手袋をすると指先が余ります。
特に小指の先。

手袋の中の小指の先の空間。
ちょうどよく小さくて、あたたかいです。

どなたかいりませんか？

あなたの余りものと、交換こしませんか？

何が欲しいのかって？

私はねぐせが欲しいです。
後ろの方がちょっと跳ねてるやつ。
髪をショートカットにしたら、この間初めてねぐせが付きました。
後ろの髪の毛の先がぴょんと重力に逆らって上を向いていました。

私はとても嬉しくて、何回も鏡で眺めました。
撫でた方向に揃わないのが楽しくて、何度も触りました。

私はこのねぐせを世界中の人々に見せたくて、世界へ飛び立ちました。
そこはねぐせを自身のアートとして皆が誇りをもって見せ合い、称賛し合う世界でした。


見て！！私のねぐせ！
まるで朝顔のつるみたいに美しいでしょう。
わあ！あなたのねぐせも素敵ね！
名立たるサーファーたちが挑む、世界一のビッグウェーブだわ。
知ってるかい？今日はあの方のねぐせが素晴らしいんだ。世界一はあの方に譲るよ。
まあ見せてもらいに行きましょう。順番待ちかしら。急がないとね。


と、午前中いっぱいそちらの世界で過ごしていたのですが、気付いたら毛はいつもの通りになってしまい、こちらの世界へと戻ってきました。しゅん。

身だしなみ？知らないそんなの。美味しいの？
私はねぐせを愛してるの！

ねぐせ、そのときの一回だけなんです。
もうそれ以来ねぐせ付かないんです。
毎日、ねぐせが付いているか楽しみに、鏡で見てみるのですが、全然付いてくれないの。
あれは奇跡のねぐせだったみたい。

もしあなたのねぐせが余っていたら、私の小指の先の空間と交換しませんか？

え、小指の先の空間は、使い道がない？

うふふ。そんなことはないですよ。

例えば出先でちょっとごはんの味付けを加えたいとき用に、ごま塩を入れておくとか。
明けの明星をそっと閉じ込めてもいいし。
ちょっとした鼻くそをしまっておいたり。
小さな生き物、メダカやほたるや、かたつむりの赤ちゃん位ならここで飼えますよ。

どうでしょう？

小指の先の余りものは、ささやかな幸せの空間ですよ。
自由そのものですよ。

それに他にも素敵な使い道がたくさんあるかもしれません。

欲しくなってきました？

え、でもねぐせは余ってない？

ふーん。そうですか。
では何が余っていますか？
あなたの余りもの、教えてくださいな。