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金属・鉄鋼・建築業における出荷前・製品製造工程での外観検査にAIを活用した事例と課題

製造業(金属・鉄鋼・建築)における、出荷前・製品製造工程での外観検査は高度化の要求が高まっております。
特に出荷前・製造工程において、目視・触診等での外観検査を行っている企業では、人員確保の難しさ、ベテラン検査技師の技術・技能伝承が進まない状況下で、検査にかかる負荷は年々増加しています。

現在、目視や触診など所謂五感に依存している検査業務に、AI技術を活用することできないかと考えている企業は少なくないと思います。
一方、AIを活用した外観検査製品は、高額、導入までの期間が長い、社内にIT技術の基盤がない、設備導入による費用対効果やなどの理由で、導入を躊躇してしまい、現状の問題から脱却できない状況が続いています。

そこで今回は、AIを用いた最新の検査技術を紹介し、導入に当たっての課題やポイントをまとめてみます。


1.製造工程検査と出荷前検査でのAI活用事例

  1. 日立の鉄鋼生産向けAIソリューション:特に鉄鋼・非鉄金属業の検査合理化・効率化に対して、様々なソリューションを提供しています。データとAIを活用して、プラント生産計画の最適化を通じて業務効率を向上させています。

  2. CanvasAI:鉄鋼業の高効率化と業務最適化を実現するAIソリューションを提供しています。製品外観欠陥の特定と分類を実行します。更に品質管理や保全合理化にもAIを活用し、コスト削減、品質向上、設備保全に役立っています。

  3. GoogleCloudのVisualInspectionAI:このソリューションは、AIとコンピュータビジョンテクノロジーを使用して目視検査タスクを自動化し、メーカーが製品の欠陥を自動的に検出できるようにします。これは、AIではなく、その分野の専門家である品質、テスト、製造、プロセスエンジニアのニーズを満たすために開発されました。このソリューションは主要な使用例を念頭に置いて設計されており、使いやすい。複数のGoogleCloud顧客が実施した本番環境テストでは、VisualInspectionAIの使用により、一般的な機械学習アプローチと比較して最大10倍の精度向上が得られました。

  4. MicroAIのAI対応欠陥検出ソリューション:このソリューションは、コンピュータービジョンと深層学習モデルを使用して、小型コンポーネントの様々な種類の異常を検出及び識別します。コンポーネントのグループの複数の画像を撮影し、それらを前処理し、光学検査システムを使用してそれらの形状、サイズ、その他の特性をそれぞれ分析します。AIMachineVisionInspectionSoftware:2016年に韓国の製造プロセスに導入されたソリューションで、主にカメラデバイスを用いた工程検査を強化しており、その画像解析にも多くの実績をあげています。

  5. 建設におけるAI:建設PJが予算をより適切に評価し、スケジュールの遅れを特定し、必要に応じてリソースを再割り当てできるようにするAIソリューションで、これはプロジェクトをより効率的に管理するのに役立ちます。

★その他にも、作業工程に沿ったAIソリューションが多数提供されていますので、もしお困りの具体的案件がございましたら、コメントを頂ければご紹介致します。

2.製造業の中小企業(SME)で外観検査におけるAI技術の導入が遅れている理由

前項にて、AI技術を用いた外観検査ソリューションが多く提供されていることをまとめましたが、中小企業で導入が進んでいかない理由は、いくつか考えられますが、実務経験上の印象も含めて、『導入が遅れている理由』を以下に挙げてみます。

  1. データ文化の欠如:中小企業には、データに基づいた意思決定を重視する文化が欠けていることがよくあります。

  2. 高コスト:AIを活用した品質管理システムの導入には、初期投資が多額になる可能性があります。

  3. ITインフラストラクチャの欠如:中小企業には、AIテクノロジーをサポートするために必要なITインフラストラクチャが不足していることがよくあります。

  4. 不透明な投資収益率:AIプロジェクトの投資収益率は殆ど見えないことがよくあります。

  5. 風評リスクと法的リスク:AIの使用は風評リスクと法的リスクを引き起こす可能性があります。

  6. ITスキルの欠如:中小企業では、AIシステムの実装と管理に必要な現場従業員のITスキルが不足している可能性があります。

  7. 導入期間が長い:AIソリューションの導入に必要な時間が、中小企業にとっての阻害要因となる可能性があります。

  8. 低い費用対効果:AIソリューションの費用対効果は、中小企業にとって、特に事業規模が小さい場合には明らかではない可能性があります。

これらの課題にもかかわらず、精度の向上、処理速度の高速化、運用効率の向上など、外観検査におけるAIの潜在的な利点はとても大きいです。
AIテクノロジーが進化し続け、よりアクセスしやすくなるにつれて、より多くの中小企業がこれらのソリューションを導入し始める可能性があります。

3.製造業の中小企業(SME)にとって利用しやすいAI技術とは

中小企業がAI技術を取り込むために、先入観も含めハードルを少しでも低くすることが大事です。あまり大掛かりなソリューションを導入することなく『知らないうちにAIを活用していた』といった、比較的利用しやすいAI技術をまとめてみます。
これらは、現在の業務の延長線上に存在していることが多いので、『小さく始めて、大きく育てる』コンセプトに合致しやすい内容です。

  1. 生成AI:生成AIは既に社会生活に浸透しはじめており、更なる進歩により、より小さなパッケージでより優れたパフォーマンスを達成することが目標とされています。

  2. AI駆動設計ソフトウェア:このソフトウェアはAIを使用して、設計基準に基づいて設計ソリューションを自動的に生成します。

  3. AIを活用した予知保全:このテクノロジーは、メーカーが機能する機器がいつ故障するか、または故障するかどうかを予測するのに役立ちます。

  4. 在庫管理におけるAI:AIは、様々な販売チャネルからの様々な注文方式を処理し、購入リクエストを自動的に発行し、注文と在庫管理の透明性を向上させることができます。

  5. 品質管理におけるAI:AIベースの品質保証システムは、マシンビジョンとディープラーニングアルゴリズムを使用して製品を検査し、欠陥を特定します。

  6. 低コストのAIソリューション:中小企業向けに特に費用対効果が高いように設計されたAIソリューションが利用可能です。これらのソリューションは、簡素化されたインターフェイス、既存システムとの簡単な統合、柔軟な価格設定モデルなど、中小企業のニーズに合わせた様々な機能を提供することがよくあります。

  7. AI対応ERPシステム:AI機能が組み込まれたエンタープライズリソースプランニング(ERP)システムは、中小企業の業務の合理化に役立ちます。これらのシステムは、日常的なタスクを自動化し、意思決定のための洞察を提供し、様々なビジネス機能全体の効率を向上させることができます。

  8. サプライチェーン管理におけるAI:AIは、需要の予測、輸送ルートの最適化、在庫管理により、中小企業がサプライチェーンを最適化するのに役立ちます。これにより、大幅なコスト削減と顧客サービスの向上につながる可能性があります。

  9. 品質管理用のAI:品質管理プロセスを自動化できるAIソリューションは、大規模な手動検査を実行するリソースを持たない中小企業にとって特に役立ちます。これらのソリューションは製品の欠陥や異常を検出し、一貫した品質の確保に役立ちます。

  10. AIによる予知保全:AIを使用して機器が故障する可能性を予測し、予防的にメンテナンスを計画できるようにします。これにより、中小企業はコストのかかるダウンタイムを回避し、機器の寿命を延ばすことができます。

これらのテクノロジーは進化し、より利用しやすくなっているため、製造業の中小企業がAIを導入し、そのメリットを享受することが容易になっています。

4.製造業におけるAI技術のその他活用シーン

AI技術は製造業において幅広い用途に活用されています。
上述は外観検査を中心にお話ししましたが、ここで紹介するのは、その他の活用シーンでのAI技術についてです。

  1. 予知保全:AI技術を使用して、センサーデータを分析することで潜在的なダウンタイムや事故を特定します。AIシステムは、メーカーが機能する機器がいつ故障するかを予測し、故障が発生する前にメンテナンスや修理のスケジュールを立てるのに役立ちます。

  2. ジェネレーティブデザイン:ジェネレーティブデザインは、機械学習アルゴリズムを使用して、エンジニアのデザインアプローチを模倣します。設計者またはエンジニアは、設計パラメータ(材料、サイズ、重量、強度、製造方法、コスト制約など)をジェネレーティブデザインソフトウェアに入力すると、ソフトウェアはそれらのパラメータを使用して作成できるすべての結果を提供します。

  3. 原材料の価格予測:原材料の極端な価格変動は、メーカーにとって常に課題となっています。AIは原材料の価格の予測に役立ち、製造業者の計画と予算編成を支援します。

  4. 自動品質管理:コンピュータービジョンは、高解像度カメラを使用して生産のあらゆる段階を観察するテクノロジーであり、AIの助けを借りて、人間の目では見逃してしまう可能性のある欠陥を特定できます。これにより、メーカーは問題を迅速に検出し、製品の出荷前に修正できるため、製品のリコールや廃棄が減少します。

  5. 在庫管理:製造ロボットまたはAIベースのテクノロジーは、メーカーが注文をより効率的に管理するのに役立ちます。例えば、様々な販売チャネルからの様々な注文タイプを処理し、購入リクエストを自動的に発行し、在庫追跡センサーを使用して注文と在庫管理の透明性を向上させることができます。

  6. 自律型ロボット:AIは人間の介入なしで生産ラインを実行し、経験から学習して時間の経過とともに改善するために使用されます。複雑な製品を組み立て、センサーデータを分析することで機器の故障を予測/防止し、ダウンタイムや修理コストを削減し、作業者の安全性を向上させることができます。

  7. サプライチェーンの最適化:AIは、需要と供給の予測、輸送ルートの最適化、在庫管理によってサプライチェーンの最適化に役立ちます。

  8. 安全警告:AIは、職場の潜在的な危険を認識し、コンポーネントの注文を自動化し、作業者を誘導するために使用されます。産業用人工知能は、情報を分析し、実用的な文書やコミュニケーションで伝達するためにも使用されます。

これらは、製造業におけるAIの活用例のほんの一例です。可能性は無限にあり、テクノロジーの進歩とともに成長し続けます。

5.製造業におけるAIの活用のメリットは

AI技術を導入するメリットが明確にならないと、費用対効果や生産性・品質向上のイメージを作りにくいと思います。本章では、製造業に多くのメリットをもたらしますので、AI活用のメリットを示します。

  1. 生産性の向上:AIは計算とコーディングを簡素化し、最も困難な数学的問題の負担を軽減します。これらの機能は自動的に実行されるか、様々なレベルの経験を持つエンジニアがワークフローを加速するために活用でき、ユーザーフレンドリーで、場合によってはノーコードツールにまとめられます。実際、AIアプリケーションは重要な洞察を提供し、反復的なプロセスを自動化することで、従業員の生産性を全体的に向上させることができます。

  2. 効率的で革新的な設計プロセス(ジェネレーティブデザイン):AIは、生産レベルの設計を独立して提供できるソフトウェアを推進します。設計者またはエンジニアは、設計パラメータ(材料、サイズ、重量、強度、製造方法、コスト制約など)をジェネレーティブデザインソフトウェアに入力すると、ソフトウェアはそれらのパラメータを使用して作成できるすべての結果を提供します。

  3. 予知保全・予防保全:AIテクノロジーを使用して、センサーデータを分析することで潜在的なダウンタイムや事故を特定します。AIシステムは、メーカーが機能する機器がいつ故障するか、故障するかどうかを予測するのに役立ち、故障が発生する前にメンテナンスや修理のスケジュールを立てることができます。

  4. 品質管理:AIは、製造プロセスの初期段階で欠陥や問題を特定することにより、製品の品質の向上に役立ちます。

  5. 在庫管理と需要予測:AIは在庫管理と需要予測に役立ち、過剰生産または生産不足の可能性を低減できます。

  6. 工場レイアウトのシミュレーション:AIは工場レイアウトのシミュレーションに役立ち、作業者の動線やラインや倉庫レイアウトなどを含め、製造プロセスの最適化に役立ちます。

  7. コストの削減:AIは様々なプロセスを最適化することでコストの削減に役立ち、コスト削減につながります。

  8. 安全性の強化:AIは潜在的な危険を特定し、事故を防止することで安全性の向上に役立ちます。

これらの利点は、製造業に変革をもたらし、生産性の向上、経費の削減、品質の向上、ダウンタイムの短縮につながる可能性があります。

6.製造業でAIを使用する場合の課題は

一方、製造業にAIを導入すると、実際にいくつかの課題が生じる可能性があります。いままでの導入実績から、いくつかの課題をピックアップしてみます。

  1. AI機能と運用ニーズの不一致:AIソリューションは、製造部門の特定の運用ニーズと必ずしも一致するとは限りません。

  2. 戦略的アプローチとリーダーシップのコミュニケーションの欠如:AIの導入を成功させるには、戦略的アプローチとリーダーシップからの明確なコミュニケーションが必要です。

  3. AIと運用の交差点におけるスキルの不足:AIの導入を管理及びサポートするために必要なスキルが不足している可能性があります。

  4. データへのアクセス、管理、統合における運用上の困難:AIシステムは大量のデータへのアクセスを必要とし、このデータの管理と統合は困難な場合があります。

  5. システムの相互運用性の欠如:システムは同じ企業内でもローカル及びグローバルに異なる場合があり、1つのエコシステム内で常に連携するとは限りません。これらのシステムはAIソリューションの重要なコンポーネントであるデータを生成するため、システムの相互運用性の欠如はAIを導入する際の障害となる可能性があります。

  6. 倫理的懸念:将来のAIシステムが安全で信頼できる方法で開発及び使用されるようにすることは、大きな課題です。

  7. 非常に複雑で資本集約的なプロセス:AI導入プロセスは非常に複雑で、時間がかかり、資本集約的であり、成功するためには包括的で体系的なアプローチが必要です。

  8. データの品質の確保:AI はモデルとアルゴリズムを使用して仕事を遂行します。 アプリケーションに関係なく、これらのモデルの核心はデータです。

  9. 投資の障害:AI の実装には初期投資が高額になる可能性があります。

  10. 文化的な抵抗:新しいテクノロジーを採用することに対して組織内で抵抗が生じる場合があります。

  11. 不適切なトレーニング:適切なトレーニングが不足すると、AI の効果的な実装が妨げられる可能性があります。

  12. サイバー攻撃に対する脆弱性:AI がより高度になり普及するにつれて、サイバー攻撃に対する脆弱性が高まります 。

導入を成功させ、製造分野でAIの可能性を最大限に活用するには、これらの課題に対処する必要があります。

7.(参考)ジェネレーティブデザインとは

余談ですが、5−2項で触れましたジェネレーティブデザインは、目標とパラメータに基づいて3Dジオメトリが作成される、ソフトウェア主導の反復デザインプロセスです。このソフトウェアはAI主導のアルゴリズムを使用し、パフォーマンス要件を満たすかそれを超える最適化されたジオメトリを作成します。

ジェネレーティブデザインの例をいくつか示します。

  1. オートデスクのトロントオフィス:オートデスクのトロントオフィスは、実際のジェネレーティブデザインの代表的な例です。オートデスクが2017年に新しいオフィスビルを発表したとき、これはその規模のオフィスとしては初のAI設計オフィスでした。オフィスは3つのフロアにまたがり、総面積は60,000平方フィートです。

  2. エアバスのキャビンパーティション:エアバスは、ジェネレーティブデザインを使用して、A320航空機のキャビンパーティションを作成しました。パーティションは軽量であったため、燃料が大幅に節約されました。エアバスの計算によれば、この軽量パーティションがA320のすべての客室パーティションに使用された場合、航空機の重量は453kg以上削減され、年間166トンのCO2排出量の削減につながる可能性があります。

  3. 家具デザイン:ジェネレーティブデザインは家具デザインの分野でも使用されます。これにより、デザイナーは、複雑な設計上の問題を解決しながら、家具のレイアウトに関する新しい独創的なソリューションを考案することができます。

  4. トロントのMaRsイノベーション地区:これは、建築におけるジェネレーティブデザインのもう1つの例です。この地区は、スペースのレイアウトと使用法を最適化するために、ジェネレーティブデザインの原則を使用して設計されました。

これらの例は、ジェネレーティブデザインがどのようにデザイン目標の達成、効率の向上、イノベーションの促進に役立つかを示しています。

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