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【私は任地を去った】 Herinandro faha 25

「私はわたしを取り戻す」

あの時の言葉が、緊張して固まっていた心を少しほぐし、今ここにあるありのままのわたしの感情を受け入れる柔らかさを与えてくれた。

私は任地を去った。

以前のnoteで、任地で生きていこうと決心したのだが、決心とは反対に私の心は荒んだままだった。

数週間前に、研修で首都に上がった際に、ボランティア調整員さんと任地の話になった。
以前から相談していた任地でのセクハラについて。

体験したすべてのことを話した。

話しながら、「こんなことにも耐えられない自分は、情けない」と思うも、その時の恐怖を思い出し、涙が止まらなかった。

そして、これをちゃんと解決するために、何度か同じ話をしなければならなかった。日本語で、マダガスカル語で。

本当は、それがとても辛かった。

ハラスメントを受けた苦痛よりも、それに耐えれなかった自分を責める気持ちが日に日に増していく。

任地に戻ってからも、ろくに活動もせず、家に引き篭もる日々。
しかし、食べるものがなくなり、街の市場に行く。それは、同時に職場にも行かなければいけないということ。
この数ヶ月耐えてきたことに、耐えることができず、買い物だけでも家に着く頃にはぐったりと疲れ切っていた。

最初の話し合いから2週間。
JICAの健康管理員さんと話し合い、任地変更を打診された。

いつの間にか頑張ってしまう私

母からの「元気ですか?」

健康管理員さんと話し合いを終え、携帯を確認すると、母からLINEが来ていた。
「元気ですか?」

心臓がゾワっとする。母が私に心配の連絡をしてくるのは、長い海外生活の中、これが初めてだ。

任地を去ったら、笑い話として話そう。そう決意して、返信した。

「元気です。美味しいご飯を食べてます!」

大切な人には、いつも嘘をついて、自分を気持ちを隠してしまう。

しんどい飲み会と「そんなに頑張らなくていいのにね」

任地変更が決まった日。

偶然、協力隊やボランティア調整員が集った食事会が開催された。心の疲弊が最高潮に達していた私は、感情が溢れるのを避けるためにアルコールは控えた。

それでも、気づいたら帰り際には泣いていた。

しんどい飲み会だった。
もちろん、誰が悪いわけではなく、私の心の問題なのだが。
話の渦にも入れず、途中から離席して、少し離れたソファーに座ってぼーっと、閉会を待っていた。

帰り際、ボランティア調整員さんと微妙な空間。しんどさを悟られたくなくて、逃げようとしたら、やはりバレた。

「この飲み会、しんどかったですね」と苦笑いで言おうとしたのに、泣いていた。

「頑張りすぎちゃうんだよね。そんなに人は気にしてないから、頑張らなくていいのにね」と言ってくれた。

それが今までのしんどさの全てだったのかもしれない。

「誰にでも、笑わなくていいの」

任地を去る日。
大家さんに家賃契約解除の書類作業をしながら少し話した。彼女は、私がセクハラで悩んでいたのをなんとなく気づいていたそうだ。

「あなたの笑顔は素敵だけど、ここでは誰にでも笑わなくていいの」
と、言ってくれた。

この国で女として生きてきた彼女の言葉はとても強くて真っ直ぐだった。

療養期間

引っ越しを終え、療養期間として1週間、首都のホテルに滞在することになった。

「療養期間だなんて、私が病気みたいじゃないですか〜!」と、誰かに言った。

結局、誰にもしんどさを悟られないように、空元気で頑張ってしまっている私がいる。そして、それは、自分の心さえも騙す。周りの方が、よっぽど私のことを理解しているのではないか。みんなの私を見る目がとても痛かった。

鏡の中で私を見つめる私を見て、自分が誰かわからなくなる。

「私はわたしを取り戻す」

「次の任地をどこにしようか」と話し合いながらも、次の任地で自分が活動している想像ができない。

「早く私を立て直さなければ」と焦りだけが積もっていく。

そんなときに、あるコピーを思い出した。

「私はわたしを取り戻す」

前職のNGOの寄付パンフレットに書かれていたコピーだ。
彼女を何回見ただろうか。何千枚とこのパンフレットを封筒に詰めたのを思い出す。


認定NPO法人 テラ・ルネッサンスHPより引用

コピーと一緒に写るのは、真剣な目で見つめるアフリカの女性。
彼女はコンゴの性暴力被害者。私のセクハラに比べても、もっと辛い経験をしてきた。しかし、自分のため、家族のため、生活を立て直し、今を生きようと、前を向いている。

人とは比べたくない。
でも、やっぱり私の心を揺らしてくれるのは、会ったこともないアフリカの地で力強く生きる彼女たちの姿だ。

鏡に映る私の目に、彼女のような力強さはまだない。

でも、私もわたしを取り戻したい。

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