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フェノール系酸化防止剤BHTと代替品である天然抗酸化物質トコフェロールの成長性について


1.BHTの特徴

フェノール系酸化防止剤として最も汎用なBHT(ジブチルヒドロキシトルエン)は、次のような特徴があります。

長所

  • BHTは、原料や製品が空気中の酸素と反応して酸化されることによる変質・劣化を防ぎ、品質や性能の保持に重要な役割を担っています。

  • BHTは熱安定性がよいので、加熱を伴う原料の製造工程における酸化防止剤として有用です。酸化しやすい油脂成分やビタミン等の有効成分の保護にも利用されています。

  • BHTは、食品、化粧品、プラスチック等の様々な産業で広く使用されており、製品の酸化劣化を防ぎ、貯蔵寿命を延ばし、安定性を向上させることができます。

短所

BHTには発ガン性は確認されていないものの、変異原性は認められています。催奇形性を有する疑いも出てきています。
アメリカ合衆国では乳幼児用食品への使用が禁止されています。
このようにBHTを含む合成抗酸化物質の安全性と環境への影響に対する懸念が高まっており、複数の研究では、BHTが発がん性や内分泌撹乱等の健康被害をもたらす可能性があるとされています。更に合成酸化防止剤の使用は、生分解性がなく、環境に悪影響を与える可能性があります。

活用シーン

  • BHTは、樹脂、ゴム、繊維加工、包装材料、食品添加物、化粧品、洗剤、医薬品等、幅広い分野で使用されています。

  • 化粧品分野においては、欧州委員会の消費者安全科学委員会(SCCS)により、最新の知見に基づく安全性審査が行われ、2021年には適正な濃度において化粧品へ使用することは安全であるとの結論が示されています。

市場規模の予測

このようにBHT等のフェノール系酸化防止剤は、食品、化粧品、プラスチック等の様々な産業で広く使用されており、製品の酸化劣化を防ぎ、貯蔵寿命を延ばし、安定性を向上させます。BHTの市場規模は、その普及と新興国での需要の増加により、成長すると予想されます。(一部の地域ではマイナス成長の予想もあります。)
世界規模
2022年のBHTの世界市場規模は約2億6,401万米ドルで、予測期間2023-2029年のCAGRは0.89%で、2029年には約2億2,961万米ドルになると予測されています。
2024年のBHT市場規模は約2億5,008万米ドルと推定され、2029年までには約3億2,855万米ドルに達すると予測されており、予測期間(2024年から2029年)中に5.61%のCAGRで成長すると予測されています。
BHTの北米市場は、2023年の2,323万ドルから2029年には2,151万ドルに減少し、2023年から2029年の予測期間中のCAGRは−1.27%と予測されています。
BHTの中国市場は、2023年の1億1,388万ドルから2029年には1億2,470万ドルに達すると推定され、2023年から2029年までの予測期間中の年平均成長率は1.52%であると予測されています。
BHTの欧州市場は、2023年の4,119万ドルから2029年には4,164万ドルに達すると推定され、2023年から2029年までの予測期間中に0.18%のCAGRで増加すると予測されています。
(DRIGlobalButylatedHydroxytoluene(BHT)IndustryResearchReport,GrowthTrendsandCompetitiveAnalysis2023-2029)

2.BHTの代替品トコフェロールの特徴

先述したように、BHT等の合成酸化防止剤は、生分解性がなく、環境に悪影響を与える可能性があるため、その代替として、トコフェロール等の天然抗酸化物質への関心が高まっています。

特徴

トコフェロールはビタミンEの一種で、強い抗酸化作用があります。ビタミンEとしても知られるトコフェロールは、様々な植物油、ナッツ、種子に含まれる天然の抗酸化物質です。これは、フリーラジカルを捕捉し、体内の脂質の酸化を防ぐとともに、それが引き起こす様々な病気やDNAの変異・損傷から身体を守る役割を果たしています。推奨用量で摂取しても安全で、BHTをフェノール系抗酸化剤としてトコフェロールに置き換えると、様々な消費者製品の安全性と健康上の利点が改善される可能性があります。

長所

  • 抗酸化作用:トコフェロールは活性酸素を除去する働きを持ち、細胞組織のがん化や変異を抑制することができます。

  • 安全性:一般的な使用方法で用いる場合にはとても安全な成分です。

短所

  • 皮膚炎を有する方の使用や、眼刺激性については一定の注意が必要です。

トコフェロールを含む食品

  • 油類:ひまわり油、米ぬか油、大豆油、べにばな油

  • シード類:アーモンド、ひまわりの種

  • その他:あんこうの肝、からすみ、たらこ、キャビア、マヨネーズ、小麦胚芽

トコフェロールの活用シーン

  • 化粧品:クリーム、美容液、化粧水、フェイスオイル、ハンドケア、メイクアップアイテム

  • 洗顔料、シャンプー

  • 医薬品:トコフェロールニコチン酸エステル系(血中コレステロールや中性脂肪低下作用)等

  • その他、食品、飼料等に活用されています。食品添加物の酸化防止剤としても広く利用されています。

トコフェロール市場の予測

世界のミックストコフェロール市場規模は2022年に46億米ドルに達しました。今後、IMARCGroupは、市場は2028年までに63億米ドルに達し、2022~2028年の成長率CAGRは5.4%になると予測しています。これは、トコフェロールの需要が増えていることを示しており、市場拡大の期待度は高いと言えます。
(MixedTocopherolsMarketGlobalIndustryTrends,Share,Size,Growth,OpportunityandForecast2023-2028)

3.BHT代替品トコフェロールの課題

BHTをトコフェロールに置き換えるにはいくつかの課題があります。

  • コスト:トコフェロールはBHTよりも高価で、メーカーの生産コストを増加させる可能性があります。

  • トコフェロールの酸化安定性:最適保管をしないと酸化し易く、抗酸化特性を失う可能性があります。

  • トコフェロールを生産する為の原料であるバイオマス製品の入手可能性:世界のトコフェロール供給の殆どは大豆油から由来で、大豆アレルギーのある消費者には不適切です。
    従ってヒマワリ油やナタネ油等、トコフェロール生産のための代替バイオマス源を見つけることが必要になっています。

4.トコフェロールの将来展望

これらの課題にもかかわらず、トコフェロールへの置き換えに着目されているのは、規制当局によって安全と認められている天然の抗酸化物質であり、様々な消費者製品の安全性を向上させる可能性があるからです。さらに、バイオマス製品をトコフェロール生産の原料として使用することで、より持続可能で環境に優しい産業の発展に寄与すると考えられているからです。


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