『誕生日!』春風亭㐂いち

「なんだぃ八つあん?」
「この間、熊の野郎が誕生日だったんですよ」
「そうだったらしいね」
「んで町内の連中で祝ってやったんですがね、あっしはどうも納得がいかねぇんすよ」
「何が?」
「いやだってね、みんな『おめでとう、おめでとう』って言ってますけど、いったい何がめでたいんですかね?誕生日ってのは。年を取るのがそんなめでたい事なんですかね?」
「はぁはぁ、熊さんは今年でいくつになるんだぃ?」
「あっしと同い歳ですから、二十七です」
「そりゃめでたいじゃないか」
「なんで?」
「だってお前さん、考えてもごらんよ。この世に生まれて二十七年間もの間、無事に生きてこれたんだからね。そりゃめでたいじゃない」
「でも赤ん坊も祝うでしょ?あれはなんで祝うんですか?二十七年も生きてねぇのに」
「そりゃ赤ん坊、赤ちゃんは生まれ来て『おめでとう』じゃないか」
「はぁはぁ、なるほど。産まれたての赤ん坊はそうですけどね。じゃあ一歳の赤ん坊は?別に生まれたてでも無いしね、まだ一歳だから大して生きてもねぇし」
「小さい子供ってぇのは病気にかかりやすいでしょ?無事一歳を迎えられて良かったね、の『おめでとう』だよ」
「あぁ~なるほど。じゃあ十五、六は?何がめでたいの?」
「だから大きく育って良かったね、だよ」
「ヘェ~。じゃあ隠居さんは?」
「なんだぃ?」
「隠居さんは誕生日で何がめでたいの?」
「まだ死なないで良かったね、だよ」
「別にもうそろそろ死んだ方がね、、、、」
「なんてこと言うんだぃ」
「でも人間いつかは死ぬじゃねぇすか」
「そうだね」
「死んだら悲しいですよね」
「まぁ悲しいね」
「ということはですよ、誕生日のたびに『おめでとう、おめでとう』だなんて祝ってたって、いつか死ぬんだから」
「そうだね」
「死んだら死んだで悲しいでしょ」
「そうだね」
「、、、これハッピーエンドにならねぇですね」
「ま、そうだね」
「いいんですか?ハッピーエンドじゃなくて」
「いいんじゃない別に」
「、、、でもやっぱりハッピーエンドの方がいいんじゃねぇすかね?終わり良ければすべて良しっていうじゃねぇっすか」
「うん。でもそもそも私はハッピーエンドが嫌いだからね」
「ヘぇ~隠居さんハッピーエンド嫌いですか?」
「嫌いだよ、芝浜なんか大嫌いだ、あんな話。あの後またアル中になって死ぬとかならいいね」
「あぁバッドエンドだ」
「バッドエンドがいいね、バッドエンドが。それにああいう人情噺って説教くさいんだよ、それが嫌だね」
「はぁ~なるほどねぇ。ということはですよ、どっちみち死ぬんならバッドエンドってことですかね?」
「そうだね、どのみち人間なんてバッドエンドだね」
「でも隠居さんはバッドエンドがいいんですもんね」
「私はバッドエンドが好きだからね」
「じゃあ隠居さんにとってはバッドエンドがハッピーエンドですね」
「なんだぃ?」
「だからバッドエンドが好きな隠居さんからすると、それがハッピーエンドですよね?」
「、、、そうだね。良かったよ最後死ねるんだから。悲しくて。あぁ良かった良かった幸せ幸せ」
「いいんですかハッピーエンドで?」
「うん、こんなバッドなハッピーエンドはないからね。誕生日が来るたびにバッドエンドに近づけるんだから、こんなめでたい事はない」


2020.5.23

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