『ガリンペイロ』 春風亭貫いち

ある染物屋の店先に客がやって参りましてーー
ペドロ「オイ……オイ…………オイッ!!」

熊五郎「はい、今行きますよーーお待たせしました…えっ、外人さん?何かご用ですか?」

ペ「オイ!ムイト プラゼール」

熊「は?」

ペ「ムイト プラゼール」

熊「麦とプラレール?そりゃ面白そうですね~麦畑の真ん中でプラレールで遊ぶのは」

ペ「ナウン、ナウン……ムイト プラゼール……はじめまして」

熊「あぁ~これはご丁寧に…で、あなた誰です?」

ペ「メウ ノーミ エ ペドロ」

熊「えっ?」

ペ「メウ ノーミ エ ペドロ」

熊「…………そうですか…いい名前ですね」

ペ「オブリガード」

熊「いぶりがっこ?」

ペ「ナウン、ありがと…ございます。ワタシ、ジャポネーゼ…日本語…難しい。日本…ヒッコシ、キタ」

熊「引越しーーあぁ~~っ!!裏の長屋に越してきた人か。へぇ~~なるほどね、今朝から火事でもねぇのに大八が行ったり来たりしてたから何かなと思ってたら、あんたが越してきたのか。それで何の用です?」

ペ「ココ シンジール トコロ キイタ。ワタシ ノ イルマォ・マイス・ノーヴォ アンドレ ブラジル イマス。エリ エム ガリンペイロ。コノ トアラ ポルハボール シンジール トアラ。エリ スキ ドルアード。ドルアード ジャポネーゼ …………金」

熊「……何言ってるかさっぱり分からねぇ……もう一回お願いします」

ペ「?」

熊「もう一回 (人差し指を出す)」

ペ「ココ シンジール トコロ キイタ。ワタシ ノ イルマォ・マイス・ノーヴォ アンドレ ブラジル イマス。エリ エム ガリンペイロ。コノ トアラ ポルハボール シンジール トアラ。エリ スキ ドルアード。ドルアード ジャポネーゼ …………金」

熊「……二度聞いてもまるで分からねぇ……どうしよう」

親方「おぅ!熊、店先で何してんだ?お客様を待たせるな」

熊「あっ、親方。こちらの方が何言ってるかさっぱり分からねぇんです」

親「んなこたぁねぇだろ、同じ日本人――…じゃねぇのか。はい、お客様お待たせしました。ご要件は?」

ペ「ココ シンジール トコロ キイタ。ワタシ ノ イルマォ・マイス・ノーヴォ アンドレ ブラジル イマス。エリ エム ガリンペイロ。コノ トアラ ポルハボール シンジール トアラ。エリ スキ ドルアード。ドルアード ジャポネーゼ …………金」

親「…………まるで分からねぇ……もう一度」

ペ「エウ エスターヴァ コンサードっ!!」

熊「親方、この人少しお怒りですよ。手ぬぐいみたいなのを投げてきました」

親「うるせぇ見りゃ分かるわ……お客様、少々お待ちください
熊、何だあの野郎は?」

熊「何でも裏長屋に越してきた…蚤のヘドロって名前らしいです」

親「蚤のヘドロ?汚ぇ名前だな」

熊「えぇ、だからあっしも綺麗な顔して汚いお名前ですねって言いそうになりました」

親「客にそんな口のきき方があるか!それで何だって?」

熊「そっからがさっぱりなんですよ。『ココ シンジール トコロ』って言うんですよ。信じる所は寺か神社か教会でしょ?」

親「そうだな。誰がどう見たってウチは染物屋だろうな」

熊「それでアンドレって人がブラジルにいるらしいです」

親「それで?」

熊「それでまた信じる信じる言いながら、この手ぬぐいみたいなものを渡してきたんですよ」

親「…………分かったぞ!!」

熊「親方、本当ですか?」

親「あぁ間違いねぇ!その手ぬぐいを、ブラジルのアンドレさんに祝儀に送ってやろうってんだ。それでウチに染めてくれるよう来たんだろ。信じる信じるってのは『お前ぇたちの腕を信じてるんだから、よろしく頼むぜ』ってことじゃねぇか?最後に『金』って言ってたろ?アレは金ならあるからいいものを頼むぜってことだろ」

熊「親方、流石ですね」

親「しかし弱ったな……肝心の色が分からねぇ」

熊「あっ、それなら大丈夫です。ガリンペイロ、ガリンペイロって言ってたので、ガリンペ色に染めて欲しいんですよ」

親「何だ、ガリンペ色ってのは?」

熊「多分、外国にある色なんじゃないですかね?ガリって言葉が入ってますから多分黄色系ですよ」

親「黄色なぁ……とりあえずやってみるか」

さぁこれから二人は作業に取り掛かります。とりあえず黄色に染めてみようかという話になりましてーー日本には草木染という方法がございまして、ステンレス製の鍋に色の原料と水を入れて沸かし、濾すことで染料をつくる方法です。キハダという木の樹皮を使うと綺麗な黄色が出るのですが、熊さん、キハダと間違えて菜種油色の出る玉ねぎの皮を入れてしまいましてーー


親「馬鹿野郎!何で玉ねぎの皮入れたんだ!?」

熊「だって入れたら飴色も作れるかなって思って」

ペ「ダイジョブ デスカ?」

親「あっ!ヘドロさん」

ペ「ヘドロ チガイマス。ペドロです。デキタ ノ デスカ?」

親「すいません、黄色に染めようかと思ったのですが、この野郎が馬鹿やって菜種油色にしてしまって…これじゃまるで金色ですよね。今やり直します」

ペ「ダイジョブ デース。アンドレ ガリンペイロ……金 ガ ダイスキデス」

2021.3.20

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?