報告された逸脱はどう処理されるの?


はじめに

治験をやっていると「治験実施計画書からの逸脱」というものがどうしても起きます。実際に施設で見つかった「逸脱」が、その後依頼者内でどう処理されていくのかを紹介したいと思います。CRC(治験コーディネーター)の方はおそらくほとんどの方が知らないでしょうし、CRA(臨床開発モニター)の方も知らない方がいるかもしれません。

※1 この記事は、読者が治験実施計画書からの逸脱(以下、逸脱)とはどういうものか知識として理解されているものとして書いています。
※2 緊急の危険回避のための逸脱や事前に治験依頼者と合意を得たもの(Planned Deviation)の特別な処理はスコープ外としています。
※3 処理の仕方は、当たり前ですが会社によって多少異なります。

治験依頼者内での逸脱処理の手順

治験依頼者が社内で逸脱データをどう処理していくのかを説明します。最初に言っておくと、治験が終了した後に作成する治験総括報告書(CSR)には、重要な逸脱を含めた全ての逸脱を記録することになっており、施設で起こった逸脱は症例のデータ採否判断に使用され、最終的にはCSRに記載されます。
では、治験依頼者側でどのように逸脱データをまとめているのかみてみましょう。

想定された逸脱を治験の開始前にリスト化する

社内でプロトコルが固定されたタイミングで、想定される「逸脱リスト」が作られます。リスト上で「同意」「来院」「併用禁止薬の使用」とかの分類分け、重要な逸脱かどうかなどを規定しておきます。また、それぞれの逸脱がどこで見つかるのかも確認しています。
また、逸脱リストはプロトコルが改訂されたり、想定がされなかった逸脱が発生したりしたら追加するなどの見直しがされたりします。つまり、常に想定される逸脱がリスト化されてることになります。かっこいい言い方をするとLiving Documentってやつです。

逸脱の分類

逸脱には2種類あります。「重要な逸脱(important protocol deviation)」とそれ以外です。重要な逸脱は定義付けがされていています。

重要な逸脱とは、治験実施計画書からの逸脱のうち、試験データの完全性や被験者の権利や安全性に大きな影響を及ぼす可能性があるもの

ICH E3

会社によって重要かどうかの匙加減は多少異なるかもしれませんが、よほどのことがなければ重要な逸脱にはしません。

CRAからの報告とCRFデータから発見

逸脱はCRAがモニタリング中に認知して報告されるものと、CRFのデータから発見されるものの二つに分けられます。治験依頼者は「CRAからの報告」と「CRFの入力データ」の両面から逸脱を拾っているのです。もちろん重複するものもあるのですが、どちらを優先するかは逸脱リストに決めてあります。
CRAはなんらかの所見を発見したら、プロトコルと逸脱リストを参考にして逸脱となるか判断します。発見した逸脱はCTMS(Clinical Trial Management System)等で報告されデータ化されます。会社によっては逸脱リストに載っているものだけに絞ってCTMSで報告することもあります。モニタリング報告書はちゃんと書きます。
一方で、施設でCRFに入力されたデータはDMが予め決めていたチェック仕様に従って逸脱データを作成します。DMのチェック仕様は、 CRFの各項目に対して許容範囲を決めたりしてそれでチェックします。計算式だったりするので、プロトコルの記載と微妙にずれたりしたりすることもあります。
治験の終了後に、これらを一纏めにして症例データの採否判定に使用します。

ちゃんと仕事してください

逸脱データを元にした症例データ採否決定

一纏めにされた逸脱データを元に、症例データの採否を決めていきます。症例検討会を開いて検討することもありますし、予め決められたアルゴリズムに基づいてシステム内でやる場合もあります。最近は症例検討会を開くケースはあまりなさそうですね。準備が面倒くさいですし。
ここで大事なのは、その治験の主要な解析対象集団が何かです。昨今はITTもしくはFASが主要な解析対象集団です。つまりほとんどの場合、逸脱があっても解析対象となるのです。重要な逸脱であれば除外される場合もありますが、重要でない逸脱に至ってはほぼ影響がないと言ってもいいでしょう。

CSRへの記載

データの採否が決まれば、ブラインドがかかっている試験であればキーオープンをして症例データを解析して試験の結果を出すことになります。その後CSRを作成していきます。
先に書いたとおり、逸脱は、重要なものを含めた「全ての逸脱」をCSRに記録することになっています。重要な逸脱に関しては、CSRの本文中に経緯などを記載することになりますが、それ以外の逸脱については基本的に表として添付されることになります。
こうして、施設で起こった逸脱は最終的には全てCSRに記載されることになります。

おまけ

症例データ採否のところでも書きましたが、逸脱はよほどのことがない限りデータとして採用されます。細かい逸脱に対して現場であーだこーだする必要はありません。大切なことは、重要な逸脱にフォーカスを当てて、それを防ぐことだと思います。軽微な逸脱まで含めて逸脱をゼロにするなどということに力を入れる必要もないと言えます。

まとめ

ここまで読んでいただけたら、以下のことが分かっていただけたかと思います。

  • 治験依頼者側で、逸脱のデータをどう処理しているのかの大まかな流れ

  • 逸脱は予めリスト化され、その分類もされていること

  • 逸脱リストは治験中も更新されること

  • 逸脱はCRAとCRFデータの両面から拾っていること

  • 全ての逸脱はCSRに記載される必要があること

  • 逸脱があっても症例データが不採用になることは少ないこと

少しでもみなさんの知識の底上げになっていれば嬉しいです。

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