バンドという形態の魅力とは

僕はバンドでボーカルをやっています。
現在は活動していませんが、とにかく音楽が好きで歌が好きでそして何よりバンドが大好きです。
いつもは心理学の話をメインに記事を書いていますが、今回は僕がバンドという形態にこだわる理由を話してみたいなと思います。
そして面白い事に僕のバンド観を通じて思想の話にも繋がってきそうなので、バンド音楽に興味がない人にも楽しんで頂けるかもしれません。

バンドという形態にこだわると言ってもバンドを始めた時には特にバンドという形態に今ほどはこだわりがなかったように思います。
初めは影の実力者的な立ち位置が渋くて良いなと思ってベースを始めたのがキッカケでした。
そこから自分にはベースは向いていないと思い、ボーカルに転向したというような流れですね。

僕がバンドという形態にこだわり出した理由はまずヘヴィなギターサウンドが好きだからという事でしょう。
僕がヘヴィな音楽を好きになった1番のキッカケはおそらくムック(MUCC)だと思います。

当時「朽木の灯」というアルバムの遺書という楽曲を聴いてこんなに真っ暗な歌詞があるのか!と思ったのと何より7弦ギターと5弦ベースを使った重いサウンドに度肝を抜かれたのを今でもよく覚えています。
7弦ギターと5弦ベースだからこのサウンドなんだ!と思いきやムックの朽木の灯のサウンドがそもそも最高の音すぎたという事に後々気がつかされましたが笑
あの刃物と鈍器を合わせたような殺傷力の高いサウンドは20年弱経った今聴いてもすごいなと思います。

そしてもう一つバンドという形態にこだわりたくなったのにはLUNA SEAの存在が大きいです。
初めはROSIERしか知らず、それもCD音源しか聴いていなかったのでLUNA SEAにはそこまで興味は持っていませんでした。
もともとメタル系のサウンドを好んでいたので、サウンド的にもあまり興味はありませんでした。
ところが知り合いにLUNA SEAのライブに行かな
いか?と誘われて周りにもLUNA SEA好きがたくさんいたので行くことを決意しました。
せっかくライブに行くのであればということで初めに友人たちにオススメを聴いてライブDVDを購入しました。

購入したのは「ONE NIGHT DEJAVU」という2007年に東京ドームで行われたLUNA SEAが7年ぶりに一夜限りの復活を遂げたライブのDVDでした。
これがもうとにかくカッコ良くて衝撃を受けました。
なんじゃこりゃ?!という感じですね笑

ヘヴィな音楽を好んで聴いている自分的にはまず驚いたのが弦楽器隊の音が分離して存在している事ですね。
ヘヴィメタルやヘヴィロックはユニゾンで一つの音の塊を作る構造が多いのですが、LUNA SEAの弦楽器隊は基本的に全員が違う事をしている上にどのパートも個性的。

まず1曲目の「LOVELESS」が今言ったような特徴が集約されていますね。
初っ端からSUGIZOさんのトリプルネックギターやら12弦ギターやらが意味不明すぎますが笑

ディレイのかかった宇宙的なリードギターに幻想的なクリーンのアルペジオと何処となく和の雰囲気を感じさせるパワフルなドラミングに唸るような心地良いベースの低音、そして程良く艶があり癖の強さの割に全く発声がブレないボーカル。
全員にこれだけ強い個性がありながら綺麗に音が分かれていて、かつその上で完全に分離するわけでもなく一つの音空間を構築できている絶妙なバランスは僕のバンド観を覆すものでした。

先ほど話したようなラウドミュージックに多い弦楽器隊が一つの音の塊になるようなスタイルの音は当時から大好きで今でも大好きですが、LUNA SEAのような音世界に比べると分かりやすく独創性を感じづらいような印象があります。
LUNA SEAのように音が全て独立して存在した上で音世界を構築するスタイルも自分のバンドには取り入れたいなと思うようになりました。

ちなみに僕が1番好きな日本のバンドと言えばDIR EN GREYなのですが、DIR EN GREYの音世界はいわゆるラウドな一つの音の塊を構築するスタイルとLUNA SEAのような各パートが独立して存在するようなスタイルが混在している印象があります。
ボーカルがあまりにも個性的すぎるので楽器隊の音世界に言及している人は意外に少ないので、それは少し勿体無い気がしますね。

「輪郭」なんかは各パートが独立して存在しているようなスタンスがわりと伝わりやすいのと「輪郭」が収録されているARCHEに関してはDIR EN GREYの中で最も音が立体的で単なるヘヴィロックに収まらない立ち位置な気がしますね。
(個人的にはARCHEはあまり好きなアルバムではないのですが笑)
LUNA SEA的な音世界とヘヴィロックが融合している雰囲気はポストメタルというような雰囲気でしょうか。
RADIOHEADのヘヴィロックver.的な立ち位置にあるDEFTONESにも少し通ずるものがあるかもしれません。

個人的にいわゆるラウドロックの音は大好きではあるものの、ラウドロックだと基本的にはLUNA SEAのような立体的な音世界が楽しめない為に少し無機質で2Dのような印象を感じて刺激が足りないなという印象を受けます。
無論、僕が大好きなTOOLやMESHUGGAHのように無機質を極めた自閉的な世界観も大好きではあるのですが。

僕は今から10年ほど前にzahirというバンドでの活動を始めました。
バンドが好きだからこそバンドに加入したのですが、そのバンドでの経験で僕のバンド観はさらに完成されたように思います。
初めてメンバーと出会ってデモ音源を聴いた時に「ああこれだ!!」と身体に電撃が走るような衝撃的な出会いでした。
最初の頃は実力不足で周りについていくのに必死という状態で成功体験も何もなくただただひたすら必死でしたが、そんな中で自分が成長していくに連れて何回かとても良いライブをできたなぁと
思う瞬間がありました。

あのバンドで上手く噛み合った時はLUNA SEAのように各自のサウンドが独立して存在を主張している感覚とヘヴィロック的な一つの音の塊を作るというような感覚の両方が味わえて僕にとっては最高の時間でした。
「ゾーンに入る」という表現以外に形容できないくらいに自分のエネルギーの全てが放出されてまるで神なるものにでも近づくような強い全能感を感じる瞬間がありました。

zahirにて確信したバンドの魅力とは、やはり異質なものがぶつかり合ってせめぎ合う中でお互いに足りないところを埋めあって完全体となるような感覚です。
商業的な成功を収めたわけでもアルバムを発売したわけでもなく形に残るものはありませんでしたが、僕の心の中には確かにあの時の成功体験というのが残っています。
ある種の依存症に近い状態で病気や声の不調などもあって一度はバンドを離れた身ではありながらも、やはりあの時の成功体験が忘れられません。

最近、自分の思想をこのnoteであったりTwitterなどに垂れ流しているのですが、実のところ違った視点を持った人たちの生み出す異質なものが合わさる事で思いもよらない集合知が形成されるというような発想はバンドで培ったものなのかもしれません。
違った人生を生きて違った思想を持って違った音を出すある種のオタク的なこだわりが強い人たちが集まってお互いの価値を認め合った上でぶつかり合うというバンドならではの刺激が僕にはたまらなく面白いのです。

自分一人で生み出すものはどう頑張ったところで予想の範囲にしか収まらないので面白くない。
異質な他人が何を持ってくるか分からないというような不確定要素が常にあるのがバンドです。
その分、バンドがまとまるという事は非常に難易度が高いです。
LUNA SEAを始め大物バンドが活動休止するのもバンドをやってきた身からすると納得です。
本気の人たちが集まるが故の難しさというのはある気がします。

またライブに限った事で言うと、その時その瞬間にしか存在し得ない何かというものの存在はとても大きいです。
分かりやすい話で言うと生演奏における即興的な要素でしょうか。
僕のボーカルスタイルの話で言うとライブ中に少しメロディを変えたり歌い回しを変えたり等でしょうか。

それは自分の声のコンディション的に調整するという場合もありますが、単純にある程度即興性を残しておく事でより緊張感やリアリティが生まれるのではないかという発想です。
細かい事で言うとビブラートの波形であったり、リズムを少しタメたり、裏声を混ぜたり、音程を1オクターブ上の音程で歌ったり、喉頭の位置を上げたり下げたりして音色を変えたり、音量を上げたり下げたり、少し声を歪ませたりなどです。
組み合わせ次第で選択肢は無限にあります。

それはその時その瞬間に自分が良いと思ったように歌うという感覚なので、頭で考えてやるという感覚ではないです。
自分の脳の赴くままにという感覚でしょうか。
時にその即興性により偶発的に生まれたものを音源化する際に採用する場合もあります。
常にセンサーを張り続け、自分が良いと思える音を模索していくような感覚ですね。

このような即興性が他のパートにもあるのが望ましいなとも思います。
無論、即興性を求めすぎると曲が崩壊していく可能性もあるのでバランスは難しいのですが、毎回決まりきった予定調和になるより即興性という奥行きを持つ事でより刺激的で面白いものを生み出せるのが理想かなと思っています。

近年はEDMやダンスミュージックなどの台頭もありバンドサウンドというものに対して強くこだわる人も減っているように思いますが、やはり僕はこれからもバンドという形態にこだわり続けたいなと思います。
バンドという形態以外でも音楽をやる事自体には抵抗はないのですが、バンドという形態での音楽活動の場は常に持っておきたいなと思います。

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