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「つづける」覚悟を持った服

「せめて100年続くブランドに」

 東京都現代美術館で開催されている、ミナペルホネンの展示会の冒頭の文章には、ブランド創設時のデザイナーの想いが書かれている。

 「つづける」覚悟とともに始まったブランドの、「つづく」という名の展示会。

 そこでは、デザイナーの哲学や服飾技術といったブランドサイドの紹介だけでなく、作られた服がデザイナーやブランドの元を離れた後にも、そこに込められた思いが続いていく様子が見られる構成となっている。


 展示会の途中、服を着て暮らす人々の日常の映像が流れている部屋がある。登場するのは、4人の女性。それぞれ、パリ・東京・山形・沖縄で暮らしていて、共通点はミナペルホネンの服を着ているということだけ。

 ビデオに映る女性たちは、住む場所と同様、年齢、職業、容姿が全然違うのに、どことなく共通点があるように感じられた。物静かで、所作がきれいで、自分の仕事に真摯に取り組んでいて、身の回りにあるものを長く大切に扱っている。おしゃれだけれど、流行を追いかけているというより、自分のスタイルに合うファッションを愛している印象。

 服が着られる姿を見ることで、服単体で見る時以上に、服やブランドの背景にある哲学が感じられる映像作品だった。


 そして、展示会の終盤に、服とその思い出が展示された部屋がある。誰かが所有する服が透明なケースに入れられて、そのケースには服を購入してから過ぎた年数と、所有者の服との思い出が書かれている。

 服とそれを着る人の関係性を考えると、最初は着る人が、服の持つデザインや哲学や色や形などに惹かれて、その服を手に入れる場合が多いと思うけれど、服を長く着るうちに、今度は服を着る人の思い出や気持ちを、服が受け止める器になっているようだった。服と着る人が、お互いに大切なものを交換し合っているようで、その関係性がとても素敵だった。

 きっと、皆川さんの「100年続ける」という決意の中には、ブランド自体を続けることだけでなく、服を着る人との関係性も100年続ける決意が含まれているのだろう。人の思いを受けるだけの懐を備えたブランドだからこそ、それができるんだと思う。

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 ミナペルホネンというブランド名は知っていても、実際のテキスタイルや服をみるのはこの展示会が初めてだった。

おかげですごく好きになったし、いつか自分のワードローブに加えたいと思っている。


 私自身が服をお店で選ぶときは、「自分に似合うか、その色は好きか」と服の見た目でしか判断しないことが多い。だけど、それでだけではもったいないと思った。

 服の裏側に隠れたデザイナーの意思を受け取り、また、自分の思い出や気持ちもそこに込めていくような、何年もともにいる相棒を選ぶ気持ちで、これから服に向き合いたいと思った。

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