日本一美味しいパンケーキという触れ込みにもまんまと乗せられる無防備な私はこの公演のたぶん2023年最高の会話劇というポスターのコピーを目撃しすぐさま観劇することを決めた。

中年の男女2人が公園のベンチで他愛のない会話を繰り返す90分。劇的な展開は起こらずとも二人の人間が血の通った掛け合いをするただそれだけで充分。

妻の病気だったり亡くなった姉との思い出だったり長く歳を重ねれば避けて通れない出来事が誰にだって起こりうる。日常に立ち現れる生と死に真正面から向き合う前にダラダラ回り道をしたって構わない。

人生はいろいろあるけれど何ひとつ悲しいことなんかない。いくつかの小さなくだらないがいつか大きな悲しみを反転させるから。

劇場を出た後鬱陶しい蝉の鳴き声が無性に愛おしくなった、たぶん2023年最高の夏。