【独占禁止法叙説】0-4 社会法・経済法としての独占禁止法

 経済の寡占化・独占化に伴って認識され展開した経済法は、近代市民法が前提とする法主体の自由・平等・独立という形式的・抽象的な人間像からの実質的な乖離をその背景としている。
 このような認識は、いくつかの具体的な法主体間の関係において見出すことができる。たとえば、経済力を異にする大規模企業(寡占企業や独占的企業)と中小企業の間では、対等な当事者間の取引において導かれるはずの交換の利益が歪められる可能性があるし、また、商品やサービスを提供する者(たとえば生産・販売業者)とそれを購入する者(たとえば消費者)との間にも、情報・知識の面で対等な立場にあるとはいえず(情報の非対称性・交渉力の格差)、同様の問題が生じ得る。
 そこで、経済法は、大企業と中小企業、そして事業者と消費者といった私的・経済的関係に、政府が国民経済的利益の実現という観点から、公法的・権力的な手段を通じ、近代市民法が前提とする私的自治の原則(契約の自由や私的所有権絶対を含む)を修正することによって、望ましい経済秩序の形成・創出を企図する。ここでは、近代市民法が念頭に置く形式的・抽象的な人間像とは異なる具体的な人間像(中小企業や消費者)が措定されている。かような意味で経済法は、労働法や社会保障法を中心とする社会法とその背景や特質を同じくする(経済法の社会法的性格)。
 すでに見たように、独占禁止法は、経済の寡占化・独占化に対応し、資本主義下の競争秩序を維持するため、契約ないし取引の自由に、一定の規制を加えるものである。このように経済活動に対する公的な規制を目的とする点において、経済法的性格を有するものとされるが、同時にそれは、市民法原理による形式的な自由・平等が生み出した実質的な不自由・不平等を排除する目的を有する点において、社会法的性格をも併せ有するものといえる。

(2024年1月22日記)

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