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企業の社会的パフォーマンスと財務パフォーマンスの因果関係

最後に、企業の社会的パフォーマンス (CSP) と財務パフォーマンス (CFP) の因果関係について説明する。

二つの変数の間に相関が認められたからと言って、それが因果関係を示すということにはならない。つまり、CSPとCFPが正の相関をしていたとしても、CSPが原因となってCFPに影響を及ぼす、という論理を導き出すことは難しい

このような因果関係を説明するためには、1. 二つの変数間の関係が全くの偶然ではないこと、2. 二つの変数以外に第三の変数が存在していないこと、そして3. 想定した因果関係とは逆の因果関係が存在しているとは言えないこと、という条件を満たすことが求められる (中室, 津川, 2017)。

まずは、因果の方向性について考えてみよう。CSPとCFPの関係を考える際、CFPが高いからCSPが高まるのか、CSPが高いからCFPが高まるのかを明確にする必要がある。

前者のCFP→CSPという因果関係は、余裕資源理論によって説明される。CFPの高い企業は、社会貢献活動等に利用できるだけの余裕な資源を持っており、それがCSPを高める上での投資を可能にする、というのが余裕資源理論の主張である。

一方、後者のCSP→CFPという因果関係は、良き経営理論によって説明される。良き経営理論では、CSPを高める上では重要なステイクホルダー集団との関係を向上させることが必要であり、良好なステイクホルダーとの関係性がCFPの向上につながると主張する (Waddock and Graves 1997)。

では、上記のどちらの理論が正しいのだろうか。Waddock and Graves (1997) はKLDのデータを用いて上記の因果関係を分析した。彼女らはまず、CFPを独立変数とし、CSPを従属変数として回帰分析を行っている。この際、CFPとCSPに1年のラグをとり、CFPがCSPに影響を与える、という仮定の下で分析を行っている。その結果、CFPは翌年のCSPに正の有意な関係を持っていることが明らかになった。すなわち、CFPが高いと、翌年のCSPが高くなる、という余裕資源理論の主張が裏付けられたのである。

しかし、彼女の論文の面白いところは、逆の関係も分析している点である。すなわち、CSPを独立変数とし、CFPを従属変数とし、両者の間に1年のラグをとって同様に関係性を調べたのである。その結果、やはりCSPとCFPの間に正の関係が概ね認められたのである。つまり、CSPが高いと翌年のCFPが高まる、という関係性が明らかになったのである。このことから、CSPとCFPの間には好循環があることが示唆された。すなわち、CFPが高いと翌年のCSPが高まり、その結果さらに翌年のCFPが高まる、という可能性が示唆されたのである。

しかし、上記の結果だけではCSPとCFPの間に因果関係がある、と断言するには不十分である。なぜなら、第三の変数を十分に考慮できていないからである。そのため、Surroca et al. (2010) はWaddock and Graves (1997) のモデルを改良して、CSPとCFPの関係を媒介する無形資源(イノベーション、人的資本、レピュテーション、組織文化)という変数を導入した。

その結果、CSPとCFPの間に直接的な関係はなく、無形資源が媒介することが明らかになった。つまり、CFPが高まると企業に研究開発力、人的資本、レピュテーション、そして組織文化が醸成され、その影響でCSPが高まるという。そして高まったCSPは再び企業の研究開発力、人的資本、レピュテーション、そして組織文化といった無形資源を高め、それがCFPを高めることにつながっていたのである。

以上、CSPとCFPの関係をまとめると次のようになるCSPとCFPは好循環をもたらしているが、それは企業の無形資産が高まることによって生まれる循環である、ということができる。

References

Surroca, J., Tribo, J. A., and Waddock, S. (2010). Corporate responsibility and financial performance: The role of intangible resources. Strategic Management Journal, 31(5), 463-490, doi:10.1002/smj.820.

Waddock, S. A., and Graves, S. B. (1997). The corporate social performance - financial performance link. Strategic Management Journal, 18(4), 303-319, doi:10.1002/(sici)1097-0266(199704)18:4<303::aid-smj869>3.3.co;2-7.

中室牧子・津川友介 (2017) 『「原因と結果」の経済学』ダイヤモンド社.

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