていく。植物、動物、昆虫、鳥、恐竜、水中の生物、科学、天文・宇宙、天気・気象、心と体、ロボット・AI、プログラミング、岩石・鉱物、鉄道と、分野も多岐にわたる。
 普段は毎週日曜日の午前10時05分から11時50分まで放送。夏休み期間中の8月9日までと、8月22日、8月23日は8時05分から11時50分まで、NHKラジオ第一で放送中。NHKラジオらじる★らじるからも聞き逃し配信サービスがあるので是非。

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