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躰道がくれた日々の彩り


「フゥーーー。」
会社のビルの裏口を開け、冷たい外気にブルっと身震いした後、大きく息を吐く。腕時計に目をやると21時12分。今日もしっかり残業してしまった。
今日は19時半には会社を出て、ちゃんと自炊をするつもりだった。しかし19時を回っても仕事が片付く気配は無く、気づけば21時を回っていた。21時の頂点を横切る長針にふと目をやった瞬間、朝からフル回転させていた脳は突然プツッとシャットダウンし、今日はもうダメだ、と呟いてパソコンを閉じた。
明日、朝少し早く起きよう。
そう決めてワイヤレスイヤホンを耳に指し、星野源の「化物」を流す。
最近はずっとこんな生活が続いている。

社会人3年目。
右も左も分からない状態で仕事をし、失敗と空回りを繰り返していた新入社員期を終えて3年目にもなると、今まで先輩がやっていた仕事を「とりあえず考えてやってみろ」と振られる。最終的にはチェックしてもらえる書類も、構成・内容全て1から構築する。若干3年目には骨の折れる内容も多く、どうしても時間がかかってしまう。

仕事がつまらないわけではない。やりがいもあるし、上司もパワハラ鬼畜野郎ではない。
しかし、自分が1人でやるべき仕事は常に目の前にあり、ただ黙々と作業しなければならないことも多い。
仕事から帰宅して、YouTubeを垂れ流しながらぼーっと脳を休めることも増えた。
これが仕事で、これが社会人だ、と思う自分もいる。

そんな中、ふと開いたnoteで「#スポーツがくれたもの」投稿募集の記事を見た。

社会人になって書くことが好きだと気付き、気が向いた時に好きなように書いているnote。テーマも面白そうだと思い、大学時代に思いを馳せることにした。


私は大学4年間、躰道というマイナーな武道に没頭していた。
空手から派生した武道で、空手のように型や戦う競技がある他、ヒーローショーのように1人の主役が5人の敵役を倒していく、展開という競技がある。展開は30秒という決められた時間の中で自分達で動きを考えて筋を決める。一つの演目、作品を創造し、各チームで技術力、芸術性、創造性等のポイントで競い合うのだ。
躰道の最も大きな特徴は、その動き方にある。体を3次元的に動かし、そのエネルギーを突きや蹴りに乗せることで威力を増す。「攻防一体」という考え方があり、攻めながら守る、守りながら攻める。結果的に技の種類は多岐に渡り、戦略は重層化する。

そんな躰道が私にくれたものは、仲間であり、思い出であり、何気ない日常の彩りだ。

躰道部での4年間は、色々なことがあった。
1年の頃はセンスある同期に嫉妬した。なんとか追いつこうとがむしゃらに練習した。同期に遅れをとりたくなくて、家族でハワイ旅行に行った時ホテルの廊下で夜な夜な練習したりもした。
2年の頃は怪我から満足に練習できないことが多く、大会も外から見ることしかできず、ずっと悔しい気持ちを抱えていた。
3年の頃は何とか全国大会出場権を獲得したが、実力不足でチームの力になれなかった。
4年の頃は世界大会への出場権を勝ち取って体がボロボロになるまで仲間と練習し、あと一歩のところで優勝を逃して涙を流した。秋の大学対抗の全国大会では念願の優勝を果たし、これまでの努力に感謝したこともあった。

楽しかったことも嬉しかったことも、悔しかったことも辛かったことも、全て躰道というスポーツの中で、そして躰道を通じて出会った先輩や同期、後輩との関わり合いの中で生まれた。
練習の厳しさから当時はもう辞めたいと思ったことも、心底嫌だと思ったことも数え切れないほどあった気がするが、躰道によって大学生活は彩られ、今となっては思い出としてキラキラと輝いてみえる。
当時の仲間は今も心から信頼できるかけがえない存在であり、喜怒哀楽の思い出は無くなることのない宝物だ。

高校までは1人で勉強ばかりしていた。小学校の頃から塾に通い、中学受験を経て中高一貫校に入学した。もちろん友達との思い出もたくさんあるが、勉強が常に生活の中心にあり、高校3年の大半は教科書やノートと向き合い、シャーペンの芯を削り続ける日々だった。
常に自分の課題と向き合い、自分と向き合い、自分一人で問題を解決していく日々だった。

そんな私にとって、大学で出会った躰道は、大切な仲間を与えてくれた。自分1人だったつまらない日常に、感情を揺り動かす彩りを与えてくれた。学校の授業では教えてもらえない、人を思いやる気持ちを教えてくれた。

躰道に出会っていなければ、日々目の前の課題に1人で向き合い、1人で感じられる喜びしか知らなかったかもしれない。

最近働いていると、高校の頃の、教科書と向き合っている自分に戻ってきているように感じることがある。
今の生活に自分が求めているものは、スポーツの中で、仲間と目標を目指し、笑ったりイライラしたり感動したりしながら努力する、部活動のような日々なのかもしれないと思った。

今も部活の卒業生が任意で集まる躰道の道場に所属しているが、最近あまり参加できていない。
仕事で疲れていることを言い訳にせず、そうした彩りが必ず待っているから、積極的に参加しようかなと思う。

そう顧みる機会をくれた、この企画に感謝したい。

そしてこれからスポーツを始めようか迷っている人がいたなら、ぜひやってみてほしい。

コロナの影響でスポーツの機会が減っている状況は、非常に心苦しい。部活の後輩もリモート稽古など工夫しながら活動しているが、大変なことも間違いなく多いはずだ。

また皆が集まってスポーツに没頭できる日々が早く戻ってくることを、心から願っています。

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