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面白い研究から重要な研究へのシフト

はじめに

Academy of Management Journal の2020年に寄稿された Editor の論考に興味深いものがあったので紹介しておく。

From ”That’s Interesting" to "That's Important"

面白い論文とは

まず、この論考のタイトルにある "That's Interesting" というのは1971年のDavis の論文を引用したもので、この論文においては面白い論文とは何かを論じている。

極めて有名な論文なので、少なくとも社会科学系の大学院生なら読んでいることも多いだろう。社会科学系の論文を書くうえで読むのが必修とよばれるほどの名著である。経営学系の論文ではないものの、ビジネス関係の大学院生も多くがこの論文に目を通している。

そして、That’s Interesting とあるように、多くの社会科学におけるよい論文の基準として「面白いこと」というのが現在重要な要件となっている

自分も博士課程の学生の時、研究発表を幾度としてきたけど、最も厳しい質問の一つが「その研究のどこがおもしろいんですか」というものだったと記憶している。

自分は自分の研究が面白いと思って突き詰めてたけど、それがうまく伝わらなかったのだろうか、それともそもそも第三者から見たら自分の研究は面白くないのではないだろうか、それは自分の研究の価値がないことにつながるのではないか。

面白い論文や研究であれば人々をひきつけ、論文も多く引用され、研究者としての地位を確立することができるかもしれない。何より、面白い論文は読んでいて本当に面白い。

自分の大好きな論文の一つに Chatterjee & Hambrick (2007) のナルシストCEOと企業戦略、および企業業績の関係を論じた論文があるのだけど、CEOのナルシスト度合いを測定する方法や、実際にCEOがナルシストだとどのようなことが起るのかを極めて論理的かつ納得できる形で説明していて、本当に面白かった。

実際この論文は経営学におけるナルシストの研究のブレイクスルーになっており、その後このテーマに関する論文をちらほら見るようになった。

面白さから重要さへ

一方、Editor のTihanyi はこうした経営学における面白さへの偏重への警告をし、面白くなくても重要な問題に取り組むような研究を推進するべきということを述べている。

面白い研究への批判の一つとして、面白さを強調すると、実務的なインプリケーションに対して注意が注がれなくなってしまう点をあげている。

例えば、上記のナルシストの研究に関して、ナルシスト経営者の特徴や経営手法について理解したとしてそれがどのように実務に役立つのだろうか。

それよりも、もっと重要な問題に対して経営学は研究を進めるべきではないのかというのが彼の主張である。この重要な問題は、大して面白くないものかもしれない。例えば、どうすれば企業のイノベーションが生活を向上させ、生命を守るのか。どんな条件であれば国や人々は国際貿易から恩恵を受けられるのか。もっとインクルーシブな職場をつくるにはどうしたらよいのか。

上記の質問ははっきり言って面白くはない。だけれども、実務家から見たら、あるいは普通の人々にとっては非常に重要な問題であり問いである。

おわりに

とりわけ経営学という分野においては実務的貢献は重要である。マネジメントの理論は役に立たないと批判されたこともある。なので、いかに現実問題に対して適切な解を科学的に提示するのか、それは経営学の研究者にとっての重要な役割であるとは思う。

一方で、経営学の研究者においては実務経験のない人も多い。大学を卒業してそのまま大学院に行き、博士号をとって教鞭をとる、といったケースだ。このような研究者がいくら実務家に「自分たちの研究はこんなに役に立ちますよ」と説明したところで、ビジネスをしたこともない人々に何がわかるんだ、という気になってしまう。

また、研究者が大して実務には役立たないだろうな、と思っている発見であっても、実際にビジネスをする人にとっては目から鱗のようなことだってあるだろう。

要するに、研究者はどの程度、客観的に自分たちの研究結果が実務的に貢献すると判断できるのか、自分にはよくわからない。それを判断するのは実務家であって、研究者ではないのではないかとも思ってしまった。

一方、面白さは研究者が客観的に判断できるだろう。それは、例えばDavis が論文で提示しているような点を参照することによって判断できる。

References

Chatterjee, A., & Hambrick, D. C. (2007). It's all about me: Narcissistic chief executive officers and their effects on company strategy and performance. Administrative Science Quarterly, 52, 351-386.

Davis, M. S. (1971). That's interesting!: Towards a phenomenology of sociology and sociology of phenomenology. Philosophy of the Social Sciences, 1, 309-344.

Tihanyi, L. (2020). From "That's interesting" to "That's important". Academy of Management Journal, 63, 329-331.



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