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薫らない金木犀

9月、父の訃報届く。


八月尽向かいのホームに父の影

火葬場のある駅に住む夜学生
黒服の人と毎朝すれ違う
暇だから早く着いたと旧き友
冷たくて熱い火葬場天高し
葬儀所で働く人の無表情
売店のおばちゃんたちの笑い声
水澄むや喪服の下は素足です
喪主様は、聞かれ慌てて席を立つ

棺ともディスタンスのままさようなら
焼香の正しい仕方盗み見る
棺だけ触ってみても秋の風
この釘で出てこぬようにする死者を
自動ドア閉まれば着火いたします
おとなりで焼かれる人はどんな人

空っぽの遺影置き場に金木犀
葬儀場の価格表見る秋うらら

秋白く熱々の骨いれし壺
ちりとりで集めし骨や羊雲
エコバッグすっぽりはまる骨の壺
骨壺をホームに直置きする夫
秋晴れの都営線で抱く遺骨
まだ熱き骨の温もり秋の昼

死に様に性格が出ると友が言ひ
あの部屋はお骨があるねと清掃員
TOKYOを見渡している父の骨
骨壺が父かのように話しかけ

薫らない金木犀と父の部屋
秋の日の家主の死んだ部屋で舞う

コスモスや宅配された息遣い
遺品から督促状や秋日和
賢治の忌故人のガス代を払う
跡形を一つずつ消すいわし雲

吾に生を与えし人の骨と寝る


2021年9月 父、薫永眠。10月、東京にて密葬を終える。

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