カルト・ワイン@宙組BrilliaHALL

カルト・ワインは仄暗さ、不穏さ、破滅の予感をすぐそばに感じながらも、シエロ自身の推進力と舞台上の狂乱に飲み込まれて後ろを振り返る間もなく前に前にと進んでいく感覚を味わう作品でした。
まさにずんちゃんのための芝居という感じです。
主人公のシエロの生き様にがっつりフォーカスして描かれた、光と影を絶妙なバランスで見せてくれる物語で、かつしっかりエンタメで、最初から最後までのめり込んで観劇しました。

夢千鳥からのカルト・ワインで、栗田先生は主役のタカラジェンヌの個性を活かした当て書きをしてくださる演出家という印象です。自分のご贔屓が栗田先生作品の主役をすることになったら絶対楽しいタイプの先生。
主人公を浮き彫りにする構成、先が気になる展開、全体に散りばめられたエンタメ要素で作品自体も面白く、次は誰の、どんなテーマの、どんなストーリーが観られるだろうかと期待が高まります。

シエロ・アスール@桜木みなとさん
黒髪パーマ&シャツの前開きすぎなずんちゃん最高。
自分自身の終わりもそれに逆らえないことも予感している理性的で現実的な部分を持ちながら、アメリカンドリームを手段を選ばずに無我夢中に追いかけひたすら上り詰めようとする、ずんちゃんの野心みなぎるエネルギッシュな熱演がかっこよかったです。
個人的にずんちゃんに抱いているイメージが、端正で実力者でレベルも高くて安定しているからこそ、もっともっと求めたくなってもどかしさを感じるという我ながらわがままなものなので、シエロの感情を剥き出しにする発散型のお芝居はストレートにずんちゃんの熱量が感じられて楽しいです。
堂々とした主役ぶりは安心感があり、瑠風くんや蒔世くんを始めとする周囲の人物とのテンポの良い軽妙な掛け合いに引き込まれ、改めて上手い人だなと感じました。
今回の結末がすごく好きで、全く潔くない、しぶとくへこたれないシエロの人間像を最後まで生き生きと見せてくれてとても素敵でした。
フィナーレもギラギラでした。良いですよねギラギラ。

今回ずんちゃんを筆頭に皆さん芝居が上手くて、充実感を感じました。

瑠風輝さんが演じたのはシエロと対極的な存在であるフリオで、真っ当な道を歩もうとする意志とシエロに対する深い友情や思いやりを感じる真っ直ぐなお芝居が印象的でした。フリオ自身も決して真っ白じゃなく、シエロがいたからこそ助かったことも、シエロの野心も理解していてなお引き戻そうとするのがいいですよね。ずんちゃんとの気さくなやり取りも息ぴったりです。特に結末の、2人の間にわだかまりなくあっけらかんと終わるところの悪友っぽさが好きでした。

チャポ・エルナンデスを演じた留依蒔世さんはなんかもういつ観ても上手くてすごいです。留依蒔世さんの演技に登場から絶対真っ当な人間じゃないと思わせる貫禄、ボスとしての懐の深さ、油断ならない雰囲気を漂わせ見せる計算高さや大胆さなどが詰まっていて、いかにも魅力的な悪役といったキャラクターでした。

すっしーさんとまっぷーがパレードで並んで挨拶される姿を見ると幸せになれます。本当に宙組の組長&副組長コンビ、ショーシーンになると恋に落ちてしまいそうなレベルでバチバチにキメて色男になるの好きすぎる。
すっしーさんはスーツが似合うレストランオーナーで文句なしのカッコよさです。え、出番これしかないの?ってなるくらい登場シーンはあっさりですがさすがの存在感で、特にフリオにニューヨーク支店を任せる場面のオーナーとしての面と父親としての面の両方を感じさせるお芝居が素敵でした。
まっぷーは一幕と二幕で別の役で楽しませてくれましたが、特に良かったのは一幕のフリオの父親です。愛情深い父親はもはやまっぷーの十八番では、と思うくらい毎回愛がにじみ出ている完成度の高いお芝居で魅せてくれますが、今回演じられたディエゴは覚悟も併せ持った人物で、自分の身を犠牲にしてシエロを先に進ませる強さがあって素晴らしかったです。あと、ワインオークションの時のダンスが格好良くて格好良くて…いつまでも眺めていたかったです。

娘役で印象深かったのはお二人。
アマンダ・フェンテスを演じられた春乃さくらさん。スチール写真まで出ていて実質ヒロインという立場だと思いますが、あくまでカルト・ワインはシエロの物語であるため、アマンダ視点で見ようとすると出番も書き込みもシエロに関わる部分のみで、特に最後は中途半端に終わってしまった印象を受けます。ただ、多くない出番の中でも落ち着いた演技で大人っぽく理知的な女性像を打ち出していたのは素敵でした。これからの活躍が楽しみです。
五峰亜季さんのミラ・ブランシェットは言うまでもなく一筋縄ではいかない強烈なキャラクターがハマっています。今回もですが、専科のお姉さま方が醸し出す独特の現役感って堪らないものがあります。実業家としても女としても強かで、逆にシエロ達を利用しようとする姿勢も納得の迫力でした。あとずんちゃんとの濃厚すぎるラブシーンは直視して良いものか悩むくらいです。五峰さんはフィナーレでまっぷーはじめ周りの方々と楽しそうにノリノリで絡んでいる姿も良かったです。

この脚本、演出に宙組のこのメンバーが揃ったから魅せてくれたと思わせる力のある、見ごたえがある良作でした。
FWMとカルト・ワインのそれぞれの熱量が合わさって次回のハイローがどのような作品になるのか、ますます楽しみになりました。