ビジネスエシックス:非倫理的な行動

ビジネスエシックスの研究分野の一つに非倫理的な行動がある。つまり、人はなぜ悪いことをしてしまうのか、ということである。企業の不祥事なども非倫理的な行動の研究分野である。

非倫理的な行動の原因は大きく分けて三つある。

1. Bad Apple

第一に、ヒトが非倫理的な行動をしてしまうのは、その人が悪人だからである、という論理である。これを、専門用語ではBad Apple という。確かに、非倫理的な原因を個人に帰属させるのは論理としては理解しやすい。近年ではサイコパスなど、生まれながらにして非倫理的な行動をしてしまう傾向にある人がいることは明らかになっている。

また、古典的な個人特性の研究においても、目的のために手段を選ばないような、マキャベリズムの性格を持っている人は、非倫理的な行動をする可能性が高まるという。

最近の日産におけるゴーン元会長の事件に関しても、ゴーン氏が吝嗇であり、それゆえに今回の騒動が起きている、といった論調が見られるが、これは根本的にBad Apple の論理である。

2. Bad Barrell

第二に、ヒトが非倫理的な行動をしてしまうのは、その人がそのような環境におかれているからだ、という論理がある。これをBad Barrell と呼ぶ。これに関しては有名な心理実験がある。

その一つがMilgram による実験である。彼は記憶力に関するテストと名義のもとに被験者を集めた。被験者は先生役となって、生徒役の人に対して問題を出題する。そして、生徒役が間違った回答をした場合、電気ショックを与える、というものである。このとき、生徒役と先生役の両者は別々の部屋に移される。

この実験における一つ目のポイントは、電気ショックは最初は弱いレベル(痛みを全く感じないレベル)で罰を与え、間違えを繰り返すたびに生徒役が受ける電気ショックの値が450Vという致死的レベルまであがることである。

もちろん、先生役の被験者は、罰としての電気ショックのレベルが高まると、実験を中止しようとする。そこで二つ目のポイントは、実験の監督者が先生役に「あなたには責任がないから実験を続けてください」など、実験の続行を勧める点である。

もちろん、この実験において実際に電気ショックは与えられていない。つまり生徒役はサクラである。電気ショックが与えられた場合、生徒役の部屋のランプが点灯するので、生徒役はそれに合わせて叫び声が録音されたテープを流すのである。

この実験でわかったことは、65%もの人が、最終的に450Vの電気ショックを生徒役に与えた、ということである。つまり、途中でこの実験はおかしいと思っても、監督者に実験を続けるよう促されると、65%の人は実験を中止することなくつづけたというのである。

この実験は、第二次世界大戦中にユダヤ人の虐殺を指揮したアイヒマンが、現代においても再現可能か、ということを検証するために行われている。そして、残念ながら、どんな人であってもアイヒマンのように大虐殺の首謀者になり得ることが示されたという。

哲学者のハンナアーレントは、こうした人間の側面を「悪の凡庸性」と呼んだが、環境次第で誰でも殺人鬼になり得る、ということは覚えておくべきことである。

3. Bad Case

最後に、非倫理的行動の性質自体に着目するのがBad Caseという考え方である。例えば、通常であれば殺人を犯すことは非常に覚悟のいることである。ところが、小銭を盗む、テストでカンニングする、といったちょっとした悪さであれば、ヒトは犯す可能性が高まる。

このように、非倫理的行動をするかどうかは、その非倫理的な行動自体が人にとって大したことないと思われるのかどうか、という点にも依存していることが分かる。

そして、ときに「これくらい大丈夫だろう」といって始めてしまったちょっとした悪さが、後になって抜き差しならないような状態になってしまうのである。


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