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京都芸大(グラフィックデザイン)卒業制作 vol.1

今年度は、芸大の卒業に向けて、卒業制作をしていました。
制作過程をnoteに書こうと思っていたけれど、それどころではなくあっという間に卒業審査が終わり、振り返りのレポートを書いたので、
約1年のグラフィックデザインの総まとめとしてレポートを転載しようと思う。


研究テーマ:社会的処方としての茶道を広げる

本来、茶の湯は非日常空間でゆったりとした気持ちで、集まった人たちが心を通わせあう場であり、年齢や性別、人種、身分などを超えて、互いに相手を思いやり茶を一緒に楽しむ心がそこにある。このような茶の湯のコンセプト(精神)は「和敬清寂」で表され、侘び寂びの精神だけではなく、人と人の和を重んじる総合芸術であり、茶室の中には、人と人が心を通わせ合う仕掛けが随所に織り込まれている。
しかし、現在の一般的な茶の湯のイメージは、女性の教養として、堅苦しい作法を学ぶ場、高級で古めかしいものとして認識されていることが多く、本来のコンセプトが伝わっていないと考えられる。



一方で、現代社会は、地域コミュニティが崩壊し、社会的孤立・孤独による貧困や虐待、鬱や自殺や健康問題など様々な弊害が顕になり、社会問題となっている。この社会的孤立・孤独を解決する手立てとして、「人との繋がり、地域との繋がり」が重要であるとされている。



この「人との繋がり、地域との繋がり」は公衆衛生学分野では、「社会的処方」と呼び、病気を治す方法として、原因に対する薬を処方するのではなく、その病気になって根本的な原因として上流にある「社会的孤独・孤立」に対してアプローチすることを「社会的処方」と定義している。イギリスから様々な活動が始まり、日本でも各地で活動が始まっている。
 この元来、茶道が持つ「人と人が心を通わせ合う場」に立ち返ると、現代病である「社会的孤立・孤独」に対して、茶道が社会的処方になるのではないか、と考えた。
 多くの茶の湯を知らない人たちに、茶の湯をより身近に感じられるデザインを行うことで、茶の湯が持つ「人と人が心を通わせ合う場」が広がり、社会的処方として機能することを目指した。

コンセプト

どこでも、誰とでも。 楽しく、心を癒す茶道

茶道が元来持つ精神である「年齢や性別、人種、身分などを超えて、互いに相手を思いやり茶を一緒に楽しむ心」が、現代病である「社会的孤独・孤立」に対する「社会的処方」として機能すると考え、茶道をより身近で楽しいものと感じられるようデザインし、茶道が身近でない人たちに茶道が広まることで、色々な人が茶道を通じて繋がることができることを目指した。
茶道が身近ではない若者をメインターゲットに、茶道を堅苦しいものではなく、楽しいものと感じられるような面白みのあるデザインを目指した。若者の中では、銭湯やサウナ、70年代音楽などレトロブームがあるため、レトロポップな世界観を意識した。また、茶道は孤独を癒す薬というメッセージが伝わるよう、薬局のような世界観も織り込んだ。

完成に至るまでのプロセス

最初の発端のアイデア(アイデア1)社会的処方としての茶道
茶の湯の持つ「和敬清寂」の精神や、「且坐喫茶《しゃざきっさ》」“まあ、お茶でも飲んでいきなされ。さあさあお掛けになって。なにはともあれ、ゆっくり休んでいきましょうか。のんびりでもいいよね。”、といった精神は、現代社会の病である「社会的孤立・孤独」にアプローチする手段、すなわち社会的処方として有効ではないか?

リサーチ1 背景知識を深める
Key word ①: コミュニティ・デザインについて
Key word ②: 茶道の精神や歴史について
Key word ③: 社会的処方について

Key word ①: コミュニティ・デザインについて

コミュニティ・デザインについては、コーヒーを街中で無償で振る舞うという活動をしている田中元子さんの著書「マイパブリックとグランドレベル」が目指す社会的処方としての茶の湯のヒントになると感じた。全く知らないもの同士が、コーヒーを通じてコミュニケーションが広がる喜びをモチベーションに作者は活動を続けており、それが発展して自分の好きなものを屋台にして披露するというワークショップやイベントも実施していることを参考に、京都の鴨川で茶の湯をしてはどうか、そこで人を惹きつけるデザインをしてはどうかというアイデアが出た。
さらに抹茶を通じたコミュニケーションを実践している取り組みを探し、抹茶を提供するバーや、鴨川でのカジュアルな茶の湯を実践しているプロジェクトを発見。

Key word ②: 茶道の精神や歴史について


改めて、茶道について歴史やその精神について調べ直す。

そもそもは、薬として使用していた抹茶が、中国からの宝物を愛でる娯楽となり、戦国時代に千利休が侘び茶を大成したのち約500年その形がほぼ変わらず受け継がれている。茶の湯を楽しむユーザーが時代により変遷し、戦国武将といった限られた富裕層から江戸時代には大衆娯楽となっていき、明治時代には財界人の数寄者に愛され、一旦廃れたのちに、女性の教養として広がり、最近では海外の人やビジネスパーソンのマインドフルネスとして受け入れられ始めている。これらから、現代は、コーヒー文化と比較して、茶の湯は若年層や一般的な大衆からは遠い存在となっていることがわかった。また、茶道の持つ心への作用だけでなく、抹茶の体への健康効果についてもリサーチした。

Key word ③: 社会的処方について

研究テーマに記載の通り、社会的処方についてリサーチした。この分野は元々著者の専門分野のため今回は深掘りしていない。