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エジプト神話 トト神


こちらは1997年出版の、とある本からの抜粋です。Wikipediaとは内容が若干違いますが、数ある考察の一部として参考にして頂けたら幸いです。

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トトの名の起源は、「ジェフウトのもの」(エジプト語)というのが有力だそう。またの名をヘルメス、トリスメギストス(ギリシア語)。トリスメギストスとは「三度偉大なもの、(神々の中で)最も偉大なもの」という意味になる。

我はトト・・・我の口から出るものは全てラーの為として実現する。我はインク皿と葦筆(カラム)の主人。我はマアートを書くもの。我は時の主人。

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■神話

トトは宇宙創成神話と「遠方の女神」の神話に属している。「遠方の女神」の神話には、トト=オヌリスとシュウによって連れ戻されるラーの目、あるいはセトによって奪われるが所有者に返還され、《満たされて》癒されるホルスの目の遍歴が語られている。この伝説は新月と満月を詩的に表現したものである。

セトとホルスの争いから、トトの誕生に関する奇妙な説明が生まれた。セトは好物の野菜を食べるとき、それと知らずにホルスが食物に混ぜておいたホルスの精液を飲み込んでしまった。トトはこのホモセクシャルな受精によって生まれたもので、「二人の領主の息子、セトの額から出たもの」である。なぜなら、トトは妊娠したセトの額から生まれたからである。通常とは異なる場所から誕生するというテーマは、多くの神話に見られる。セト自身はヌトの腰から出てくるし、アテナはゼウスの頭から生まれ、トトと同じく全ての知識を身に付けていた。他の宇宙的な伝説によると、トトはオシリスを《鳥の罠の家》か《月の家》で網を使って捕らえた後、自らの庇護のもとに置いたとされている。

この物語では、闇の世界の主人であるオシリスは夜の天体と同一視されており、それを保護して再生させなければならない。というのも、月の満ち欠けは、絶えず更新される生命のシンボルだからである。

■外観

古帝国時代以降、トトは大多数の形象において、神々の大盾の上にとまった朱鷲(トキ、イビス、ヒヒ)の形で表現された。また朱鷲頭の男性と現れる事もあるが、この男性は時々複合王冠のアテフをかぶっている。

図像としては稀だが、かなり後の時代になると、完全な人身像、ライオンやライオン頭を持つ男性として示された。

トトの2つ目の主要な外観は、マントヒヒの外観である。まれに猿の頭を持つ男性として示される。

標識は、神聖な道具、つまり書記のインク皿と葦筆、パピルスの巻き物、ウジャトの目、水時計、そして神々が持つ全ての標識である。大気という元素は、この神の性質に最も良く対応している。その色は朱鷲の色である、黒、白、赤である。

■信仰

トトの主要な信仰の場所は、上エジプト第15ノモスのヘルモポリス(現在のアシュムネイン)、マグナで、トトはそこにいくつもの神殿を持っていた。そこで八柱の創造の神々のグループの首座に座っていた。トトはラーの心臓、プタハから出た朱鷺、タテネンの舌、その名を隠しているものの喉、などと表現される。

トト信仰はエジプト全土に広がっており、主神としてであれ補完的な神としてであれ、トト信仰を持たない神殿は無かった。新帝国時代にはエジプトを超えて南の地方へと信仰が広まった。

トトの祭儀は、年の初めに祝われ、1年の最初の月はこの神の名前が与えられる程重要であった。トトは「時の主人、遠方のものを連れ戻したもの」なので、1年の扉を開くという訳である。メンフィスの元日は、現代の歴7月19日頃で、洪水の到来と一致している。トトの大祭はトト月19日にエジプト全土で行われ、それと同時にワアグ祭という星の祭儀が行われる。その翌日はハトホル=テフヌトのヌビアからの帰還を讃えて酒酔いの祭となった。メンフィスの儀式では、トトに肉の供物が掲げられ、《穏やかなるマアート》の加護を祈りながら無花果の蜜を食べたようである。

■同族関係

トトの主要な聖域では、トトは造物神であり、他の神によって創造されたものでは無い。彼は「石の息子、卵から生まれたもの」であり、この卵はそこからあらゆる生命が生まれる原初の卵である。

彼の妻はネヘメト=アウイ女神で、彼女はトトに息子のホルネフィル(ネフィロス)をもたらした。ヘルモポリスでは、トトが導入される以前に、へジュ=ウルという猿神が祀られていた。この「白い偉大なもの」は完全にトトに吸収されていった。おそらくヒヒの外観をトトに与えたと思われる。トトの形容詞である「5人の中で最も偉大なもの」はベジュ=ウル信仰と関係があるとされる。一方、トトがソプドゥウと関係付られるが戦闘的な性格の起源は分からない。

トトは「フヌム(八神の町)の主」であるため、もちろん「八神の長」である。この称号は、無秩序な物質を表す4組の原初の夫婦神を暗示する。それらの夫婦神は、男性は蛙、女性は蛇の姿で描かれる。1組目の夫婦は、原初の海であるヌンとその女性配偶神ナウネトからなっている。次に現れるのは、無限の空間と時を表すフウとハウヘト。それに続いて闇の要素であるククとカウケト。4組目の夫婦については、伝承や時代や場所によっていくつか名と権能がある。否定と無(非存在の意味において)はニアウと二アウトの名で表され、それらは欠乏(肉体的および精神的)のゲレフとゲルヘト、あるいは消滅と虚無を象徴するテネムとテネメトに取って代わられることがある。更に、アモンとアマウネトは、隠されたもの、測り知れないもの、神秘的なもの全て表現している。この最後の夫婦は、アモンがエジプト最強の神になった時代に彼の古さと先在性を強調するために導入されたと思われる。

新帝国時代以降、トトの親子関係は変化した。まず第一に、トトはラーの息子とみなされた。サイス時代には、サイスとエルメントの神殿において、母としてネイト女神が付与された。また、ヌトの息子とみなされる事もあった。

トトの役割によっては、シュウ、オヌリス、ソカリス、アヌビス、ソプドゥウ、ホンス、イアー、シア、シャイ、女神ではセシャト(新帝国時代ではトトの妹あるいは娘)アヌケト、さらに神秘的な陪神としてマアートにも関連づけられた。

■役割

その大きな口からこぼれ落ちる創造の言葉によって、物質を秩序立て、宇宙を創造し、宇宙の機能の法則を作り上げた。その法則は、知識を擬人化したものであるシアのおかげで、トトの心臓(古代エジプト人にとって知性の宿る所)で考え出される。「八神の筆頭者」であるトトは、全ての潜在的な力を保有しており、それらを目覚めさせて彼の偉大な計画に組み込むのである。

そうした活動によって、トトは言葉の発明者、知性の神となった。宇宙の構造は、あらゆる変化や誤った解釈から守るために書き留めておかなければならない。そこでトトは書くことを発明し「時の始まりから最初に書いたもの」となった。

トトは「万物を計算するもの」であり、全ての知識の保管者なのである。書記たちはトトの加護を祈るのでトトの弟子とみなされた。古代エジプトの極めて階層的な官僚主義的な社会において「ラーの宰相」であるトトは、王国の高官達の手本となった。

トトの知識は道徳にも適用される。「マアートを書くもの」であり、人間の社会だけでなく神々の社会の倫理的な規則を定めるからである。トトがこうせいかの女神マアートとどれほど結び付いているか示す為に「マアートの雄牛」という形容語が与えられる。トトはマアートと共に、公正でバランスの取れた善きもの全ての本質を創造するのである。

計算と時の主人。トトは、「年を数えるもの」「年と月をさらに細かく分けるもの」なので、やはり月の神である。従ってトトは暦も担当している。トトは月と将棋(セネト)を指して5日間の閏日を勝ち取ったが、その閏日のおかげでヌトは子供たちを産むことが出来たのである。しかしこの分野においてトトがひどい失敗をおかしたことに変わりなく、歴の混乱に対して書記たちの不平不満は絶えなかった。神聖テキストもそれを暗示しており、天体の運行を混乱させたとしてトトを避難している。それでもトトはやはり「星の雄牛」「天空の大きな雄牛」なのである。こうした不都合が生じるのは固定した公式な太陽暦に閏年が無かった事によるものである。

トトは数学の発明者だからその数学においても分数の分野でいくつか予想外の事態を用意した。ウジャトの目を分割した各部分は分数を記すのに使われるが、それらを合計しても、64分の1足りないのである。神話によると、トトは太陽と月のシンボルであるホルスの目を補完したり、満たしたり、癒したりする。おそらく、自分がずっと関係しているこの分数の秘密を守ろうとしたのだろう。このように、太陽の目に数値の不足が隠されてる事と、古いテキストのあるくだりで、「マアートの主人」であるにも関わらずトトを泥棒呼ばわりしたり、ラーの財産を掠め取ったと避難している事との間には、何か関係があるのかも知れない。

いずれにしても目を治療する事から、トトは医者の信用を勝ち取り、後代にはほかの神々や神格化された賢人(イムヘテプ、アメンヘテプ)と共に、医者の守護神となった。ヌビアのダンドゥール神殿のトトは、棒の周りに蠍と蛇の巻き付いたウアス笏を握っている。この標識はギリシアの医神アクレピオスの杖[杖の束に1匹の蛇が絡みつき、上に深慮の鏡がつく]の原型と見る事が出来る。

重さと長さはトトが申し分なく厳正に作り上げたものである。王の腕尺[約50センチ]は朱鷺の歩幅の長さと考えられた。従ってトトはセシャトと共に神殿建立の儀式を監督するのに適任である。

同じ理由からトトは神々とその息子であるファラオの古文書保管人でもある。その為、戴冠式のとき、ホルスとセトと共にファラオを清めた後セシャトの補佐を受けて、聖木イシェドの葉に王の偉大な名を記入しながら《在位期間が百万年、何百年と続くなんじの年代記を授ける》とファラオに告げる。そのよき知らせを伝える為、鳥たちが四基本方位に放たれる。トトの朱鷺はホルスの4人の息子の1人であるケベンセヌフと同一視され西へ飛んでいく。更にトトは「神々の使者」である。

トトはセトの代わりに《セマア=タウイ》つまり上下エジプトである2つの土地の結合の儀式に登場する事がある。トトは賢く器用でマアートの原理を託されているため、神の法廷に座を占め神々の国宝尚書であり、判事であり、必要あらば「ラーの書記」にもなる。トトは特にホルスとセトの果てしない争いと戦いに介入するので、彼らの巧妙な朝廷者「2人の戦士を分けるもの」である。しかしながら、この活動が更に大きく位置付られるのは、象徴的な宇宙の次元においてである。

トトの公平さは来世にも広まる。トトはオシリスと最後の審判を下すオシリスの法廷の42人の判事の元へ死者を導く。魂の計量(プシコスタジー)の結果はマアートの立ち会いもと、トトによって記録される。合格ならば、死者は《声の正しきもの》と認められ、オシリスの王国に迎え入れられる。トトは死者を見捨てる事は無い。「神々の祭司兼読経僧」としてオシリスに対してそうしたように、ミイラ化の儀式を見守った後、生命の伊吹を死者に与える。というのも、彼は他の全ての秘書の書物と同じく『呼吸の書の著者』であるからである。こうした全知によって、トトは「魔法の主人」であり、人々は彼の神託を求めた。彼は「知るもの、翌日知らせるもの、誤りを犯さずに未来を読み取るもの」なのである。カスール・エル=アグースの小神殿では、トトの信奉者達が「話を聞くトト」に心を開いて語りかけた。

トトの宇宙的な側面はとくに重要である。月の神の性格を持つ事からラーと結び付けられ、夜のラーの反映、「天空の先触れ」として、ラーに取って代わることもある。

彼はラーの船に乗っており、そこでセトの代わりを務める事もあるが、太陽の敵達の殺し方は独特で、魔法の言葉を使って彼らを真っ二つに切る。ピラミッド・テキストにはもう、トトのこの好戦的な役割が言及されているが、トトはラーだけでなくエジプトの国境も守る。ソプドゥウに味方して「アジア人と異国の領主を打ち負かす殺の主人」である。ヌビアでは、プヌブスのトトが持つ戦いの神の性格が強調された。この地方では慢性的に反乱が起きていることからいって、これは別に驚くべき事ではない。

月のトトはこのヌビアからウジャトの目を運ぶものとしてエジプトに戻った。つまり彼は「天空にいるもの」であり、「ホルスの目は、イアーの家にいて彼の両手の上にある」。この隠喩は月の満ち欠けに関係している。トトは月の保証人であり、この夜の天体は時を月に分ける。同様にして太陽は昼と夜の交替にリズムをつけ、1年のサイクルを決定する。1年のサイクルの始まりは、ソティスが朝ラーに先立って、再び勝ち誇るように出現する現象によって示される。


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