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ジャクソン・ポロック - 僕の好きな藝術家たち vol.1

好きな藝術家について書きたいように書いてみるシリーズ。その藝術家についてのバイオグラフィとか美術史的意義とか作品一覧とかはインターネットで他のページを参照してください。


法月綸太郎の短編集『パズル崩壊』は、収録作のほとんどが純然たるミステリとは言い難くて他人に薦めにくい本なんだけれど、個人的にはとても楽しく読んだ一冊。その中に収められている「カットアウト」は、大原美術館に収蔵されているポロックの作品をモチーフにした奇譚(ほとんど幻想小説)。

この作品を読むまでポロックという画家は知らなかったんだけど、小説が面白くて、ポロックの名前と、小説のタイトルに取られてる「カットアウト」という作品名が記憶に残った。

実際にポロックを観ることができたのは、小説を読んでからずいぶん経ってからで、国立近代美術館での大規模な回顧展(2012.2月~5月)でだった。雪が降り積もった寒い日に訪れたけれど、展覧会を観終えた時には、熱に浮かされたように興奮していたことを今でも覚えている。

中でもドリッピング作品に強烈に囚われた。心が鷲掴みに掴まれた。大きなカンバスを埋め尽くす、ふりかけられた絵具の夥しい細い線。そこには、カンバスの空隙を埋め尽くしたいという執拗な欲望が、煮えたぎるように焼き付けられていた。

狂っている。ポロックの執念はもはや狂気の域に達している。そう思った。狂ったように振るわれる筆、それは、生きていく上での苦しみ、痛み、そういったものに耐えるための祈りのような。狂わずに生きていけるほどこの世界は平和じゃない。狂っているのは世界なのか、自分なのか。そんなぎりぎりのところにある作品のように感じた。

ポロックのドロッピング作品における、カンバスに叩きつけられた絵具の量の多さが、そのまま作品の製作時間の長さを教え、その製作を支えたポロックの狂気と祈りと衝動の深さに戦慄した。こんなヒリヒリするような作品があるということを知った、あの冬の一日。

シュルレアリスムやモダニズム絵画などを観ながら、面白いし格好いいんだけれど、もう一つ心に迫ってくるものがないように感じていた僕は、ポロックを手がかりに、表現抽象主義やアンフォルメルというムーヴメントについて興味を持ち、次第に興味が現代アートへとシフトしていく。

ちなみに、元キュレーターの人気作家、浜田マハにもポロックをモチーフにした小説『アノニム』があるけれど、こちらは浜田マハの悪い面ばかりが出てしまった駄作だった。

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