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【鉄日】24/04/15. 渚にて。

ここ数日ですっかり葉桜となってしまい、季節外れの夏日が続く日本列島。
僕は、SF古典「渚にて(On The Beach)」ネヴィル・シュート・著 読了。
グレゴリー・ペック主演映画(1959)は見ていません。
この本はあの新型コロナ自粛時期に読むべきだった。
あの時期2年あまり、自宅で軟禁されながら、割と同じシチュエーション系の映画を楽しんでた。
部屋を宇宙船に見立て宇宙空間を彷徨ってる感覚、狭い船内でどうやったら神経を正常に保っていけるのか、そんな実験を繰り返し日々の均衡をとっていた。
畢竟、僕はひとりでも充分満足できる資質を備えていると結論付けるのだ。
インターネット動画配信、youtube、amazonで欲しいものは買い、食事、お酒さえ入手できたら、立て籠ることにそれほど抵抗はなかった。
でもそれは相棒(猫)が居たからなのかもしれない。
そして誰とも関わらないと、物の見方がズレていくような気もする。
あまりにも一方向からしか世界を捉えられないのは脆弱すぎて危うい。
それからさしあたって元通りになったワケであるが、コロナ自体が消えたワケでもなく依然としてどこかに巣食っていて、パンデミックが沈静化したというよりは、政策が変更された、若しくは慣例化されたと言った方がいいのかも知れない。
あの2年間はここに到達するために必要な熟成期間だったとも言える。
だから急ぎ過ぎていた時代に、全世界が一旦止まって足元を見ることができたコトは悪くない。


映画「オッペンハイマー(2023)」

映画「オッペンハイマー(2023)」
紆余曲折しながらもやっと日本公開に漕ぎ着け、今月頭見に行った。
C.ノーラン監督は、時間軸を捻じ曲げ映画を撮るので、史実を扱うとかなり難解になってしまう。
「メメント(2000)」からバットマンシリーズを経て、「インセプション(2010)」「インターステラー(2014)」「テネット(2020)」と新機軸で容赦無く時間を揺さぶるので、ついていく方は振り回される。
原爆を作ってしまった科学者、ひとつ分かるコトは、もうそれ以前に戻ることができないという事実だ。
映画ならば、マルチバースならば、違った可能性を図れるのだけど、広島と長崎に落とされたという現実は回避できない。
原子爆弾が作られ、水素爆弾になり、原子力で発電するところまで続くこの流れは、チェルノブイリや福島での事故があったとしても止まらない。
原子力を知ってしまった世界は、抑止力だのクリーンエネルギーだのと装飾をつけ、悪魔的で人智を超えるような力をコントロールできるというのだろう。
でもね、人間が信用できないからさ、あってはならない力は閉じ込めた方がいいと僕は思っています。
悪意ある人がいる限り、自然がそれを壊す可能性がある限り、使わないで済む方策をとった方がいいんだ。


「渚にて(On The Beach)」

「渚にて」は、1964年第三次世界大戦が勃発し、核爆弾の一種であるコバルト爆弾の高放射線曝露で北半球の人々の大半が死滅した、というところから始まる。
原爆の父オッペンハイマー博士はまだ在命(67年死去)してるが、アメリカは壊滅してるのでこの時間軸では早めに死んでることになる。
オーストラリアのメルボルンが最後の都市、そこへ徐々に放射能が近付いてくるという数ヶ月の物語。
アメリカ最後の原潜スコーピオン号が死滅した都市に調査へ向かい、ただ誰も生きている人間はいないという事実を知るだけのなす術もない旅となる。
それでも人々はまだ希望的観測にしがみつく。
数ヶ月先にはやってくる放射能を忘却したかのように、一年後のために仕事を続ける者、子供の成長に苦慮する母親、
笑うに笑えない状況だというのに日々の仕事に従事する者たち、それが目前までやってくるまで日常が恒久的だと思い込む人々が哀れだ。
高級クラブの年代物ワインを、死に絶える前に飲み干してしまおうという老人の方がまだマシに見えてくる。
そうしっかり結が決められ、残された時間をどのように使うのか、それぞれの生き様が描かれていく。
ゆっくりと、そして確実に人を喰らっていく放射能汚染の恐怖は、見えないウイルスのようにぞっとする。
311福島原発がメルトダウンしたニュースから、東京も小さなパニックでガイガーカウンター片手に計測して回る者もいた。
目に見えないそれは、風に吹かれ雨に混ざって降ってきて、僕らを蝕んでいくようで、その続きはまだ終わってはいない。
何をしでかすのか一番わからないのが人間、そんな猿に破滅的な道具は持たせちゃいけない。

「自分が死んだとき、どんな格好をしてるか誰も知りたくない。
わたしは人が生きていたとき、どんなだったか、それだけを覚えていたいのです。」
ドワイト中佐(スコーピオン号艦長)

「渚にて」

「渚にて」を読もうと思ったのは、Grateful Dead "Morning Dew"がそれにインスパイアされた曲だと知ったから。
(SSWボニー・ドブソンがオリジナル)
そう、これが核戦争後、放射能に被曝し茫然と岸に佇み、後はただ死神を待つだけ。
それがやってくる前に逝きたければ赤い錠剤をウイスキーで流し込めばいい。
You never see those people anyway.
I guess it doesn't matter anyway…


ニール・ヤング「On The Beach」とこの書籍の関連性はわからないけれど、
このジャケットはそこに近いような気がします。