見出し画像

アフターコロナ:スペイン風邪から予測する社会の変化

1. はじめに

とうとう非常事態宣言が出され、いよいよコロナとの戦争が日本でも本格化してきたと実感するが、最近はいつコロナの問題が収まるかよりもコロナの後の世界はどうなるのかについて考えている。

たくさんの人々の屍を超え、残された人々が何を学びどのような世界を作るのかを考えるのは刺激的なものである。

今回はそんなアフターコロナを考えるうえで検索した結果出てきた2018年の論文で、1918-19年ごろのスペイン風邪を扱ったものである。詳細は以下の通り。

Rao, H. & Greve, H. R. (2018) Disasters and community resilience: Spanish Flu and the formation of retail cooperatives in Norway, Academy of Management Journal, 61(1) 5-25.

2. なぜ災害後の復興がうまくいくケースとうまくいかないケースがあるのか?

Rao らのリサーチクエッションは端的に言えば上記の通りである。復興に非常に時間がかかる場合もあれば、そうでない場合もある。彼らは主に二つの理由を挙げている。

a) 災害の原因に対するフレーミング

フレーミングとは、簡単に言えば解釈枠組みのことである。例えば、東日本大震災のケースであれば、あれは自然災害として人々に解釈されているだろう(東京電力による人災だ、という人もいるかもしれないが、地震があって初めて東京電力の問題が出てくるので、原発問題はあくまで自然災害に付随した事象と考えられる)。

一方、今回のコロナウイルスのような伝染病の場合、人間が感染を広げている、という意味で人災として人々に解釈される。人災だからこそ、人の行動をコントロールし、感染を防ごうとするといえる。

b) 多様な非営利セクターを形成するうえでコミュニティが持つ市民キャパシティ

コミュニティが持つ市民キャパシティ (Civic Capacity) とは、著者ら曰く「経験豊富な非営利組織の設立者や労働者、密な社会的結びつき、他者への信頼」といったものであるという。そして、多様な非営利セクターがコミュニティーにこのキャパシティをもたらすという。

例えば、著者らは Similarly et al. (2006) の研究を引用し、神戸の震災からの復興においては「街づくり」組織が避難所・仮設住宅・復興住宅の設置に重要な役割を果たしたと述べている。

以上をまとめると、災害が自然災害と認識され、かつコミュニティに復興に寄与する非営利組織を率いるリーダーや労働者、コミュニティにおける信頼関係等が高まるほど、復興は早まるだろうと考えられるのである。

3.コロナウイルスという人災

残念ながら、コロナウイルスは人災である。この場合、著者らによれば以下のような現象が生じるという。

第一に、人々はウイルス感染者や、他のコミュニティの人(例えば外国人や違う都道府県に所属する人)に対して容疑者扱いするようになる

例えば、コロナの件の後、APUの教職員で、別府市民から腫れ物を触るような扱いを受けた、という話を聞いたことがある。

あるいは、ネット上に散見される感染者に対する自己責任論みたいなものも、戦犯に対する批判ととらえることができるだろう。

また、ウイルスはコミュニティやグループ内におけるつながりを弱めてしまう。例えば、周囲からの批判を避けるために人々と会うのを避ける、といったことが当てはある。普段なら挨拶をする間柄の人でも、目をそらしてそそくさと立ち去ってしまう経験はないだろうか?

いずれにせよ、今回のコロナウイルスによって社会は分断され、人々は疑心暗鬼になり、孤立していくことが示唆されている。

4.協調は阻害され、ウイルスの影響は10年以上続く

論文に戻ろう。著者らはスペイン風邪のケースにおいて、スペイン風邪による死者数(人災)春霜による作物への被害(自然災害)がノルウェーにおける協同組合の設立にどのように影響を及ぼしたのかを分析した。ちなみに、論文において協同組合の設立は、コミュニティにおける助け合いを援助する組織としてとらえられている。

結果は著者らの予測した通りだった。

つまり、スペイン風邪による死者数はノルウェーにおける協同組合の設立とマイナスの関係を持っており、春霜による作物への被害はプラスの関係を持っていたのである。

さらに著者らはその影響を短期的だけでなく長期的な視点でも分析している。結果、上記の関係性はスペイン風邪が流行した後の1920-24年より、1920-34年の間の方が強くなっていた。つまり、長期的にスペイン風邪の影響が社会に出ていたことを意味している。

スペイン風邪によって、コミュニティにおける協調を象徴する協同組合の設立が行われなくなることが示されているのである。

5.おわりに

ニュースなどではコロナウイルスの経済的影響がフォーカスされている。もちろん、その影響は甚大なものになるだろうし、そのあたりは経済の専門家にお任せしよう。

一方、今回の論文から分かることは、社会の、人々のつながりのようなものが今回の件で大きく棄損されるだろうということだ。それはグローバル化にも影響を及ぼすだろうし、東日本大震災の後の絆といったよい社会関係資本が損なわれる可能性を示している。

おそらく、コロナウイルスの問題が収束しても、社会的に復興を目指した動きは起こらないだろう。患者や医師・看護師に対する支援はそれほど盛り上がらないだろう。

志村けんさんが亡くなっても、女性のいる店で遊んでたんだからしょうがないよね、自己責任だよね、みたいな雰囲気が醸成されたのを思い出してほしい。

人々は結束しないし、犯人探しに今後もいそしむだろう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?