【随想】「自炊」の法律学#1−「自炊」そのもう一つの意味(1/2)

 「自分で飯を炊くこと」や「自分で食事を作ること」を、通常、「自炊」と呼んでいる。しかし、この言葉には、最近、もう一つの意味が付け加わり解されるようになった。
 そのもう一つの意味とは、「本や雑誌をスキャンして(画像として取り込み)、電子化すること」。今、巷では電子書籍が何かと話題だが、この「自炊」という言葉も、これとの関連で急にクローズアップされてきた。
 「自炊」は「自吸い」に由来すると言われている。かつて、アーケード・ゲーム(昔、ゲームセンターなどで置かれていたテーブル・ゲームのこと)が全盛の頃、その基盤に記憶・保存されているゲームのプログラムが入ったROMデータを特殊な機械を使ってPC(パソコン)へと「吸い出し」、自らエミュレータというソフトウェアを用いてPC上にそのゲームを再現する一連の方法を「自吸い」と呼んでいたようである。
 現在いうところの「自炊」行為も、本や雑誌の内容を画像として取り込むことを通じ、その内容を「吸い出している」ことには違いなく、これまでの「自炊」と類似しているといえなくもない。
 当然のことながら、プログラムは著作物であり(著作権法10条1項9号)、そのROMデータをPCに「吸い出す」行為は複製(同法2条1項15号)に当たり、そのプログラムを創作した人の複製権(同法21条)を侵害することになるだろう。仮に、この行為が私的使用のための複製(同法30条)の範囲で捉えられるとしても、多くの場合、使用許諾契約においてROMデータの「吸い出し」行為は何らかの形で制限されているはずだから、とても適法な行為とはいえない。
 実は、「自吸い」転じて「自炊」は、当初は全くのアンダーグラウンドな用語だったわけだ。
 いま、本や雑誌をスキャンして、電子化する人が大変増加しているという。アマゾンという通販サイトでは、書籍だけではなく家電製品やステーショナリーなどを取りそろえているのだが、最近、ここで圧倒的な売り上げ誇っているのが、裁断機とスキャナだという。裁断機は「自炊」のために本や雑誌を裁断するためのものであり、スキャナは裁断した後の本や雑誌を画像として取り込むためのものだということは、容易に察しがつくところだ(2010年2月5日記)。


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