フムス
イタリアンをいただく機会があった。学生時代は、いかにハイボールが安い店を探すかこそ正義だと思い込んでいた私にとって、しっかりと佇むイタリアンレストランのコース料理というだけで背筋がピンとする。
「こちらフムスになります」
「うわあ美味しそう…!!」
向かいに座る同期がそう言った。
…
…
…
「ん?フ・ム・ス??」
この謎の「…」3連続で上のような感情にならず「え?フムスも知らないの??」と思われたみなさん!これから続く物語は読むだけ徒労になるに違いありません。ごめんなさい。ただせっかくここまで読んでくださったならそんなに長くかかりませんので最後までお付き合いください。
「ん?フ・ム・ス???」
私の目の前に広がるのは【黄色のペースト状のもの】と【細く切られたフランスパンのようなもの】と【バスケット】
黄色のペースト状のもの(バールのようなものみたいな言い方で申し訳ない…)がおそらく「フムス」な気もするが、大穴でフランスパンのようなものが「フムス」にも見えてきた。細く切られていたら「フムス」と呼んだり…?待て待て、この黄色のペースト状のものをフランスパンに乗せた完成形こそ「フムス」なんじゃないか…。「フムス」お前は一体どれなんだ!!
…だめだ。それ以外何にも気がいかない。何も手につかない。「フムス」しか見えないっ!!先ほどまで和気藹々と話していたトークに集中したい!早く現実世界に戻りたい!隣には光り輝く生牡蠣に生エビ、ずっしりと佇むラム肉のステーキだってあるはずなのに、俺の視線にあるのは「フムス」だけ。「フムス」愛して…だめだだめだ!何をしているんだ俺は!
待てよ…
まさか…
海と山の高級食材をも圧倒する勢いで私の視線に飛び込む「フムス」は…高級食材なのではないか?世界3大珍味会議の最終審査まで行ったものの、利権や圧力団体などに阻まれキャビア・フォアグラ・トリュフには入れなかった伝説のメンバーだったりするのかもしれない…
こうしてはいられない。フランスパンのようなものに黄色のペースト状のようなものを塗り(高校の現代文の先生がこれを読んでいたら幻滅するだろうなぁ…ごめんなさい)、口に放り込む。
…
…
…
じ、じゃがいもだ!!!!
IKEAでランチすると必ずついてくるマッシュポテトに近い!そして、何より美味しい!これは幾つでも食べられてしまう!待て待て、食べ進める前に一回整理しておこう!ここで私の頭は以下の結論を導き出した。
◯黄色のペースト状のもの
=マッシュポテト
◯フランスパンのようなもの
=フランスパン
つまり、黄色のペースト状のもの改めマッシュポテトをフランスパンのようなもの改めフランスパンに乗せて食べる食べ方を「フムス」と呼ぶのだ!Q.E.D.
我ながら賢かった。昔からZ会の算数特化コースをやっていた甲斐があった。文系でありながら理系的な思考もできるじゃないか。「フムス」という「食べ物」を、おっと失礼、「食べ方」を、学生時代にハイボールを一緒に飲んでくれてた友人たちは知るはずがないだろう。これはいつかイタリアンに行って教えてあげなくちゃ。
現実世界に戻り、前に座って「フムス」が来たときから感動していた同期の彼女にこう伝える。
「フムスのマッシュポテト美味しいね!」
…
…
…
「あれ?フムスってヒヨコマメじゃなかったっけ??」
…
…
…
「ヒ・ヨ・コ・マ・メ?」
ヒヨコマメ?hiyokomame?
あ、ヒヨコマメ!ヒヨコの豆!動転しすぎて言語処理が追いつかなかった。理系脳になっていたから仕方がない。
ん?え?ヒヨコマメ?
そこからの記憶がない。せっかくここまで私の脳内描写に付き合ってくださった皆さまのためにしっかり整理しておくと、
ヒヨコマメをペースト状にしたもの=フムス
黄色のペースト状のもの=フムス
フランスパンのようなもの=フランスパン
だったらしい。ヒヨコマメをマッシュポテトだと受容したアホ舌を晒しあげ、絶対アカンをセルフで導き出し、見事「映す価値なし」となった私。イタリアンは難しい…と結論づけるべきなのか、私の舌は味覚異常ですと認めるべきなのか…
どちらでもいい。とりあえず今はあの場で私をペースト状にしてくれなかった向かいの席の同期を恨むことにしよう。
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