王家に捧ぐ歌@星組御園座

一言で、圧巻でした。
『王家に捧ぐ歌』の最大の魅力は、煌びやかな衣装でも豪華絢爛なセットでもなく、ラダメス・アイーダ・アムネリスという3人の登場人物が拮抗しながら紡がれる物語なんだと、そんな風に感じさせられた公演でした。

ポスター発表時から、初演再演とは違った今の星組の『王家に捧ぐ歌』を上演するという意欲をすごく感じて、ずっと楽しみにしていました。
『王家に捧ぐ歌』上演が決まった時に頭をよぎったのは、特に衣装の面でわたさん、まぁさまとことちゃんは明らかに得意分野が異なるので、歴代ラダメスの衣装をそのまま採用するとことちゃんの良さがあまり引き立たないのではという懸念でした。
なので、今回のイメージ刷新はすごくプラスに働いていたと思います。
しかもそれがことちゃんのラダメスだけでなく、作品全体にも影響を及ぼしていて、セットと衣装がシンプルになった結果、一層お芝居と歌が際立って、作品に集中する空間が出来上がっていました。御園座の舞台が大劇場よりコンパクトで近かったのも要因かもしれません。
『王家に捧ぐ歌』という作品の物語や音楽の壮大さや迫力はそのままで過去の素晴らしかった公演を彷彿とさせつつ、しっかり今の星組らしさも効いていて、とても見ごたえがありました。

今回久しぶりに王家を観て、改めてこの物語はほぼずっと歌で紡がれているんだということを実感しました。台詞よりも歌が多い。メイン3人は言わずもがなの実力者ですが、さらに要所要所にたくさん歌ウマさんたちが配役されていて、息をつく暇もなくあっという間に展開していった印象でした。

衣装はガラッと変更になりました。ロミジュリからインスパイアを受けたようなエジプト=白、エチオピア=黒のテーマカラーで、全体的にシンプルなスタイルです。白VS黒の構図といいつつ人数的にはエジプト側が多く、しかもファラオ、アムネリス、ラダメス以外は皆ほぼ同じ形の衣装だったので、整然とした白に圧を感じました。一方エチオピア側は結構人によって個性が出ていました。ウバルド・カマンテ・サウフェの3人組は現代的なデザインで特に目を引きます。3人が気の遠くなるほどの長い時間をさまよって、現代から過去を振り返っているということなのでしょうか。
やはりアムネリスの衣装が特に美しかったのですが、エジプト女官の白いドレスの形も直線と曲線の組み合わせが綺麗で気になりました。

ことちゃんのラダメス。予想通りに期待を超えてくる歌声に聞き惚れます。特に王家の楽曲はドラマティックなものばかりなので、ことちゃんの力強い歌声はどれもこれも真っ直ぐに心に響いてきます。歌声の説得力が別格で、このラダメスの思いが人々を、そしてファラオを動かすというのが納得です。
一新されたビジュアルも素敵でした。ブロンドの長髪に白の衣装がとてもお似合いでした。ただ、ジャケットの背中部分の太陽に蛇?のマークはちょっと謎でした。
ひっとんアイーダとの情熱的なラブシーンが観られたのも楽しかったです。一途さ、愛、そしてアイーダによって気づいた平和への思い、全てを歌に込めることちゃんのラダメスと、それを全身で受け止める強くて美しいひっとんのアイーダという組み合わせは最高でした。

ひっとんのアイーダは自分の足で歩く等身大の女性で、周囲に翻弄される弱さも垣間見えつつ、でもどんな状況でも現実を見据えて自分の意志を貫く強さを感じます。アイーダが抱えている現実と理想へのそれぞれの思いや、周囲の他者と自分に対する気持ちのバランスが観ていてすごくしっくりきました。
そして衣装がまさかの一着、しかも飾り気のない暗い色味のドレスだったんですが、このドレスがアイーダの野性味や生身の美しさをすごく引き立てていたような気がします。
お芝居もビジュアルも強くしなやかで美しいひっとんのアイーダはとても魅力的でした。
特に、たった一人真っ暗な舞台でライトを浴びて歌い上げる「アイーダの信念」が本当に素晴らしかったです。

くらっちのアムネリスはさすがの表現力で、成長物語を見ているようでした。誇り高さは一貫して備えていながらも、最初はラダメスの恋する娘という印象が強く、最初から達観しがちなラダメスとアイーダと並ぶと、ある意味で幼さも感じます。歴代アムネリスは娘役としての持ち味やビジュアルから大人っぽい方々だったので、くらっちの「ファラオの娘」感を強く感じるアムネリスは新鮮でもありました。
ただのファラオの娘だったアムネリスが、場面を重ねるごとに娘として、女性として、王として成長していく姿にぐいぐい惹きつけられます。特に二幕のファラオ暗殺以降、悲しみとファラオになる決意、ラダメスへの愛、平和への願い、様々な思いが溢れたくらっちのお芝居が深く心に刺さって、ずっとアムネリスに感情移入しながら舞台を観ていました。くらっちが演じたアムネリスは強さと弱さを併せ持っていて、等身大で人間味があるところがとても魅力的でした。
ラストシーンの世界に求むの歌も、芯がある歌声が美しかったです。ファラオとなったアムネリスが父の上着を着ている演出は今回新しく追加されたものだと思いますが、父親が信じた平和への願いを受け継いでいこうとするアムネリスの強い意志の表れのように見えました。
ことちゃんラダメス、ひっとんアイーダと同様に、くらっちのアムネリスを観ることができて本当に良かったですし、アムネリスの存在がとても大きなものになっていたと思いました。

キムシン先生作品は王家も含めて主要人物の少なさを感じることが割とありますが、今回地方公演サイズではそれも感じずむしろ色んな人に見せ場があるなと思ったので、そういう意味でも丁度よさを感じました。

エチオピア&エジプトの若手男役ズは皆素敵で、特に今回改めてウバルトを演じられた極美慎さんのビジュアルや存在感をまざまざと見せつけられた気がします。気になっていつも見てしまうひろ香祐さんのカマンテもカッコよかったです。エチオピア側の方が衣装に個性があったのは美味しかったですね。
神官団が美声揃いで、みっきぃは言わずもがなですが、コーラスでめっちゃ美声が聞こえる!と思ったら全部遥斗勇帆君でした。耳が幸せになる歌声です。
スゴツヨ女官は星娘ムーブを感じられて可愛いし強いし目が足りません。最近気になっている瑠璃花夏ちゃんががっつり客席アピールしているのが頼もしすぎました。がっつりアイメイクの華雪りらちゃんもめちゃくちゃ可愛かったです。
お父様方もお二人とも存在感がありました。まりんさんファラオは人としての温かさが滲み出ていて、娘思いなところが素敵でした。アムネリスとの絆が感じられます。輝咲玲央さんアモナスロは強かな黒さがかっこよすぎでした。

地方公演ならではのアルバイト探しも楽しかったです。
今回、アイーダとアムネリス以外の娘役は多分全員男役をやったんじゃないかという勢いでした。肌色メイクの関係でエチオピア兵は半分以上女官が兼ねていたので娘役ファンとしてはなかなか見られない姿が見られてすごく楽しかったです。白妙なつさんとかめちゃくちゃ決まってましたし、阿弖流為の諸絞がすごい好きだったので久しぶりにいーちゃんの男役が見られたのも嬉しかったです。かっこよかった。エチオピアの囚人の女性陣は歌うま揃いだったので、少人数でもコーラスに厚みがありました。

パレードは、特に地方公演ではトップスターが大羽根で登場するシーンは宝塚らしさをアピールするポイントになっていると思っていたので全員羽根なしだったのはびっくりでした。あと並び順がことちゃんを挟んでひっとんとくらっちというのも宝塚ではあまりとらない手法な気がしましたが、作品としてはやはりこの三人が主役なので、最後に並んで見られるのは良かったです。
都優奈さんのエトワールはさすがの美声で、ご本人ものびのび全力で歌っていらっしゃるのが伝わってきて聞き惚れました。

今、宝塚で、星組で王家を観られて良かったです。色んな意味で深く胸に届く作品でした。