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日本語教育事情in韓国①

こんにちは。今回のイラストは、川中紀行さまの素敵なイラストを使わせていただきました。いつもありがとうございます。ハっと考えさせられるようなメッセージが好きで、noteの記事もいつも楽しみにしております^^↓↓


 2009年から2021年6月まで、良いご縁に恵まれ、韓国にて日本語教育に携わることができました。人格的にも全くなっていないこんな私ですが、同僚の先生方のご助言および激励、そして学生たちの熱意と明るい笑顔に救われながら、ここまでやってこられたと思っています。この方々が私のnoteをご覧になることはないと思いますが^^;でも、もう一度自分自身に言い聞かせたいので、この場をお借りして感謝の意を表することにします!!

ありがとうございます。

楽しかった。楽しかった。良い想い出でいっぱいです。

日本語教師の役割

 「日本語教師」という職について、自覚しなければならないこと。それは、「日本語」を単に教えるだけにとどまらない、私たちは「日本」を代表する「親善大使」なのだということ。

 学生たちは先生を通して「日本」を感じます。良いことも悪いこともです。知識を教授することに集中することは大事ですが、学生への接し方、授業中のちょっとした無駄話、相手の国を尊重する態度。これら全てから、彼らは「日本」と「日本人」を感じているのです。「感じる」というと、軽んじられやすいですが、私は、価値観を形成するうえで、とても重要なファクターだと確信しています。10年と少しという短い期間ではありましたが、私はそのことを身に染みて思わされました。

韓国で日本語を教えるということ

「日本語を学ぶということ」それは、韓国人にとって以前の敵国だった国の言葉を習うことであり、80年代頃までは「親日」として軽蔑される雰囲気だったんだと、同僚である韓国人の先生がおっしゃっていたことが、私にとっては衝撃でした。

 私は、日本統治による困難な時代を経験された戦中生まれの方々を祖父母に持つ、韓国人学生に接しました。また、大学で開講される社会人(シニアの方々が多い)向けの日本語授業も担当しました。授業中、日本人の歴史観や現在まで解決できていない歴史認識問題について、日本人である私に意見を求める学生は少なくありませんでした。授業とは直接関係がないので、その話はやめましょうとストップをかけることも可能です。しかし、韓国の方々の思いも分かっていたため、深くのめり込まない程度にお話をするように心がけました。その中で、強く感じたこと。それは、私が、日本による統治時代、日本が韓半島の地でどんな事をしてきたのかという史実にいかに無知であるかということでした。

 自国が関係する史事なのに。恥ずかしさを感じましたし、そんな私を見て、彼らはどう思うだろう。「私だけが無知な奴だ」と思ってくれればいいのですが、そうではないかも知れない。日本人が誤解されると思い、文化センターへ行き、歴史を学びました。そして、多くの韓国人がまだまだ自分事として反日感情を持っていることも悟りました。

 そのことを踏まえながら、私は韓国にて日本語教育に携わってきました。ある方に、こんな提案を受けたことがあります。韓国の英語授業では、学生たちが英語圏の名前(スティーブ、ジェニファーなど)をニックネームとして作り、授業時、お互いをニックネームで呼び合うことが多いのですが、日本語の授業でも、日本人の名前でニックネームを作るのはどうか?というのです。私も、これまで考えなかったことではありませんでした。日本のジャニーズやアイドル、アニメに関心を持っている韓国人学生は少数ではありませんので、喜ばれるかもしれない。

 しかし、、、こんなことも思うのです。日本の歴史教育でも習い、良く知られている日本統治時代の同化政策のひとつである「創氏改名」のことを。家系を重んじる彼らに家の名を捨てさせ、日本名を名乗らせる行為が、精神的な屈辱を与えたのは言うまでもありません。このことを思うと、私の心ない提案で、傷つく学生がいるかもしれない。戦争を知らない戦後世代だから大丈夫だよ、若い人は日本文化好きな人多いしね^^などと軽く考えない方がいいです。

 若い人でも日本統治時代を含む近代歴史教育を徹底的に受けていますから、日本への負の感情があります。反面、漫画やアニメなどの日本文化を子供のころに楽しんできた世代なので、日本に親近感を持ってはいますが、それとこれとは、話が別です。「歴史」として片をつけてしまうには、時期尚早であり、韓国で日本語教育に携わる人は、日本統治時代、文禄慶長の役などの日本が関わる韓国の歴史についての知識をきちんと備え、配慮することが大事です。

 学生だけでなく、社会人に教える機会がある人だと、日韓歴史に関する質問を受けることも度々です。(例えば、慰安婦問題、歴史認識の違いなどなど)質問と議論を持ちかけられた際は、無視せず、自分の意見を簡略に述べることができるようにしておきましょう。対韓国人なので、ついつい韓国側に迎合するような物言いをしがちですが、過剰にそうする必要もないと思います。韓国人は議論における考え方の違いで、人間関係が気まずくなることは少ないです。(激しい口論に発展すれば、気まずくなりますが)

 歴史をきちんと学んだうえでの日本人としての考えや思いを簡略に述べることができればいいのですが、もし、歴史?よく分からん。という方々。だからといって、日本のマスコミ記事やツイッターで見かけた意見をそのまま述べることだけはやめましょう。「勉強不足ですみません、今度お話ししましょう」と正直に伝えることが良いです。言葉の使い方で誤解を生んでしまう可能性もありますので、ここは慎重に。

 韓国だけでなく、どんな国で日本語を教えるにしても、私たち教師は日本人の代表として、日本が関係している歴史や、その国の人が持っている日本へのイメージなどを前もって知り配慮することが、最低限のマナーだと私は考えています。

 ここまで読まれると、じゃあ、なぜ韓国には日本語学習者が多いの?と思われる方いらっしゃいますよね^^その理由についてお話します。

日本語を学ぶ理由

 韓国にビジネスなどの理由で出張されたことある方は多いでしょう。取引先の韓国人のうち、おそらく大半の方が英語ではなく日本語で話されたのではないでしょうか。韓国に先駆けて、高度経済成長を遂げた日本。経済的な面で見ると日本は強国。そんな日本とビジネスの関係を上手く築くために、また多くの日本企業も韓国に進出していることもあって、日本語はビジネスのためのツールとして高く評価されていました。大学にも日本語学科が多く設けられ、2000年代の前半頃までは日本語が上手いという理由だけで、就職できていました。こういった理由で、日本語は英語とともに人気がありました。

 「ありました」と過去形にしたのには理由があります。日本のバブル崩壊とともに訪れた長期の景気沈滞時期、反面、韓国の経済発展や中国の台頭などの理由で、「日本語」のスペックとしての地位が下がってきているのです。しかし、若い人の中には、幼い頃からアニメや漫画などの日本文化に触れてきたことから日本に関心を持ち、日本語を学び始める人もたくさんいることはいます。(日本のアニメパワーはすごい^^)

日本語教育の需要

 「日本語」を生業として生きていくんだと決めた場合、大学で日本語を専攻するわけですが、学費の高い韓国では、自分だけの意志で決めるのにはハードルが高いのが実状です。100%優良企業に就職できるという確率が低くなれば、親に反対されます。その点で見ると、先にも述べた通り、日本語は強力なスペックではなくなったので、第一専攻として選ばれにくい項目なのです。現在、語学分野において人気のある専攻は、やはり「中国語」です。そこにプラス日本語もできますよ!であれば、就職率は高まるでしょう。ちなみに英語は「基本」です^^

 こういった背景から、「日本語学部・学科」の人気は低下傾向です。少子化の進んでいる韓国では、大学の生存競争も激しくなってきていますので、国立以外の大学は、就職率を高めるため、企業や社会のニーズに合った学部体系を構成しようとします。結果、学部・学科の再編をすることになるのですが、残念ながら「日本語」は規模縮小、他と合併、閉設の対象になってきています。(地方都市では特に)この状況は、大学だけではありません。以前は、日本語を専門とした日本語学校もたくさんありましたが、現在は中国語クラスを新設しているところが多いです。

 では日本文化に興味を持ち個人的に日本語を学んでいる韓国人らは、どこで学ぶか?高い学費を払って塾に通ったりする人は少なくなりました。韓国語と日本語。実は共通点の多い兄弟的な関係であるため(語順、格助詞、漢字語、形容詞動詞の形態変化など)韓国人にとっては日本語は他の言語より習得し易い。(逆に日本人にとっても韓国語は習得し易い。)よって、ちまたに溢れているYouTubeや独学用の教材をつかい独学で学んでいる人が多いのが実情です。(日本語教育関連ユーチューバーさんたちの教えるレベルもすごいです^^)最近では、日本語は独学で、中国語は塾に通って学ぶというケースが増えてきています。


 長くなりそうなので、今回はここまでにします^^次回は、韓国での日本語教師事情についてお話したいと思います!

 

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