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法とデザインの可能性 Part 3 ——「法と制約のデザイン」(稲葉貴志)

この記事は、イベントレポートの Part 3 として、わたくし稲葉貴志が発表した内容を紹介していきたいと思います。

簡単に自己紹介ですが、私はもともと学生時代に山崎和彦先生(当時千葉工業大学教授、現武蔵野美術大学教授)の研究室でユーザー調査と発想法に関する研究をしていました。社会人になってから広告制作会社、事業会社を経て、今は5社目の株式会社エクサウィザーズ(所在地:東京都港区浜松町一丁目18番16号住友浜松町ビル5階)で働いています。このイベントの開催時は GVA TECH株式会社(所在地:東京都渋谷区千駄ヶ谷5-15-6)で働いていました。

元々GVA TECHで働いた理由でもあるデザイン×リーガルで何かやりたいなと思い、山崎先生に話をしに行き、一緒に産学連携の取り組みを始めたのが最初になります。産学連携自体は1年で終了しましたが、その後もプライベートの時間を通して山崎先生と平塚さんと自分で研究を進めてました。その一環としてこの市ヶ谷法務店が始まりました。

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法とデザインの関わり

法のデザインは、リチャード・ブキャナン氏(Richard Buchanan)デザインの1次領域〜4次領域まで全てにおいてデザインが活用できると考えています。例えば制約のデザイン、行動変容のデザイン、文化のデザイン、ビジョンのデザイン、共創のデザイン、サービスデザイン、ビジュアルデザインと捉えることが可能です。

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リチャード・ブキャナン氏はデザイン界隈で言われている「厄介な問題」を広めた人です。

もっと詳しく知りたい人は以下の記事が分かりやすいでおすすめです。

ローレンス・レッシグのCODE VERSION2.0

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まずは最初に、『CODE VERSION2.0』から行為の4つの制約原理について紹介しました。この本はアメリカの憲法学者であるローレンス・レッシグ(Lawrence Lessig)氏が、サイバー空間の規制のあり方や民主主義について記した本です。また、ローレンス・レッシグ氏はクリエイティブ・コモンズを立ち上げた人でもあります。その『CODE VERSION2.0』でレッシグ氏は行為の制約について、法、社会規範、市場、アーキテクチャがあると指摘しています。

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上記の例をタバコの規制に当てはめると以下になります。
01 法:未成年者喫煙禁止法、喫煙場所の指定
02 規範:他人の車に乗っている時は他の乗客の了承をがないとタバコに人つけてはいけない
03 市場:タバコの値段、品質
04 アーキテクチャ:自販機へのタスポ(taspo)設置

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ナッジ (nudge)

さらに、制約のデザインにおいてナッジというものがあります。ナッジのコンセプトは、リチャード・セイラー(Richard H. Thaler)氏とキャス・サンスティーン(Cass R. Sunstein)氏により提唱されました(リチャード・セイラー氏は経済学者で、キャス・サンスティーン氏は法学者です。)。

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日本もナッジの取組みを行っており、環境省に日本版のナッジユニットである「BEST」が設置されています。

日本版ナッジ・ユニット BEST では、私たちのより良い選択の実現のために、一人ひとりの価値観を尊重したアプローチによる「良いナッジ」の推進と「悪いナッジ」の排除について、何が良い・悪いか、誰にとって良い・悪いかを含めた倫理的な配慮の検討と併せて議論を重ねているところです。
出典:日本版ナッジ・ユニット(BEST)について 平成29・30年度年次報告書

資料の中に事例等についても紹介されているので興味のある人はご覧ください。また、地域行政にも広がりを見せており、尼崎市横浜市など、多くの事例があります。横浜市のナッジユニットである「YBiT」は国内で一番最初に自治体に設立されたナッジユニットでもあります。

ナッジの思想としては、リバタリアン・パターナリズムに基づいており、『実践行動経済学』のなかでは、リバタリアン・パターナリズムは従来のパターナリズムと比較して弱く、ソフトで押しつけ的ではない形のパターナリズムである、選択の自由が妨げられているわけでも、選択肢が制限されているわけでも、選択が大きな負担になるわけでもない、と記しています。
リバタリアン・パターナリズムとはリチャード・セイラー氏とキャス・サンスティーン氏よる造語であり、リバタリアン〔※平塚注:自由至上主義者のこと。リベラル派と比較して特に経済的自由の重要性を説く立場である。〕とパターナリズム〔※平塚注:父権主義のこと。父が子に対して「おまえのためなんだ」と言い聞かせて子の行動を統制する様相とのアナロジーから用いられることが多い。他律によってもたらされる本人利益の重視に対する批判的な用語であり、一般的には自由主義や自律的個人観、リバタリアニズムと相反する立場となる。〕が組み合わさったものです。
長くなるのでまとめると、ナッジとは以下のように言うことができます。

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他にもドナルド・ノーマン(Donald A. Norman)氏の『誰のためのデザイン? 増補・改訂版』で説明している、4つの制約(物理的な制約、意味的な制約、文化的な制約、論理的な制約)について紹介しました。4つの制約それぞれをまとめると以下になります。

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そこから、それぞれ3つのアーキテクチャが規制している領域について説明を行いました。
ローレンス・レッシグ氏のアーキテクチャキャス・サンスティーン氏の選択アーキテクチャドナルド・ノーマン氏の物理的な制約の大きな違いは以下になります。意識しているのか、意識外なのかがポイントになってきます。

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また、ドナルド・ノーマン氏は『エモーショナル・デザイン―微笑を誘うモノたちのために』の中で認知とデザインをそれぞれ3つの段階(内省レベル、行動レベル、本能レベル)に分けて考えることができると言っています。

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先に説明したアーキテクチャがどの領域の有効なのかを考えていくことで効果的に規制のデザインを行うことができるのではないだろうかという話をさせていただきました。
以上が発表した内容になります。


省略している部分も多々あるので興味のる方は資料をUPしているのでぜひ見てみてください。





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