『人質司法』 春風亭㐂いち

小学校4年の時、学校でカードゲームが流行っていた。
「マジックザギャザリング」というカードゲームだ。
所謂、遊戯王とかの元祖的なもので今でも駅の広告などで見かけることがある。
クラスの男子は大概やっていた。
クリーチャーとか呪文とか色々なカードを駆使して相手をやっつける対戦型カードゲーム。
1万7千種類もあるカードにはそのカード独自の能力が書いてある。
文章の読解力がない私は雰囲気でやっていた。正直ルールもよく分かっていなかった。
でもみんながやっていたから私もやってる風でありたかった。
カードは貰ったり交換したり買ったりして集める。
デッキや数枚入りのパックを買うと当たり外れがある。今でいうスマホゲームのガチャ。
だからみんな専門店に行き自分が欲しいカードを高値で買ったりしていた。
しかし、そんな子供がカードを売買するのは勿論禁止だった。
それでも店としては一番のご贔屓ということもあり、それを黙認していた。
だから結局お小遣いを持っている奴が強かった。
Hくんという子がいた。
彼もマジックザギャザリングをやっていたクラスメイトだ。
彼はお父さんが弁護士をやっているとかでとても大きな家に住んでいてお小遣いも沢山持っている子だった。
その時期よくみんなでHくんの家に集まってマジックザギャザリングで遊んでいた。
Hくんは自分の思い通りにならないと癇癪を起こすような子だった。
そのためみんな気を使って接していた。
Hくん宅に行けばお菓子もジュースもプレステもあるし、色んな意味で彼に気を使っていた。
Hくんはよく専門店に連れて行かせれカードを買い占めさせられていた。

マジックザギャザリングは学校中で流行っていた。主に高学年である5、6年生。
小学校の校則なんて無いようものだった。主に担任の先生が自分のクラスのルールを決めていたので、そのクラスごとに決まりが違っていた。
6年生のクラスほとんどがマジックザギャザリングを学校に持ってきても良いことになっていた。私のクラスは雨の日だけ持ってきても良いことになっていた。
ある日、学校行事の準備で我々4年生は6年生の教室にいた。
6年生の机の中にはマジックザギャザリングのデッキが入っていた。
準備が終わり自分達のクラスに戻るとHくんがマジックザギャザリングを持っていた。
拾った、と言っていた。
それからちょくちょくHくんは放課後になると6年生のクラスに入ってマジックザギャザリングを拾ってきた。
私もクラスもみんなもHくんに真似てマジックザギャザリングを拾ってくるようになった。
すぐにこれは問題となり、学校側は犯人探しを始め、誰かがチクったのだろう我々は御用となった。
一人一人呼ばれ部屋に入ると担任、校長、教頭、6年の担任、誰か分からない大人が沢山いた。
どういう経緯だったかを聞かれ答えると「あいつは違うことを言っていたぞ」と言われる。
私は「拾った」と言った。どこでどのように?と聞かれると「覚えてない」と答えた。そして「そんなわけないだろ!」と怒鳴られる。これを繰り返した。
そして最終的に「お父さん、お母さんに来てもらう事になるぞ」と脅され、結局親を呼ばれるというお決まりのパターンだった。
今思うと、とにかく大人達は「落ちていたのを拾ったのではなく、机の引き出しにあったマジックザギャザリングを盗んだ」と子供に言わせたかったのだ。
私以外のみんなは親が学校に来て、一緒に帰っていった。
私は「拾った」と言い続けたので親は呼ばれなかった。
しかし、家に着く頃は夜になっていた。
Hくんはというと大人たちに囲まれた時点で癇癪が出てしまい泡を吹いてそのまま倒れたので家に帰されたと聞いた。
後々、誰がチクったかを密かに調べ、それがHくんであったと分かった。
彼は最初にマジックザギャザリングを「拾って」きてしまい、それをみんなが真似し出して、それが学校中の問題になり、耐えきれなくなり自分で先生に相談して、泡を吹いたのだ。
現在、彼は立派な会計士になったらしい。

2020.1.11

来週は与いちです。

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