【超短編】第11話 寝ても覚めても

悪夢を見た。

目が覚めた。

ベッドの側に『そいつ』はいた。真っ黒で、こどものフォルムをして立っている。

俺はベッドから出ると、彼女にメールを打った。まだ朝早かったが、彼女からはすぐに返事が来た。
返事を確認すると、俺はジーンズとTシャツに着替え、スマートフォンをポケットに押し込んだ。

『そいつ』はそんな俺を黙って見つめている・・・気がした。真っ黒で目がどこにあるかもわからないが、俺が部屋で移動する度に、『そいつ』の関心がこちらに向いているのを感じた。

俺は部屋を出て、エレベーターに乗った。『そいつ』は静かについて来て、エレベーターで俺の隣に並んだ。
エレベーターが降下する。
誰かが乗ってこなければいいが・・・けれど、多分他の人には『そいつ』は見えないのだろうな、と思う。エレベーターの中にはひどく疲れた様子の男がひとり乗っているだけなのだろう。

マンションのエントランスを出て、俺は空を見上げた。
太陽は十分に昇っていた。顔も洗っていない俺の目に光が突き刺さる。

後ろをふりむくと、『そいつ』は真っ黒な細かい粉になって、サラサラと地面に崩れた。
びゅん、と強い風が吹き、その粉は飛散した。

スマートフォンがポケットで震えた。彼女からのメールがきていた。
俺は返事をした。

『ゆうちゃんの言うとおり、たいていの夢は陽の光で消えるんだな』

俺はそのままコンビニへと足を向けた。

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